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魔法の世界  作者: manam
そのに
16/30

そのに 8

 彩花が出て行って一時間…未だ戻って来ていない。

 照明も消えたまま、ケータイも繋がらない。さすがの彩花も少し手こずっているのか、それとも犯人達の手に落ちてしまったのか。『マグネット』は復旧していないが、今のところ大きな混乱は起きてはいないようだ。それは窓から見える道行く人の様子からもわかる。だが、やはり携帯を気にしている人は少なからず居るようだった。


 もうレストラン街は開店している時間だ。本当ならこのレストラン街にも私達以外のお客さんが来てもおかしくはない時間なのだが、もちろん誰一人としてここにやって来る者は居なかった。だけど、開店時間なのに入口が開かなかったら来た人が怪しむはず。

「誰かこのことに気付いて、警察に連絡してくれないかな…すぐそこに駅前交番があるのに」

 私は辺りをウロウロしながら、彩花が出て行った時間を計るため、そして使えるようになったらすぐに警察に連絡できるようにするためにケータイとにらめっこをしていた。


「那美ちゃん、落ち着いて。きっと大丈夫だから…落ち着いて…」

「でも…うう…やっぱりジッとなんてしてらんない!私、下に降りてみる!」

 走り出そうとした私の腕を、友美ちゃんが掴んで引き止める。

「ダメ!那美ちゃんが行っても足手纏いになるだけよ!それに大人しくしてれば危害は加えられないんだから!ここで待ってるのが一番いいのよ!」

「あいつらが約束を守るとは限らないじゃない!現にさっきも見張りの男に襲われそうになったし!彩花のことも心配だし、リゼインさんのことだって…それにもしかしたらどこかに外に出られる所があるかも知れないじゃない!」


 私は友美ちゃんの手を振りほどき、出入り口の方へ向かう。

「那美ちゃん!私も!」

 来ようとする友美ちゃんを手で制し、

「友美ちゃんはここにいて。彩花が戻ってくるかもしれないし。私なら大丈夫!こう見えても逃げ足には自身があるからね!じゃあちょっと行ってくるよ」



 さて、勢いよく飛び出したのはいいものの、窓が殆ど無いため、フロアの奥は思った以上に薄暗かった。走るとちょっと危ない。頼りは、別動力と思われるの非常灯の明かりだけだ。

 私達がいた以外の店も何軒もあるのだが、全て入口が閉ざされている。中を覗いてみるとその店の人と思われる人影が見え隠れしていて、どうやら動力が落とされたために入口が開かなくなり閉じ込められてしまったようだ。


「早く、動力を戻さなくちゃ…」

 私は昔の記憶を頼りに階段の方へと向かう。確かフロアの奥にあったはずだ。こうして私が自由に歩けているのはこのフロアに犯人のメンバーは一人もいないから。見張りの一人でもいるかと思ってたので、ちょっと拍子抜けしたが、そのお陰で難なく階段の所まで来ることができた。(途中に非常口があったのだが、扉が開かず諦めた。何のための非常口なのか…)


 屋上へ行くための階段はシャッターが閉じられ上れないようになっていた。必然的に進む道は下へと向かう階段だけとなる。静かで薄暗いと夜の学校並みに怖い。私はジッと階段の下を見つめ、数秒後自分の頬を両手でパチンと叩き、

「よし…行くか!」

 覚悟を決めて階段を下りだした。静寂の中に足音が響く。もし近くに犯人がいれば気付いてしまうくらいに響く。

「足音ってこんなに響くものなの…?」


 これじゃダメだということで、踊り場付近で階段に腰掛け靴を脱ぐ。それにしても物音一つ聞こえてこない。もしかすると七階にも見張りは居ないのではないか?私は手すりから身を乗り出して、階下の様子を伺った。そこで目に飛び込んできたのは一人の男の姿。でもそいつは海岸に打ち上げられたクジラのように動かない。なぜなら階段の下でうつ伏せの状態で気絶しているからだ。脱いだ靴を両手に持ち、階段を下りゆっくりとその男に近づく。


「冷た…!」何か踏んだ!

 足元を見ると氷の粒が散らばっていた。

「彩花に魔法を撃ち込まれたんだね…悪いことするからこんなことに…」

 しかしその男を見て、少し違和感を覚えた。先ほどレストランで見た犯人達の服装は皆、普段着のようだった。だが、この倒れている男の服装はどう見ても明らかにレストラン街のどこかの店の制服だ。

「まさか、犯人に間違えられて彩花に魔法を撃ち込まれちゃったの?」

 そうだとしたらとんだ災難を受けた人ということになるけど、まだもう一つの可能性が残っている。

「犯人を中に入れるために手引きした仲間ってことも…」

 災難な人か、犯人の仲間か…よし、この男の顔を見て判断することにしよう。前者なら起こしてさっきまで居たレストランに非難させ、後者なら顔に落書きをしてこの場を去る。

 恐る恐る、倒れている男の顔を覗き込んでみた。


「…なるほど…」


 私はポケットから模型に色を塗った時の赤色のマーカーを取り出し、男の顔にこれでもかというくらいの落書きをしてやり、そしてそのまま立ち去―――らずに、男の体を転がし仰向けにし、そして馬乗りになり胸ぐらを掴んで、思い切り揺さぶってやった。

