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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

Walk in his hand

作者: 中嶋真蒔

作戦オペレーション・フェードアサルトを始める。


 そう号令をしたのはインカムから聞こえるアメリカ人男性の声だ。

 彼はおそらくイラク主要都市にある拠点セーフティハウスから米軍UAVの衛星動画を見ながら言っているだろう。

「メタル0-1無線の調子は?」

「問題ない。非常にクリアだ」

 なぜか軽装に小型無線をつけて答えたのは日本人である。残りの3人はアメリカ人なのにどこかおかしい組み合わせだ。身長もこぶし二つ分くらい違う。はっきり言うと場違いだ。

 しかし、そんなことも気にすることもなく3人は、

「0-2良好」「0-3も」「0-4もOK」

 アメリカ人らしいフラットな声色で答える。

 彼らはどうしてこんなにも冷静なのか。


 ここは戦場なのに。


 砂塵舞う荒野のど真ん中、数キロ進むと小さな村があるが、その先にはとある民間軍事組織が陣を張っている。味方以外は容赦なく撃つ彼らは重要貿易港を不法占拠していた。

 そこは石油を取り扱う港で、当然空爆なんてできない。

 しかし、軍を派遣するにもイラク軍では歯が立たず、アメリカ軍はイラクから撤退したばかりだ。再び米軍が来るとなってはそれは国際問題に発展する。


 だから秘密裏に派遣せざる負えなかった。



 阿藤誠一に電話がかかってきたのは学校帰りだった。

 仕事用の携帯がけたたましく鳴ると誠一はうんざりとした顔で通話ボタンを押した。

「はい」

 電話に出た瞬間に自分の名前を言わないのは、仮に敵対組織に番号を知られたときに自分であることを悟られないためだ。無論、秘匿回線を使っているのであまり意味はないが。

「こちら、霞が関よ。元気してた?」

「姫紀か。人違いだ」

「私の名前を言っといてそれ!?」

「今神戸にいるんだ。仕事は代々木か、浅草あたりに任せろよ」

「嘘はいいから。戻ってきなさい、これは命令よ」

「はいはい」

 あんなことを言っているが当然仕事は受ける、否、受けなければならない。それが彼の人生なのだから。


 普通のビルの普通ではない地下にそれはあった。

 作戦室ブリーディングルームでパソコンをいじっていた姫紀は誠一に向き直す。

「今回はお得意様アメリカからの要請よ。この前のあれで評価上がったんじゃない?」

「よしてくれ。折角の学校生活を俺は謳歌したいんだ」

「まぁいいわ。今ニュースになってる、民間軍事組織がペルシャ湾のある港を占拠しているのは知っているよね? そこについてよ」

 パソコンの画面をこちらに見せる。そこには英文で救援要請的なことが書かれていた。

 誠一は最後まで目を通すとアメリカ外交官の名前を見つけた。どうやら本物らしい。

「で、これを俺にやれと?」

 日本に出した要請は一つ。組織のリーダーの暗殺だ。

 リーダーがいなければ組織は空中崩壊する。副リーダーがいるとも限らないが、そこも含めての要請だろう。そして、多分それだけじゃない。

裏要請エクストラボーナスもあるわよ。さっき電話でジョン君と話したの」

「やっぱりか………この前なんか要人護衛のくせに犯人捕まえちゃったし…………」

「じゃあ、こちらも一つ頼もうかな」



 それがこれだ。

 アメリカ軍第一特殊部隊デルタ作戦分遣隊。通称、デルタフォース。

 地上最強の部隊と呼ばれているところから3人とおまけで地上監視用のステルスUAVとオペレーターを借りた。

 作戦を円滑に進めるためである。

 初対面で彼らは名前の聞かずに誠一を嘲笑い始めた。

「おいおいおい。こんな奴とやんのか? 走るだけで置いてっちまうぜ」

「全くさ。きみきみ、英語話せるか?」

 すでにこの扱いになれている彼はとりあえず若干訛りのある英語で答える。

「問題ない。それより君はアレンだったね、ホラーハウスはどうだったかい?」

 なんでそれを知っているんだ? という顔をする。

 ホラーハウスというのは簡単に言えばデルタ部隊の訓練施設である。

「なんでそれを………というか教官のしごきなんて思い出したくないぜ。まったくよぉ」

 3人は自分の内部事情を知る日本人を怪しく思う。それと同時に制圧時間クリアタイムの最高記録が日本人であることを思いだした。

「お前、名前は?」

「阿藤誠一だ」

 8分32秒。2位と5分も差をつけた記録保持者が目の前にいた。


「じゃ、打ち合わせ通りにいくぞ」

 と言った瞬間だった。

 車で近くの村まで行くと、略奪をしていた軍事組織の連中と鉢合わせをしてしまった。

 極秘任務ということで拳銃が一丁しかない。村人と一緒に捕えられてしまった。

 しかし、これは好都合だ。

「コードD。合図は俺が送る」

 誠一は小声で3人に伝える。

 コードDとは、仮に敵に捕まってしまった場合、隙を見て脱出、もしくは逆襲をする隠語だ。

 腕を縛られ、4人ともども村人と共に小屋の中へ。


 ここにいる敵は……3人。いや、4人か。

 外に複数。そんなに多くないはずだ。インカムに拳銃、奪われなかったのは幸いだな。頭悪いのか?


