そのに 1
そのに
『魔法世界』に来て数日が過ぎ、あの日以降は今日まで何事もなく平穏な日が続いていた。
結局四季さんとは学校で会えず、聞きたいことも聞けず、五円玉とライターはそのまま手元に残ったままだ。あの日、何年何組か聞くのを忘れたことを、つくづく不覚に思うわけだが、まあ今日はそんなこはどうでもよかった。
今日は日曜日。空間移動装置を開発したリゼイン社に行くと決めていた日である。
今は朝食を食べながら、お母さんと戦隊ヒーロー物の番組を見ている。
「う〜ん『魔法世界』でもこういう番組はやってるんだね…でもなんでこんなの見てんの?」
「なんでって…お母さんの趣味よ?この後も続けてヒーロー物があるから日曜日はいいわー。あ、その後の魔女っ子物も見逃せないわね!」
お母さんにこんな趣味があるとは全く知らなかった。それもそのはず、私は休日といえば昼まで寝てる派なので、お母さんの趣味を知ることなど出来るはずもなかったのである。
案外面白いなとヒーロー達の活躍を手に汗を握りながら見ていると、いつでもボサボサ頭のお父さんが寝起きでさらにボサボサになった頭を引っさげて、あくびをしながら台所へとやって来た。
「本当に母さんはこういうのが好きだな。部屋中フィギュアだらけだよ。今度出る魔女っ子フィギュアも予約注文したんだから」
二人の部屋がそんな魔窟になっていたとは知らなかった。お母さん殆ど末期だ。でも後で後学のためにこっそり覗いてみよう。
「あれ?そう言えばお父さん帰ってたんだ。仕事はもう終わったの?」
「ああ、やっと一段落したんで当分休みを貰ったよ。どうだ?今日久しぶりにどこかへ出かけるか?」
「ごめん!今日私行くとこがあるんだ。また今度ね」
がっかりしたように溜息をつくお父さんの肩をポンと叩き、
「ごちそうさまーそして行ってきまーす」
用意して側に置いておいたケータイや財布などをズボンのポケットに入れ、玄関へ向かう。
「それにしても、『魔法世界』でもこれは同じなんだね」
それは壁に並べて掛けられている額縁。その中には私が子供の頃に描いたお父さんやお母さんの似顔絵や、クレヨンで書き殴った変な図形や、肩叩き券などが入っている。似顔絵はともかく、肩叩き券まで額に入れて飾る必要はあるのだろうか…
よし、帰ったらこっそり肩叩き券を外して、『私と一日デート券』に取り替えておこう。