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魔法の世界  作者: manam
そのいち
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そのいち 1

 そのいち



 六月一日。

 カーテンの隙間から漏れる太陽の光で、目が覚めた。時計を見ると午前六時半。目覚ましが鳴る前に起きたのは何日振り…いや、何ヶ月振りかな?

 なんだか、物凄く楽しい夢を見ていた気がするけど、内容は起きたとたん忘れた。


 いつもと変わらぬ朝…変わったといえば今日から衣替えで、夏服になることくらいだ。

 私は夏服をしばらく眺めた後、「またあとでね」と囁き、一階の洗面所へ。と、そこには先客の姿が。私のお母さんだ。洗い終わった洗濯物をカゴに入れて、今から干しに行くらしい。朝からご苦労様です。


「お母さん、おはよう」

 私の挨拶に驚いたように振り向き、

「あら!もうそんな時間?まだ六時半だと思ってたんだけど…急いで朝ごはん作らなきゃ!」

 いえ六時半であってますよ、お母さん…しかしその言い方はあんまりじゃなかろうか?それじゃあ私がいつも寝坊してるみたいに聞こえる。私だってたまには早く起きるっての!

 半年に一回くらいだけど…


「うーん…今日は雨が降りそうね…いえ、もしかしたら雪が降るかも!」

「六月に雪が降るなら私も見てみたいわ!」

 母の言葉にツッコミつつ、洗濯物に目をやった。

「いつも、こんな早くから洗濯してるの?」

「いいえ、いつもは那美が出て行ってからしてるんだけどね。今日は今からお洗濯しておかないと、このあとちょっと出来そうにないから。あ、朝ごはんはこれを干した後すぐに作るからちょっと待っててね」

 そう言うと、洗濯カゴを重そうに抱えながら物干しへ向かって行った。半分くらい持ってあげた方がよかったかな?

「今洗濯しておかないと出来ないって…どこかに出掛けるのかな?」

 ちょっと疑問に思ったけど、「まあいいや」と、大して気にはとめなかった。



 洗面所での用事を済ませ、台所へやってきた私は、冷蔵庫から牛乳を取り出しコップに注いで一気に飲み干した。でも実を言うとあんまり牛乳は得意ではない。では何故飲むのか。それは切実な問題を私は抱えているからだ。もう少し大きくなりたいのだ!身長ではなく、胸が。その一念で始めた毎日の牛乳なんだけど…ふう…

「い…いや、諦めるな!きっと大丈夫!そのうち効果が現れるハズ!」

 そもそも牛乳が胸に効果があるのかわからない。だけど、その効果を信じて飲み続けている私のこの努力もわかってほしい!誰にって?他でもない、私の胸に!頼むよ!ホント!


 コップを流し台に置いて、テレビのリモコンに手を伸ばした。この時間なら朝の情報番組で天気予報と、今日の運勢が見られるはずだ。

「いつも寝てて見られないから、早起きしたときくらい運勢をチェックしておかなきゃね〜」

 椅子に座って、テレビをつけるとちょうど星占いのコーナーだった。そういえばこの番組の司会のお姉さんを見るのも本当に久しぶりだ。ご無沙汰してます。

 なんて、心の中で挨拶してると、お姉さんがご褒美とばかりにハッピーなお言葉を私にプレゼントしてくれた。


『今日の一位は射手座のあなた!素敵な出会いと新鮮な驚きが待っているかも?』


「わ!やった!射手座、一位?すっごい!今日の私って最高かも!」

 十二月三日生まれの、正真正銘の射手座の私。上々の占いの結果にテンションが上がらないわけが無い。最下位になった星座の人に、このテンションをお裾分けしてあげたい。


『続いて、今日のお天気です。各地の天気はご覧のとおりです』


 占いが終わり、お姉さんが今日の天気を伝える。どうやら今日は一日晴れのようだ。

「ん…?」

 映し出される画面を見て、少し違和感を覚えた。今日の天気にではない。画面の上に表示されている『天気予言』の文字にだ。

「天気…予言?『予言』ってなに?普通、『予報』じゃないの?」

 疑問を抱きながら『天気予言』なるものを見続け、そして考えた。ははーん、もしかしたらこの『天気予言』というのは、この番組独特の洒落を利かせた表現なんだな。お姉さん、結構やるじゃない!腕上げたね!うんうんと頷いていると、

 

『それでは次に、今日の予測魔法量をお伝えします』

 

 聞き慣れない言葉が耳に飛び込んできた。



「……………………………………………………………………………………は?」



 時が止まってしまったかのように、その場に固まる。


 『天気予言』に『魔法量』?この司会のお姉さんはまじめな顔して何を言ってんの?こんな変なことを真面目に伝えるなんて…そうか!これはあれだ!子供達にもわかりやすく伝えるための演出なんだ!うん!きっとそうだ!そうに違いない!さすがだね、お姉さん!

