35. 兄妹
やがて戻ってきたクスートは、心配そうに眉をよせて口を開く。
「……後で食べるって。体調が悪いわけじゃなさそうだけど」
「残ってる保障はないけどね」
「わかってるはずだよ。さ、食べよう」
大きなテーブルでも、子供たちがすわるとぎゅうぎゅうになった。
「こっちこっち」とビビにうながされて、ニィカは彼女の左どなり、四角いテーブルの長い辺のはしにすわる。
がやがやとにぎやかな食卓のなかでも、マルシャがひときわ大きな声を出す。
「きょうは新しいこどもが増えたの。ニィカよ」
ぱちくりとした目がいっせいに向けられて、ニィカはすこし居心地悪くなった。
「オレがつれてきたんだぞ」
アーロスが胸を張る。
「バネンズ、バニータ、いろいろ教えてあげてね」
マルシャのほほえみの先、ニィカから見て左ななめには、身を寄せあうように座るきょうだいらしい二人がいた。左側にすわる年下の女の子は、ほんのわずかにうなずくように首を動かす。その顔に痛々しいやけどのあとが赤く残り、右目がふさがっているのを見て、ニィカは思わず息をのんだ。
彼女のとなりに座る、ニィカよりすこしだけ幼く見える男の子は、口を引き結んだままじろりとニィカを見た。
おなかの中がひんやりとして、思わず目をそらす。
「いろんなやつがいるけど……、ニィカもすぐになじめるはずさ。わからないことがあったらなんでも聞いて」
ほがらかな声色をつくってクスートが言う。やっとのことで「うん」と返事をしたときには、もう子供たちは騒々しく食事に手をつけていた。
この家にいるのは、男の子が九人、女の子がニィカを入れて六人のようだ。
「女の子が来てくれてうれしい!」とビビが声をはずませる。
「もう何人かは知ってるだろうけど」と前置いて、彼女は全員の名前を教えてくれた。
「あたしのとなりから、タイン、ヤシト」
ひとつ空いた椅子があり、ビビの指先がテーブルの角をまがった。
「あのちびっこがルーヴェ、そのとなりがクスート。いちおう、今いる中ではいちばん年上かな。アーロスは知ってるでしょ」
ビビの手が、ニィカのちょうど斜め向かいの角にいる女の子をさした。
「あっちの甘えんぼうがサラ、おとなしいのがタラ。マルシャが面倒を見てくれてる。マルシャは女の子の中ではいちばん年上。で、ジーンにトイゴイ」
トイゴイとよばれた少年は口いっぱいに食べ物をほおばりながらも、ビビの声に「ん?」とこたえた。
「ほっぺに葉っぱついてる、トイゴイ。で、バニータとバネンズ。ニィカが来る前は、あのふたりがいちばんの新入りだったの」
バニータとバネンズは、さきほどまでと変わらず、ぴたりと寄り添って黙々と夕食を口にはこんでいた。
「これで、ぐるっと一周。……あ、そうそう、いま部屋にいるのはスイ。いつもはそっちの、バネンズのとなりの席に座ってるんだけど」
ニィカは頭を必死にはたらかせて、新しく入ってきたたくさんの名前をおぼえようとした。目を白黒させるニィカを見て、ビビが笑う。
「まあ、そのうち覚えられるって。……もう、ひっぱらないでよ、タイン」
ビビが右に座る少年をにらむ。くるくるとした黒髪が伸びた子だった。
「ケルーノわすれてる」
彼はビビをまっすぐに見上げ、すこしたどたどしく言った。
「帰ってきてから紹介すればいいでしょ。ほら、こぼさないの」
ビビがタインの世話を焼きはじめる。ニィカは固さの残るかぶをかみながら、子供たちを見渡していた。