そのいち 6
昼休み明けの授業は『魔術理論』だった。その内容は『効果的な魔法陣の配置と、空間利用法』。空間利用法?これだ!何だか今の私にすっごく必要な授業のような気がする。もしかしたら〈元の世界〉に戻るためのヒントが見つかるかもしれない。
よくわからない用語が出てきたりもしたが、何とか理解しようと頑張り、そしてホントによくわかった。
この授業で〈元の世界〉に戻る参考になるようなことは一つも無かったってことが。
無駄な努力をした時ほど、空しいものはない。今私の心には寒風が吹きすさんでいるよ。心が寒い…
「空間利用法って言うから、ちょっとは期待したんだけど…結界とか魔法陣を使った落とし穴の作り方とか教わってもねえ…」
それにしても、お昼を過ぎて急に暑くなってきた。心に吹く寒風で体も涼しくならないものかな。
頬杖をつき、もう片方の手で下敷きを団扇代わりに扇ぎ、窓の外を見てそんなことをブツブツと言っていると梢ちゃんがやってきた。
「どしたの那美?」
「んー?ちょっとねー…暑いし心の寒風で涼しくならないかと…じゃなくて、落とし穴の作り方とかじゃなく、空間移動する方法を教えてほしかったな?って…」
「そんなの高校で習うわけ無いじゃん」梢ちゃんはあっさり言いのけ、「大体、空間移動ってのはすっごく難しいんだから。世界でも数えるほどしか空間移動できる人は居ないんだよ?」
え?そうなの?私の考えでは、〈元の世界〉に戻るためには空間を移動しなきゃいけないってことになってるんだけど…計画が狂っちゃうな…
「なんだお前。空間移動に興味があんのか?」
口を挟んできたのはあの馬鹿だ。なんでここであんたがしゃしゃり出てくるかな?
「おいおい睨むなよ!折角情報をやろうってのに」
「くだらない情報だったら、女子スク水を着て校庭一周ね」
「なんだよ!その人生が社会的に終わりそうな罰ゲームは!まあいい。これは絶対の自信があるから」
「聞かせてもらおうじゃないの」
「どっかの会社が空間移動を出来る装置を開発して、もうすぐ実用化に向けた実験が始まるらしいぞ?それが出来れば、誰でも空間移動が出来るそうだ。空間移動は人類の夢だからな。早く実用化してくれればいいんだけどな」
得意気に、そして少しわくわくしたような感じで情報を提供してくれた。
はたしてこの馬鹿がこんなに輝いて見えたことがいまだかつてあっただろうか。いや絶対にない。今日出会ったばっかりだから。そんなことはともかく、何とも有益な情報を持て来てくれたものだ。これで〈元の世界〉に一歩近づいたんじゃなかろうか。
私はこの有益な馬鹿の両肩をガッシリと掴んで一言。
「五十路君!あんたもたまには役に立つ!」
放課後。
私は梢ちゃんに一緒に帰ろうと言われたが断って、ある場所に向かった。
それは、『科学部』の部室。
『消しゴム野球部』は『消える野球部』に、『萌えサッカー部』は『燃えサッカー部』に、そして『囲碁卓球部』は、『囲碁卓球部』のままだった。
果たして『科学部』は『科学部』のままなのか。それとも別のクラブに変わっているのか。
「出来れば科学部は科学部のまま残っててほしいけど…」
結論から言うと、そのどちらでもなかった。
部室はもぬけの殻で、『生徒達の唯一の良心』と呼ばれた『科学部』は、存在しなかった。数々のへんてこクラブは残ってるくせに、『科学部』が無いとはこれいかに。
でも予想はしてたけどね。『魔法』と『科学』は相反するもので、『魔法世界』では『科学』というものは、迷信のようなもの…というのを、子供の頃何かの本で呼んだ覚えがあったから。
「でもせめて、何かのクラブと入れ替わっててほしかったな…」
私は、『科学部』の看板があったであろうその場所を溜息をついてしばらく間見上げ、そして帰路についた。