同じ顔の男
鋭利な月が淡く光る白天の月夜。
京にある島原の遊廓の一角で、髪を元結で結った美形の若い侍が刀を抜き戦っている。
その姿を扇子で口元を隠した着流しの男が、茶屋の床机に腰をすえ血を固めて丸めたような赤い瞳で見つめていた。
若い侍は刀を月の光に反射させつつ、影がただ動いたようなあっけなさで因縁を付けてきた浪人達を斬り、赤い鮮血を雨のように降らせる。五人いた全ての浪人を斬った所で、床机に腰掛ける扇子を持った着流しの男が話かけた。
「あんた、見事に人を斬るねぇ。血の雨とはまさにこれだな」
刀に付いた血と油を拭いながら、若い侍は答える。
「私の殺陣を見ながら晩酌とは、粋なものですね」
死油と書かれた小瓶から、男は猪口に赤い液体を注ぎ、一口飲み答える。
「あんたの死油は、極上の快感をもたらしてくれそうだな」
「ふふっ、貴方は人の血を飲むのか。京には奇人がいるものだ」
二人の男は対峙し、顔を見合わせた。
月明かりのかすかな光に映し出された両人は、互いの顔を見て唖然とした。
似ている――。
いや、自分自身か? と互いに疑念が生まれた時――。
若い侍は音も無く、扇子の男に猛然と斬りかかった。
電光石火の火花が散り、二人は間合いを取った。
どうやら着流しの男が持つ扇子は鉄扇らしい。
高速の追撃を着流しの男は手付かずの団子を皿ごと投げて右足を振り抜き、相手の攻勢の気を殺いだ。
「ちっ!」
と舌打ちをして、痺れる腕を握った。
『……』
じりっ、じりっと互いに少しずつ間合いを詰め、相手の呼吸を感じた。
騒然とする民衆は昨今の黒船騒動以降京の町でも争いごとが絶えないと思いながら眺めている。
それを見下す天を流れる雲の中で黄色い雷が居場所を探すように暴れていた。
そして、若侍が刀を上段から勢いよく振り下ろし、着流しの男がグッと鉄扇に力を込めた瞬間――。
天誅を加えんが如き雷鳴の一撃が二人の間に落ちた。
それが、八木宗一郎と沖田総司の出会いだった。