23. 五羽の梟
玉座の目が、第二兵隊の騎士たちから黒梟隊の二人へと、ゆっくりと移動する。
「黒梟隊」
「はっ」
一人分の声。ユーリンガーは沈黙を守っていた。
「そなたらは交替で馬車を護衛せよ。その気配を何者にも気取らせてはならぬ。あの娘にも、だ」
「かしこまりました」
またしても言葉を返したのはギュミルのみだった。国王は気にする様子を見せずにつづける。
「リヒテシオン内の護衛はフリムが行う。街道へ出てからイセファーへ至るまではギュミル、イセファーから国境を越えるまではユーリンガーがつけ。それ以降はディール及びドリカに指示を出している」
ギュミルは返事をし、勅命を頭に叩きこんだ。フリム、ディール、そしてドリカも黒梟隊の騎士だ。一度の任務に五人もの黒梟隊兵をかからせるとは、ますますもって穏やかではない。
「火急の事態に備えるため、護衛を終えても第二兵隊がロシレイから戻るまではその場で待機を続けよ。よいな」
「もちろんでございます」
重々しい声。たいしてユーリンガーはかすかな瞳の上げ下げだけで領諾をしめした。
玉座の間を出てからはこれを他言しないよう厳命し、国王は第二兵隊を、ついでギュミル、ユーリンガーを、それぞれ時間をあけて帰らせた。
ギュミルは通路を歩みながら考える。
隣国ドルジャッドはこの大陸では最大の版図を有する帝国だ。厚い軍備を誇り、陸、海の覇権をともに握っている。
ここリヒティア王国が飲みこまれずにいるのは、この王国をいだく山が天然の要塞として機能しており、さらにその要塞を打ち破るほどのうまみが今のリヒティアにはないためだ。
しかし、もしもドルジャッド軍がひとたびこちらへ剣を向けたならば。悔しいことだが、国土はまたたく間に蹂躙されるだろうと認めざるをえない。
それにしても不可解だ。ドルジャッドはなぜニィカの存在を知っている。そればかりか彼女の居所にまで口を出してくる。
がりがりと頭をかいてギュミルは思案する。どこへ行くともなしに足を進める。体を動かしていないと集中が途切れる。
国王、そして大主教の言動を思い出すに、あの子供が特別なのはどうやら「恩寵」とよばれるもののせいだ。神から下された恵み。事物に加護をあたえる力。
ばかばかしい、と息を吐きだす。ギュミルはそのような力など、ぴくりとも感じたことはない。
ただ、いくらばかばかしく思えたとしても、国王が、大主教が、そして隣国までが、ニィカのその恩寵のために躍起になっている。それならばギュミルは、忠実に淡々と国王の意思に従うまでだ。
このたび課せられたのは、王都から辺境の町までの道中の護衛。ニィカにさえも存在を気付かせないことが肝要だという。
だとすれば、俺があの子供に直接にかかわることはないはずだ。それだけが、任務のなかで唯一楽な点であるように思えた。