17. 三台の馬車
陽光が真上から照りつけるようになるころ、青色をふんだんに使った第三兵隊の馬車を見つけた。王都からいくばくも離れていない街道の上だ。荷馬車のうしろに大きな箱馬車が続いている。
馬上から礼を送り、「止まれ!」と合図をする。ギュミルの駆る馬車も王都に頭をむけて青い馬車の後ろにつけた。
「黒梟隊のギュミルだ。コーデン殿はおられるか」
荷馬車の御者台に座っていた騎士に訊く。彼は唇を閉じたまま首を横にふった。
「ならば今回の指揮を執っていた者に会わせてもらいたい」
騎士はギュミルの姿にあらためて上から下まで視線を走らせ、「お待ちを」と短く言った。
箱馬車の中から出てきたのは、ぴりぴりと神経をとがらせた様子の男だった。そのほかに年若い騎士がひとり、頭を出してこちらの様子をうかがっている。ギュミルの登場に不安と好奇の交じった表情をうかべている。
「ザイエルといいます。……なんのご用でしょう」
今回のリーダーを務めたという男の声は重く暗い。少女を見失った責を考えれば無理もないかもしれない。
「いなくなったという子供を捜す任務を仰せつかった。状況をできる限り教えてほしい」
「……黒梟は人捜しまで請け負うんですか」
皮肉めいた口調だ。おおかたは自身の過ちへのいらだちを他にぶつけたいだけだろう。ギュミルは平然とそれを聞き流す。
沈んだ息を短く吐きだし、ザイエルはしぶしぶと説明をはじめた。
ニィカを連れて、絨毯職人アロア=ジンマール=タンジの家へ赴いたのは第三兵隊の長コーデンから指名された五人の騎士だという。
行きの馬車の中ではニィカはずっと押し黙っていたらしい。その様子を想像するのは、ギュミルにとってはなかなか難しかった。
騎士たちは絨毯などの大きなものを手分けして荷馬車に運びこんでいたそうだ。そのあいだニィカは家のあちこちを動き回っては帳簿や金銭をひとところに集めていたという。
織物を荷に積み、家や工房をほとんど空にして城へもどろうとしたときに、少女の姿が見えないことに気づいた者がいた。
小さな子供とはいえ、がらんとした建物の中には隠れられそうな場所もほとんどない。それにもかかわらず、総出で捜してもニィカは見つからなかった。
第三兵隊は日が落ちるまで捜索をおこない、伝令をひとり飛ばした後にその家で夜を明かした。
翌朝になっても少女が出てくる気配はない。騎士たちは荷物を満載した馬車とともに、いったん王城へ引き返すことにした。その途上が今だ。
ギュミルは彼の言葉にうなずいた。
「外に出て行ったという線はないか」
「いや……、ないでしょう。馬車のそばに必ずひとりはつくようにしていましたから。子供が外でうろうろしていればさすがに気づきます」
「そうか、わかった」
五人がかりで見つけられなかったものを、俺一人が見つけられるものか。ギュミルはがりがりと頭をかいた。
あの子供のことだから、どうせいたずらだろう。どこかとんでもない所にもぐりこんで――。
ふとギュミルの目が馬車の積み荷にとまる。
「あれを開けてみてもいいか」
「絨毯くらいしか入ってませんよ。見たいと言うのならばかまいませんが」
「ああ、そうさせてもらう」
ギュミルは荷馬車の後ろにまわり、上から順に絨毯をとっては広げる。四枚目に手を伸ばしたところで先ほどまでとはちがう手応えがあった。少し迷ったが、それも引き出し、端をつかんでばさりと振った。
「ふぎゃっ!」と水を浴びせられた猫のような声。それと同時に黒髪の子供が転がり落ちてきた。
御者台の上や馬車の中からことの成行きをうかがっていた騎士たちがどよめく。
「……この子は」
「見つかってなによりだ」
絨毯の間に入りこんでいたニィカは、汗だくの顔で不服げに騎士たちを見上げた。