 一か所に集められたということはそのうち殺されるだろう。それまでになんとかしなければならない。

 服の中に潜ませていたナイフで甘く縄を切る。

「なんだてめーら。この村の住人じゃねぇな。旅行者か?」

「違う、戦場カメラマンだ。危害等を加えるつもりはない。解放してくれないか?」

「バカかお前。おい、誰かこいつらの車調べてこい」

「ゼイタさん、こっちの村人犯していいすか?」

 外に居たアサルトライフル持ちの青年は大声で男に言った。

 ところで。人は不意に呼ばれるとつい、そっちを見てしまうものだ。

「ああ、すきにしろ」

 目線が横に逸れた瞬間。チャンスだ。

 目測2メートル。奥、4メートルにタバコを吸っている敵。

 立ち上がりながら縄を引きちぎると、ゼイタと呼ばれた男に突進。鳩尾に一発いれる。こっちを見た敵にナイフを投げた。

「がっ…………」

 頭に命中し、言葉を発することなく絶命する。

 腹を押さえ、うずくまるゼイタの首を力任せに折った。

 目をひん剥き、首を180度回転させた彼は息絶える。

「注意力が足らなさすぎるだろ」

 特殊部隊出身なら当然のサイレントキルをこなし、残りの3人を解放。村人の縄も切ったが、ここの残るように伝えた。

『メタル0-1。車を確認した二人が戻ってくるぞ』

「了解」

 外の敵勢力が不明な以上、感づかれる訳にはいかない。

 ドタドタと警戒心の欠片もない足音をたて、それなりに装備をすると聞こえる特有の音は彼らの耳にも届いた。

「ゼイタさん! こいつらカイエン乗ってきてますよ。多分なんかの………」

 メタル0-2ことアレンとメタル0-3ことオルキットはドアの前に待ち伏せ、入ってきた二人の首を絞めた。さすがのプロだけあって、物音はほとんどせず、声も声帯を抑え、外に漏れることはなかった。

 息絶えた二人を隅に、静かに横たわらせ、拳銃を取る。

「こいつ一著前いっちょまえにデザートイーグルなんてもってやがる。生意気だろ」

「おい。ベルン、剥ぐのは後にしろ」

 アレンがいさめる。窓に身を屈めながら見る外は―――――気付かれていない。

 平地に村が位置しているが、家々のせいで大きく見渡せない。だが………

「おい、敵はどれくらいいる?」

『7人かね………3人は2時の方向で村人の衣服を脱がしているっぽいな。残りの4人は各母屋の備蓄とか漁ってるよ。チャンスだな』

 誠一は考えまでもなく殲滅しか脳内にはなかった。

(クズどもが…………)

 消音器サプレッサーをつけるよう3人に促す。

 彼の懸念事項は村人が無事かどうかだ。この殲滅戦など、デルタ部隊にすれば造作もない。なにより、無関係の人が巻き込まれるのは好きではないのだ。

「メタル0-2はここに残れ。0-3と0-4は2時の3人を殺せ。村人は傷つけんじゃねぇぞ。後は俺がやる」

 誰も依存はなかった。プロというのはそういうものである。



「死亡フラグ立てまーす」

「え、どうしたの?」

「姫紀、帰ってきたら俺と結婚してくれ」

「なっ…………ば、ばか。なにませたこと言ってんのよ高校生ガキが」

 どう見ても……とは言い切れないが、歳の差が見て判るのに誠一の唐突の言葉に彼女は顔を赤らめる。化粧が薄いせいかどうにもはっきりと見える。

「んだよ。独身だろ?」

「そうだけど………って関係ないでしょ! あんたまだ17なんだし」

「つまり18になったらしてくれんだ」

「え、いや、ちょ………す、すすすするわけない! じょ、上司をからかうのも大概にしなさい!」

 ぐぬぬ……と誠一を睨む。

 まだあどけなさがある姫紀が彼は可愛らしく見えた。

 愛おしい。単純にそう思うと無意識のうちに彼女の手を引き、額にキスをした。

「じゃ、行ってくる」

 更に顔を真っ赤にし、声も出ずにいる姫紀を最後に部屋を出た。

 静けさが満ちはじめた作戦室。

 手が、額が、心臓が暖かい。

「…………ばか」



 元々何人からか、装備を鹵獲ろかくするつもりでいた。潜入任務スリップミッションだ。向こうと同じ装備を用意できなくもないが、金と時間がかかる。現地調達が安上がりなのだ。

