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新選草紙  作者: 鬼京雅
9/16

四幕~晴れ舞台へ~

元治元年四月。

松原通り木屋町で発生した出火に新選組は出勤し、不逞浪士数名を捕まえていた。

彼らを拷問すると、長州の人間が多数入京していて、中には吉田稔麿、桂小五郎などといった大物も混じっているらしい。

土方は各組長に不逞浪士を片っ端から引っ捕らえよと命令し、観察方も大阪方面まで出張させた。

八木は自室で、新選組隊士達が各方面に散っていく姿を見ていた。

その中に沖田の一番隊もいた。

隊の羽織を一様に身につけ、出陣する一番隊を見た八木は、

「京の情勢もだいぶ動いている様だな。春なのに嫌な空だぜ……」

新しい鉄扇で肩を叩き、赤黒い死油を飲みながら薄暗い京の空を見上げた。

そして一月が経ち五月になった。

京の町も少しづつ蒸し暑くなってきている。

一月経つが、小物の浪士しか捕らえる事が出来ずにいて、土方は不機嫌であった。

煙管の煙が、土方の部屋を包む。

突如、勢いよく部屋の障子が開いた。

「うわっ、煙い! 部屋の空気を入れ替えて、少しは落ち着いた方がいいですよ。隊士達も頑張ってるんですから……って何を隠したんです?」

突然の沖田の来訪に、土方は焦りながら、何かの書を隠した。

土方の顔は紅く婦女子のようだ。

部屋には丸まった紙が散乱し、机の上にはさっきまで使用していた筆がある。

「……突然何だ、総司? 用が無いなら市中見回りに行け」

 散乱した紙を回収しながら、土方は言う。

「見回りなら、今行ってきたばかりです。ところで、今書いていたのは手紙ですか? そこまでして隠すとなると、個人向け……どこかの婦人用ですか?」

 首を振りながら土方は、

「違う。俺は色々忙しいんだ。茶を飲んだら、出て行けよ」

 そう言い、沖田に茶を汲んだ。

 その茶を飲み置いてある饅頭を食べながら、

「最近の京の町並みは不気味ですよ。特別大きな事件は無いが、いずれ来る大きな事件の為の準備期間のような気がする……」

「やはり、お前もそう思うか。だが、京の町に大物の浪士が居るのは確かだ。大きな事件が起こる前に新選組が先手を打って、その者達が企てる計画を叩き潰す」

 ぬるくなった茶を飲みながら、土方は言った。

 饅頭を食う沖田は、

「ふふっ、私達が晴れ舞台に上がる為の踏み台にするわけですね。これは、私も頑張らねば

……ごほっ、ごほっ!」

 沖田は突然咳をして、茶を飲んだ。

「……これから暑くなる。京の夏は酷暑だ。体調管理も気を使えよ」

「わかっていますよ……」

 そう言うと、沖田は出ていった。

 土方の部屋から出た沖田は少し廊下を歩き立ち止まった。

 懐から丸まった紙を取り出して広げる。

「これは、俳句……?」

 癖のある字で、俳句が書かれていた。

 沖田はその内容を読んでいると、ふと目が止まった。

「ふふっ、可愛いお人だ。だが、今の我々に迷いはいらない……」

 宙に紙を捨て、抜いた刀で微塵切りにした。

 しれば迷いしなければ迷わぬ恋の道。

 と書かれた紙が、風に飛ばされて散っていった。





六月に入り、京の町はかなりの暑さが地面の土を焼くように増している。。

あれから一ヶ月が過ぎたが、暗躍する長州藩に関しての情報はさっぱり手に入らなくなった。

土方は煙管の煙を吐きながら、自室で観察方の集めた情報を整理していた。

六月五日早朝――。

京の地図に、今までの観察方からの情報のあった店などを、朱で印を付けていく。

すると、ほぼ全域が朱で染まったが、四条だけが二ヶ月前の出火騒ぎの時の朱丸しか付いていない。

土方は煙管を吸い、にっと笑った。

「副長。四条にて不定浪士を一人捕らえました。こやつはかなり重要な話を持っている模様」

障子越しに観察方の山崎が任務の報告をした。

土方は立ち上がり、

「そいつの拷問は俺がする。一、二、三番隊の組長は直ぐに出動出来るよう待機させろ」

山崎にそう命じると、煙管を吸いながら不逞浪士専用に作った拷問部屋に向かった。





土方が両手に付いた血拭きながら拷問部屋から出て来ると、一番から三番隊は駆け足で四条木屋町に急行した。

長州との内通者は四条木屋町で古道具を扱う商人、桝屋喜右衛門こと古高俊太郎。

現場に到着した沖田は桝屋の表扉を激しく叩いた。

まだ早朝の為、店の人間は起きていないのだろう。

痺れを切らした永倉と斎藤は扉などぶっ壊してしまおうと言い、隊士達に槍で表扉を突かせて破壊させ始めた。

しばらくすると、表扉が破壊されると共に店の主人である桝屋喜右衛門が出てきた。

「……新選組の方々。こないな早朝から桝屋に何の用ですか……?」

桝屋は青ざめた顔で言った。刀を抜いた沖田は、

「古道具商桝屋喜右衛門こと古高俊太郎。貴方は長州の不逞浪士をかくまい、武器や弾薬を渡している疑いがある。屯所までご同行願おうか」

そう言うと、隊士達が古高の身体を縄で縛り上げ、屯所へ連行した。

そして沖田は、

「桝屋内部にある武器、弾薬を必ず見つけだせ! 邪魔する者あれば斬ってかまわぬ!」

隊士達は桝屋に突入した。

その後をゆっくりと沖田は続いた。

額から汗が流れる。

桝屋内部に突入し一時間ほど立つと、斎藤の三番隊から報告があった。

どうやら桝屋には地下室があるらしく、そこに武器や弾薬が眠っているらしい。

隊士達は片っ端から畳をひっくり返すと、何やら地下室に続く階段が見えた。

その階段を降りた。

すると、薄暗い地下室にはおびただしい刀、槍、鉄砲や弾薬の数々が並んでいた。

「これは……。京の町で合戦をするつもりか……!」

沖田は息を飲み、隊士達に桝屋の事を任せ桝屋を出た。

古高の容疑は確定である。

後は吐かせるだけ――。

沖田は一つの案が浮かび、島原へ走った。


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