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ニィカ!  作者: 稲見晶
第二章 塀の町イセファー
27/115

27. 馬車の中のニィカ

 ニィカ=アロアーラは不機嫌だった。


 外に出られないばかりか、景色を見ることもできずに馬車にゆられつづけて。

 赤いマントを身につけた騎士が話し相手兼お目付役として、ときどき入れ替わりながらニィカの向かいにすわる。みんな似たようなかっこうの男の人で、顔も名前もおぼえられない。


 最初のうちは、旅の行き先についてわからないことをあれこれと尋ねていた。

「ねえ、ロシレイってどんな国なの?」

「……ええと、いいところですよ」

「どんなふうに?」

 騎士はこまったような顔をした。

「その、いろんな国から人が集まって、いろいろな研究をしているそうです」

「いろんなって? あたしはそこでなにをするの?」

「ロシレイに行くということは、おそらく学生になるのでしょうね」

「学生ってなに? 修道僧みたいなひとのこと?」

「行けばわかりますよ。心配しなくてもだいじょうぶです」

 次に入ってきた騎士に同じようなことを質問しても、返ってくるのは似たりよったりのからっぽな答えだった。


 みんな、あたしのことをなんにも知らないこどもだって思ってるんだ。

 退屈してしまったニィカは、質問をだんだんとわがままに切りかえた。

 外を見たい、お菓子が食べたい、暑い、家に帰りたい、そんなことを気まぐれに言った。心から言っているわけではなくて、ただすこし目の前の人たちを困らせたかっただけだ。

 おろおろとニィカのごきげんをとろうとする大人たちに、ほんのちょっぴり気が晴れた。けれどもすぐにまたつまらなくなった。

 ニィカがわがままを言うと、騎士たちはますますニィカのことを「こども」としてあつかうようになるのだ。

 そのことに気づいてからは、ニィカはもう、騎士が話しかけてくるのにみじかく返事をするほかは、ぶすっとほおをふくらませていた。


 それでも騎士たちがニィカを叱ることはなかった。

 もしもあたしの中に「特別なもの」がいなかったら、きっとこの人たちはあたしのことなんか、ちっともかまってくれないんだろう。それどころか、あたしはまだパパとママが死んじゃったことも知らずに、家でひとりで留守番をつづけていたかもしれない。

 ニィカはじぶんの身を抱くように、ぎゅっと体をちぢめた。


「さあ、もうすぐイセファーですよ。イセファーを出るともうドルジャッドです」

「うん」

「イセファーの町のはしには、すごく高くて長い塀があるんですよ。この国を守るための、だいじな塀です」

 話しかけてきた騎士は、腕をひろげて自慢するような明るい声で言った。

「それ、見られる?」

 彼はさっと表情をくもらせた。

「いや、……すみません」

 たぶんそうだと思っていた。きっとロシレイに着くまではこのまま、狭苦しいところにすわっていないといけないのだろう。


「あまーにぇ にぃか ふれた ざしと ぽとにいた るいーすて」

 パパとママから教わった、「特別なもの」をおとなしくさせておくためのおまじないを唱える。

 少しだけ、頭のなかがすっきりするような気がした。

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