「血に飢えた戦闘集団が聞いて呆れるぜ」

 一通り剥ぎ終わったアレンが小さくこぼす。M16A2を調整しながら残りの2人も同意する。誠一は興味がないようだ。

「しかし、いい銃使ってんじゃねーか。さすが元、民間軍事会社(PMC)」

弾倉マガジンはどんくらいあるんだ?」

「お、手榴弾グレネードだ。発煙筒スモークグレネードもあるぜ」

「おしゃべりはいい。さっさと行くぞ。俺の予想じゃあ2時間以内終わらせないとヤバイ」

 3人は肩にアサルトライフルを下げ、腰のホルスターにガバメントを入れる。しかし、誠一はベレッタM92だけしか装備しなかった。

「なんでだよ?」

「そのうちわかる」

 村人が何やらお礼のようなことを言っているが、それを無視して車に乗り込む。窓がひび割れていたが、中は荒らされたような形跡はなく、どうやらこの車のガラスが防弾使用と知らずに叩いたようだ。

 ここで二手に分かれる。潜入するには相手の車が必要だ。

 彼らに遺体はどっかに埋めるよう指示して、車両を発進させる。

「ほんとにいいのかよ、そんな作戦で。上手くいくのか?」

 後続のカイエンを一瞥し、運転しながらアレンは尋ねた。

 どうにも一人だけがリスキーになるような作戦は好まないようだ。

 すると誠一はアレンの耳を引っ張ると吹きかけるような声で言う。

「お前は自分の命でも心配しやがれ」


 イッツショータイム。

 誰かがそう言った。あの4人でも姫紀でもない誰かが…………。

「手をあげろ。こいつが死ぬぞ」

 となれば思い当たるのはあいつしかいない。この前も彼を手玉にとって犯人を捕まえさせたあいつだ。

「おいおいおい。俺に人質の価値はないぜ。だって――――――」

「じゃあ死ね」

 敵か味方かもわからない、アメリカのためと言い張り、なんでもする外交官しか……。


 ここは港だ。特に軍事施設としてあるわけもなく、攻め入るにはなんら問題ないはずなのだが、問題があった。地形だ。

 陸路で侵入するには北と北東にある橋を渡らなければならない。そこに小さな機甲部隊を配置しているせいで、正規軍はどうも手をこまねいていた。

「メタル0-4はG1-4の地点で待機。帰りはそっからだから死ぬなよ」

『ばかにすんなよ。わかってるさ』

 検問はすんなり通れて、とりあえず一安心する。

 設定はこうだ。


「俺がまず、日本人ということで捕まった戦場カメラマンとする。アレンは俺を引っ提げてボスのところへ。アメリカのとの二重国籍だと言えば人質になるだろう」

「やったあとはどうすんだよ」

「無論、逃げるさ。オルキットは分かれて破壊工作。多分それなりの無人機ドローンやらBTRやらあると思うが、C4を仕掛けてきてくれ」

「OK」

『メタル0-1。ヘリも2機あるぜ』

「ふむ………それならそっち優先にしようか。ベルンは出口でいつでも車を出せるようにしてくれ。追撃阻害物チェイスバンパーが少ないからある意味一番大変だぞ?」

「もちろんさ、任せな」


 ボスのところに行く前に組織のナンバー2と思われる奴の部屋に招かれてしまったが、相手は少なく、簡単に制圧できてしまった。

「人質の価値がないなら後は死しかないだろう」

「セイイチ、どうせすぐに気付かれる。怖いこと言ってないでさっさと行こう」

「わかったわかった」

 ついでにドアを開けると手榴弾のピンが抜けるよう細工をして応接室を出る。

 無駄に豪奢な部屋だったが血溜りになっては仕方がない。


ボスはどこにいるのか。なるべく怪しまれないようコンビナートを歩くが………

「とすればあそこだな」

 視界には運航指令室が入っていた。

 そこは港に船が入りやすいように高台に設置されたカメラ映像、通信機器、外線を受信するなど言わば港の心臓部である。

 当然、人も多いわけで―――誠一も装備を彼らに合わせたとはいえ、とてもではないが二人で制圧できるわけではない。

 あれこれ悩んでいるとほんの少し前に居た建物のフロアが爆発した。

 ――――――ばれたか。

 と思うのもつかの間。

『おーおービックリした……………あ』

 運航指令室屋上のヘリポートにあったヘリが爆発する。

 もうそこまで入り込んだのかぁとオルキットを感心などしている間はない。

 ボスが隠れる前に…………