「起きろ!この馬鹿!」

 私の目覚まし攻撃に男は目を覚ましたが、頭をクラクラさせて、

「う…やべ…目眩が…働きすぎか…もうちょっと寝かせてくれ…」

「アホか!さっさと起きろ!」


 二度寝許すまじ。起きろ寝ぼすけ!私は何度も何度も平手打ちする。男の落書きだらけの間抜け顔が見る見る腫れ上がっていく。だがそれですっかり目も覚めたようだ。

「いってーな!なにしやが…」

 言いかけてこいつは途中でやめた。男の表情がめんつゆと間違えて、麦茶でそうめんを食べた時のような顔になっている。さて、なぜ私がこんな暴挙に出たかというと、何のことは無い。この男、私が知っている男だったからである。

「おはよう、五十路君?」


 そう、倒れていたのはあの馬鹿、五十路竜也だった。



「あんた、こんな所で一体何してんのよ?」

「バイト」

「まさか犯人の仲間じゃないでしょうね?」

「んなわけねーだろ!」

 この馬鹿は階段に腰掛け、私はその前に立って問答していた。

「じゃあなんでこんな所に倒れてたわけ?」

「ちびっこい女に魔法をいきなりくらわされたんだよ!あいつ俺のこと犯人じゃないってわかってて腹にぶち込みやがって…今度あったらただじゃおかねえ…」

「え…?勘違いでやられたわけじゃないの…?」

「ああ…あいつが一人で下に行こうとしてたから、一緒に行ってやろうと思ったら、『一人で大丈夫だから寝てて』とか言って…もっと穏便な方法があっただろうに!」

 私としてはよくやったと褒めてあげたいくらいだわ。うん!後で彩花の頭を撫で撫でして帰りにパフェでも奢ってあげよう。


「でもなんで店の外に出られたわけ?私見たけど八階の店の入口全部鍵が掛かって開かなかったんだけど…?」

「ああ、動力が落ちる前ちょうどフロアの奥にあるトイレに行ってたんだ。そしたら何か怪しい集団が階段の方からやってきて、慌てて個室に隠れたね」

「弱虫」

「うるさい!勇気と無謀は違うんだ!あんな人数相手に一人で勝てるか!それでだなその後少しして照明が消えたんだ。奴らの気配も遠ざかってチャンスだと思って店に戻ったら、入口が閉まって開かない。そしたらまた奴らの気配がしたからトイレに隠れたんだ」

「ふ~ん…やっぱり弱虫」

「悪かったな!だけどここから先は弱虫じゃないぜ。俺は気付かれないように奴らの後を追ったんだ。そして地下まで行って、奴らの大体の人数を陰から確認して、また戻って来たってわけさ」自慢するようなことか?

「そして、途中で彩花と会って気絶させられたと…ぷっ!」笑っちゃうね。

「笑うな!それよりもお前こそ何でここに居るんだ?ここに居るってことは犯人が入ってくる前に来てたってことだろ?…まさか犯人の仲間か?」


 ゴスッと鈍い音が階段に響く。私がこの馬鹿の頭を殴った音が。私のどこをどう見たら犯人に見えるって言うのよ、まったく。

「私は『空間移動装置』のことを聞きに来て、社長の許可のもと入れてもらったのよ!」

「『空間移動装置』…?そう言や犯人達もそんなことを言ってたな…ってことはやっぱり犯人の仲間か!」

「人の話をちゃんと聞いてろ!」

 またもゴスッと鈍い音が響く。こいつは両手で頭を押さえてうずくまる。我慢しろ!

「それで?犯人達の人数はどれくらいなの?大体だけどわかってるんでしょ?」

「ああ…四十人弱かな…?奴らの話の内容によると、どうやらどっかの高校の一クラスみたいだな。クラス全員で乗り込んできたらしいぜ」

「全員高校生…?しかもクラス全員で…?なんで『リゼ・那美一号』を…」


 その場で考え込む。そして思いついたのが犯人達も『私と同じ世界』からこちらに飛ばされてきたのではないかという仮説だった。だから、〈元の世界〉に戻るために『リゼ・那美一号』が必要なのでは…?いや、でもそれではおかしい。さっきリーダーの少女は確かに魔法の火を掌に作り出していた。下っ端五人衆だってへっぽこ魔法を使ってた。同じ世界から来たのなら私のように魔法なんていう非常識な力は使えないはずなのだから。


「それで?お前、どうするつもりだったんだ?」

 ちょっと待って、もうちょっと考えたいんだから。そう言いかけて顔をあげると、この馬鹿が私をまじまじと見つめていることに気付いた。それがなんだか恥ずかしくて、顔が熱い。夏の太陽のように熱い。私は持っていた靴をこいつの顔面に投げつけた。

「いってえな!何しやがる!」

「ジロジロ見んな!」

 まったく、顔を覗き込むなんて失礼極まりない!ホントにまったく!

 私はこいつに背を向けて、自分の顔をペチペチと叩き、深呼吸して心を落ち着かせ、そして何事も無かったかのように振り向き、

「私は今から地下に降りてこの建物の動力を復活させるつもり」

 そして、にっこりと笑って、

「あんたも来なさいよ?私の盾として」

 さすがにあんまりな言い草かなとは思ったけど、こいつは拒否しなかった。笑顔の中に込めた『来なかったらどうなるかわかってるよね?』というメッセージを読み取ったのかもしれない。そしてこいつは小声で一言。

「親父より怖い…」

 失礼な!



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