13. 王都リヒテシオン
アルベルトの背の上で、ニィカは頬をふくらませていた。ギュミルは黙って馬を歩かせる。
ニィカの口がもごもごと動く。
「ねえ、お酒もらわなくてよかったの?」
彼女の手には、大人の片手に乗るほどの大きさの袋があった。中にはぎっしりとナツメヤシの実が詰め込まれている。
「ああ」
ギュミルは短くうなずいた。これでこの子が静かになるのなら、彼にとっても麦酒よりありがたい代物だ。それに余ればアルベルトにやることもできる。
「騎士さん、あれ、四枚とも表ってなんでわかったの?」
「当てずっぽうだ。何枚と答えようが変わらんだろう」
ニィカが大げさにため息をついた。あきれた、と言わんばかりだ。
「あたしだったら四枚なんて絶対言わない」
「当たったんだからいいだろう」
うっとうしくなってギュミルはその話を打ち切った。ニィカはなにか言いたそうな様子を見せた後にナツメヤシをもうひとつ口に放りこんだ。
「騎士さんも食べる?」
「結構だ」
時折馬を走らせ、休息を挟み、日が傾きはじめる頃に王都リヒテシオンへと入ることができた。
道沿いでは次々と店じまいが行われている。
ニィカは目を円くしてまわりを見渡している。王都の民も、黒鎧の王国騎士と異国の血を引く幼い少女という組み合わせを物珍しそうに見上げていた。
「騎士さん、あれなに?」
「酒場の看板だ」
「あっちは? なんで野菜を外に積んでるの?」
「売り物だ。あまりきょろきょろするな。王都に来たことがないのか?」
「うん。ねえ、なんでこんなにいっぱい人がいるの? みんな何してるの?」
門をくぐってから口の止まらない少女に、ギュミルはすっかりうんざりしてしまっていた。
「黙ってろと言っただろう。俺はもう何も答えん」
「つまんないの」
ニィカは不満げに体を揺らした。
「落ちるぞ」
ギュミルの言葉にもぶすっとしたまま答えない。彼女が静かになったのを幸いと、彼は白馬を城へと急がせた。
城の前でアルベルトを下り、馬丁に預ける。
小姓に名を告げるとすぐに玉座の間へ向かうよう伝えられた。
「おい、こいつはどうする」
ギュミルはニィカを指してたずねた。彼女の父は王城と取引をしているとはいえ、身分としてはただの平民だ。もし国王にまみえる機会があったとして、謁見の間に通すのが道理のはずだった。
小姓からの返事は「ご一緒に」というものだった。
「そうか」
ニィカに行くぞ、と促す。それが陛下の意向であるのならば、これ以上疑問を抱くこともない。
広い廊下を歩く。ニィカは小さな手でギュミルの袖口を握りしめていた。
「ねえ、どこに行くの?」
ささやくような質問。
「玉座の間だ」
押し殺したような声で短く答える。
「それってなに?」
「国王のおわすところだ」
「王様に会いにいくの?」
驚きにニィカの声が大きくなる。壁に自分の声が反響し、ニィカはびくりと口をつぐんだ。
「そうだろうな」
ニィカはこくりとうなずいてギュミルの袖をますます強く握った。