『メタル0-1! ボスを発見! 12時の方向だ!』

 そちらに向くと、部下数人に囲まれた中年の男性が階段を降り、地下へ向かおうとしていた。

 わずか20メートル。目があった瞬間、確信した。写真で見たやつだ。

 ゲンベロ・グラハム。特にあたりさわりもない顔つきの奴は二人に本能的な危険を感じたのだろう。

「おい誰か! あいつらをころ――――――」

 額を撃ち抜くと誠一は銃を乱射。部下の数人が被弾する。

「アレン。スモークをはれ! 逃げるぞ。オルキットもだ、お仕置きは後でな」

『Give me a break……』


 スモークに紛れ、北東の出口へ。道中の敵はなんとか誤魔化し切れたが……。

「おい、どこにいく」

 検問の奴らは誤魔化せそうにない。

 アレンがなんとか説得を試みるが、余計怪しまれるだけだろう。

 あ。と言って誠一が指差すと一同が虚空を見る。アレンまで見てどうする。

「ばーか」

 日本語でそう言うとベレッタで3人を瞬殺。残りの2人は合流したオルキットが殺った。

 こんな死体、あと15秒で25メートル先のBTRにばれる。

 発煙筒のピンを抜くとBTRに投げつけた。煙の中では人を視認できない。レーダーでは可能だが、味方の可能性がある限り安直に撃ってこない。


 カイエンまでたどり着くと、事情をオペレーターから聞いたベルンは既に発車できる状態だった。

 しかし、もはや怪しさの塊になった彼ら4人をBTRはものすごい速さで迫ってきた。

 更に、耳を震わせる風の音、破壊し損ねたもう1機のヘリもだ。

「やっべ………。全員乗り込んだか!? いくぞ!」

 自動照準機関銃オートマチックミニガンがカイエンをとらえる。それなりの防弾仕様とはいえ、機関銃とでは木の盾と同じようなものだ。

「くっそ……死んでたまるか…………」

 ヘリまで照準を定めきて、万事休すと思いきやだった。


「やっぱり来たか」


 ヘリとBTRが同時に破壊される。

 上からの着弾、スティンガーと誠一は予想する。

 3人はほっと安堵した。なんせ、ハチの巣にならずに済んだのだ。

『おい、セイイチどういうことだ!? なんで他社(別のPMC)が攻めてくるんだ』

 オペレーターのバンクスは慌てるように言う。そりゃそうだろう。

 作戦と関係のない民間軍事会社が港を制圧しにきたのだから。困惑もする。

「俺達も気になるぜ。どういうことなんだ?」

「Hum? ばかかお前ら。ちょっと予想すればわかるだろう」


この任務は当然極秘扱いだ。作戦をミスってアメリカ人の死体が残っては洒落にならない。日本人なんてもってのほかだ。

「作戦を成功させようがミスろうがそれなりのアクションは俺達は起こす。プロだしな」

 空を指で差す。

「あのUAVの映像がバンクスだけに届いていると思うか?」

 なるほど、アレンは言った。オルキットは気付いていないようだ。

 つまり、港に入った時点で、あのPMCは出動。万が一4人がしくじった場合の機密漏洩も彼らにやらせるつもりなのだろう。

「このままあの部隊を横切っても攻撃されないか?」

「まぁ大丈夫だろう」

 こんな人を馬鹿にしたような計画を発案し、実行に移せるのはあいつしか考えられない。


「ジェイクめ。ふざけやがって」


 誰だそいつは?

 アレンの顔はそう言ってる。

 ジョンという偽名で、おもしろ半分で外交官をやっている大統領。

「ジェイク・R・ローズベルトだ」



 今、大統領はバレンヌ・ガブロという二人目黒人大統領ということになっているが本当は影武者である。前大統領のオバマもそうだ。

「おかえり誠一。楽しかった?」

「んなわけあるか。デルタの新米を押し付けやがって……死ぬかと思った」

 裏要請も一応、達成コンプリートしたが、そこらの報酬は霞が関に吸い取られてしまう。なんともおもしろくない。

「ふむふむ、そうか。とりあえずお疲れ。これは復讐も兼ねたご褒美だよ」

 姫紀は妙に大人気な顔で、誠一にキスをした。

「いい顔してるねー。まだまだ可愛い」

 からかいをよそに耳まで真っ赤にした誠一もやはりばかなのである。


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