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新選草紙  作者: 鬼京雅
3/16

新選組結成

翌日。

近藤、山南、土方は清川八郎の宿舎に行かなければならない為、出発時間まで八木邸にいる事になった。

他の近藤一派は、こぞって京の町を楽しんだ後、夜は島原に繰り出すらしい。

我先にと、朝食を済ませると、京の町に散っていった。

八木は置いてきぼりを食らった沖田に、京の町を案内する事にした。

「朝から島原ですか。そういえば、初めて会った日も島原だった」

「そーいや、そうだったな。静かな島原も悪くないものよ」

そんな話をしながら、二人は島原を歩いていた。

そして八木の行き付けの、朝は茶屋で夜は遊廓の紫煙屋に入った。

一階の奥の個室に通され、二人は茶を飲んだ。

そして、できたての八つ橋を食べながら沖田は、

「今日、私を島原に誘った理由は、私が清川を場合によっては斬ると思ったからですか?」

八木は手に取った八つ橋を皿に置き、

「……そうだ。総司は清川が浪士組を将軍警護の目的で作ったわけでないと知ったら、間違いなく斬ると確信したからだ。流石に俺と同じ顔の人間に、人斬りをしてほしいとは思わん」

「八木さんは可愛い人だなぁ」

と茶を飲みつつ、沖田は言った。

少し顔を赤らめた八木は、

「阿呆が……。総司が返り討ちにあって、家で葬式なんてされたらたまらんからな」

八つ橋にむさぼりつき、自身の赤面を誤魔化すように言った。

そしてまだ時間は早いが、くたびれ茶屋の遊女を八木の金で買った。

二人は事を済ませ店から出ると、空は暗くなっており、太陽が沈みかけていた。

二人は八木邸に戻る道中で、清川の宿舎で話し合いをしている近藤達の事を思った。





「ふうっ。もうすぐ近藤達も帰ってくるか。さて、吉と出るか凶と出るか……」

八木は家に帰ってきてから、風呂に入っていた。

最近の様々な出来事を洗い去るように湯船のお湯で顔を洗った。

すると突然、風呂の扉が開いた。

「そ、総司っ!びっくりするじゃねぇか。声くらいかけろ!てか、前を隠せ!」

立派な一物をぶら下げ、堂々と風呂の中に入ってきた沖田に八木は驚いた。

だが、沖田は八木の言葉を流し、湯船のお湯を桶にすくって、手拭いで体を洗い始めた。

「やれやれ……」

八木邸には風呂は一つしかなく、まだ風呂に浸かっていたい八木は、フウッと溜め息を吐いて天井を見つめた。

「もうすぐ近藤さん達も帰ってきますね。いい方向に浪士組が進むといいんですが……」

頭から桶のお湯をかぶり、沖田は言った。

「そうだな……。まあ、気楽に構えていようぜ」

八木がそう言うと、沖田は手拭いを頭に乗せ湯船に入ってきた。

「……っと!」

大人の男が八人くらい入れる風呂だが、沖田は八木の近くから入ってきて立派な一物が唇をかすった。

「総司は人間好きのようだな。俺はあまり、他人に堂々と一物なんて見せられねぇ」

「人も好きですし、これは試衛館時代からの習慣ですからねぇ。近藤一派では私が一番大きいですけどね」

「その一物に勝てるやつは、そうは居ねぇな」

八木がそう言うと、沖田は急に湯船から立ち上がり一物が八木の唇に直撃した。

「近藤さーん!どーでしたー?」

風呂の窓から、沖田は帰ってきた近藤達に向かって叫んだ。

近藤はにやりと笑い、沖田もにやりと笑った。

そのまま沖田は風呂の内側の木錠を外し、近藤達を呼んだ。

「やっぱり清川は、浪士組を幕府を潰す為に使う算段でしたか。ありきたりな奴だ」

湯船から出た八木は、沖田の言葉に唖然とした。

「まぁ、そう言うな総司。我等は清川から決別し京の治安を守る事にした。幕府から給金は出ないが、我等は我等の道を進もうぞ!」

沖田の肩を叩き、近藤は堂々と言い放った。

(独自にこの不穏な悪意に満ちる京の治安を守るか……とんでもない麒麟児のようだな。近藤勇……)