「お待たせ。遅くなっちゃったわね」

「うひぇっ!」

「あら、驚かせちゃった?ごめんなさいね」

 色々考えてる所に突然お母さんが来たもんだから、面白い声をあげてしまい、ちょっと恥ずかしい。赤くなってる顔を見られないように横を向いたが、最初からお母さんの目は私じゃなく、テレビの方に向いていた。

「あ〜やっぱり今日は、魔法量が少ないのね。早めにお洗濯しておいて正解だったわ♪」



「……………………………………………………………………………………は?」


 

 その言葉を聞いて、再び時が止まった。

 『魔法量』がどうして洗濯に関係あるのか。今はそんなことはどうでもいい。それよりもお母さん、今何て言った?『魔法量』?なんでそんな言葉を、何の疑問もなく口に出すわけ?『天気予言』や『魔法量』という言葉は、子供向けの演出ではなかったのか?



 何かがおかしい。



 『魔法量』なんて言葉を、普通に口に出すお母さん。まるでそれを伝えるのが当然だというように、原稿を読むテレビのお姉さん。

 頭がクラクラしてきた…足もフラフラする。私はそんな状態で、冷蔵庫から朝食の材料を取り出しているお母さんに近付き、

「ねえ、お母さん…『魔法量』なんて言葉、変だと思わないの?私そんな言葉初めて聞いたよ?って言うか『魔法量』って何?杉花粉の仲間?洗濯指数の友達?それとも紫外線の親戚?」

 矢継ぎ早の質問に、少し困惑気味のお母さん。なんでそんな顔をするの?『魔法量』だよ?普通、そんな言葉聞いたら、質問したくなるのも当然だと思うけど?

 冷蔵庫から取り出した材料を台の上に置き、片手を自分の頬に当て、首を傾げて、不思議そうに私を見てくる。そして何か納得したように両手を合わせて、

「那美、寝ぼけてるのね?珍しく早く起きてきたと思ったらこれだものねぇ。大体あなたは子供の時から…」


「寝ぼけてないし!」


 お母さんの言葉を遮るように叫び、続けた。

「いいから教えて!『魔法量』って何?いつから出来た言葉なの?」

 必死に聞く私の姿を見て、少し何か考えた後、質問に答えてくれた。

 「『魔法量』というのは言葉の通り、魔法の量のことよ。誰かが魔法を使うと、その分魔法量が減ることになるわね。もっとも、人一人が使う量なんてたかが知れているけど」

「今日はその『魔法量』が少ないって言ってたけど、少ないとどうなるの?」

「そうねぇ…魔法量が少ないと、魔法を使うのがちょっと苦しくなるかもね。魔法量が多ければ、その分負担を減らせるから。それから、『装置』を動かすのにも支障が出てくるわ」

「装置?」

 私が首を傾げるとお母さんが、あれとかこれ、と言う風に冷蔵庫やテレビを指差す。

「冷蔵庫やテレビ、洗濯機や照明。そういう装置は全部『魔力機関』で動いてるでしょ?だから魔法量が少ないと止まっちゃうのよ。まあ冷蔵庫や照明は、大型の『魔力機関』が搭載されている大丈夫だけど、洗濯機はよく止まっちゃうのよね」


 それを聞いて、冷蔵庫の裏側を覗く。そこに当然あるはずの電源コードがない。次はテレビの裏を見る。やはり電源コードはない。それどころか、壁にあるはずのコンセントの差込み口すらない。テレビのリモコンも、電池ではなく、『魔力機関』らしい。


 愕然とした。夢じゃないかと、頬もつねってみた。痛い。夢じゃない。

 どうしてこうなったかはわからない。けれど世界は私の知らぬ間に、



 『魔法世界になっていた』


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