「ですって、八木さん」

突然、沖田に話を振られ自分の世界にいた八木は我に還った。

「……まあ、良かったんじゃないか。総司……?」

何故か、近藤、沖田、山南は笑い、土方は顔をしかめた。

何だ!? と思っていると沖田が、

「八木さん、興奮しすぎですよ」

皆の視線は、怒張した八木の一物にあった。

顔を赤らめ、八木は手拭いで一物を隠した。

「安心して下さい、八木さん。土方さんの何て舐めちゃいたいくらい綺麗で可愛いですから」

「……こらっ! 総司っ!」

土方は家の中に逃げた沖田を追いかけた。

そんな沖田の後ろ姿を見て、ぺろっと唇を舐めた。

「うえっ……」

 口の中に苦い味が広がり、少し気分が悪くなった。



深夜。

気分が高揚して眠りつけない八木は、自室の窓からいつものように外の景色を眺めていた。

隣の部屋からは、沖田も顔を出していた。

「……清川が将軍警護の為の浪士組でなかった事を暴露した今、これからが正念場だな。何にせよ、総司が清川を斬らなくてよかったぜ。将軍警護が尊王攘夷の先鋒になるなんて、清川はとんだ狐野郎だな」

 夜の景色に視点を合わせながら、八木は言った。

 沖田はふふっと笑い、

「幕府も弱体化したとはいえ、日本を象徴する機関だ。反旗を翻した者には相応の粛正をするでしょう。清川は暗殺されますよ、江戸に戻ってすぐにね」

沖田は昨日より少し欠けた月を見て、言った。

「そうか……」

 八木は確実に進んでいっている京の情勢と、日本の未来を思いながら夜空を見上げた。

 かくして、近藤一派は京に残り新選組誕生の基礎固めを行う事になる。





江戸に戻った清川達と別れ、京に残留した近藤達とは別に芹沢派という一派がいた。

江戸で集められた浪士組で京に残ったもう一つの残留組である。

近藤の宿割りの手違いで京に来るまでの道中、近藤派と芹沢派は一触即発の状態になった事もあった。

清川との会合で意気投合した近藤と芹沢は両派を合体して新たな組を作り、京の治安維持を任されている会津藩の庇護を受けられないかどうかを会津側に訴えていた。

独自に治安維持をしていても、会津藩士達に不逞浪士と勘違いされる事が多かった為である。

その理由は芹沢派の連中は頭の芹沢を中心に粗暴な者が多く、京の大きな着物屋や道具屋から京の治安維持の為という名目で押し借りをし、様々な店に借金をしては踏み倒していたからだ。

「……それにしても総司達と違って、向かいの前川邸にいる芹沢ってやつらは、だいぶ金があるようだな。最近、島原でも有名になってきているぞ」

島原での芹沢達の話しを聞いた沖田は、

「そうですか。芹沢さん達はやはり……」

今の話しで、芹沢達の押し借りの確信を得た沖田は少し戸惑った。

現在の京を守る、最大の藩は会津藩。

沖田は近藤達と京の町を歩いている時、会津藩士が不逞浪士に襲撃されているのを見て彼等を助けた。

その後、会津藩と縁が出来た近藤一派は京都守護職会津中将松平容保に拝謁し、会津藩のお預かりとして自分達を雇って貰えないか? と近藤一派が掛け合った。

容保自身も京の治安は会津藩士だけでは守れない事を分かっていたので、剣の実力のある彼らを会津藩御預かりとして迎えようと検討するとの事だった。

その返答は今、会津藩の黒谷本陣にいる近藤、山南、土方に伝えられている事だろう。

芹沢達の京での行動も会津側に伝わっているはず。

はたして、会津藩のお預かりになれるかどうか……。

沖田は晴天の青空を見上げ、ふっと溜め息をついた。

すると、会津本陣に行っていた三人が八木邸に戻ってきた。

土方、山南がにやりと笑い、近藤が右手で力拳を作り笑顔を見せた。

直ぐ様沖田は近藤に駆け寄り、抱きついた。

(やったな、総司!)

八木は自分と瓜二つの顔を持つ沖田の喜びを、まるで自分の事のように喜んだ。

土方は一人、悪鬼のような表情をして八木の自室に籠った。

この日から、土方歳三は自身の作品の歯車を自らの手で廻し始めた。

狂々、狂々と……。





そして数日が過ぎ、浪士組の名前も〈新選組〉になると会津側から知らせがあった。土方が創案した組の序列を元に、芹沢派と近藤派の合議の上で編成が出来上がった。

〈局長〉

芹沢鴨・新見錦・近藤勇

〈副長〉

山南敬助・土方歳三

〈副長助勤〉

沖田総司〔筆頭〕

平山五郎

平間重助

野口健司

永倉新八

斎藤一

原田佐之助

藤堂平助

井上源三郎

これにて、京の花町に血の雨を降らせる集団の基礎が出来上がった。



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