そのに 5
私達は三人でしばらく話をし、そしてレストランを出ることにした。
彩花が遠慮なしにリゼインさん払いで高級紅茶の注文を繰り返したため、これ以上ここに居るわけにはいかないという、私と友美ちゃんの意見が一致したからだ。
彩花はもの凄く残念そうなオーラを出していたが、二人でこれからショッピングモールへ行くことを聞くと、キラキラの表情になり、
「私も行く」
やっぱりか!
「えー…?どうする?友美ちゃん」
「私は別にいいけど。那美ちゃんは嫌なの?四季さんとはたった今友達になったんじゃなかった?」
「まあそうなんだけど…なんか向こうでも『支払いはリゼインで』とか言いそうだし…」
「そんなことは言わない」彩花は憮然とした表情をし、「支払いはナミに任せる」
「なるほど!それなら安心だね!…ってなんでやねん!」
見事な(?)ノリツッコミを披露し、また彩花の頭をグリグリしてやった。そんな様子を見て友美ちゃんもクスクスと笑っている。笑ってる場合じゃないよ友美ちゃん。この子ホントに『支払いはナミで』とか言い出しかねないんだから。私は人に物を買ってあげられるほど貯金箱に余裕はありません。
私達がワイワイと話しながら、レストランの出入り口の所まで来ると、いきなり八階フロアが薄暗くなった。何事かと見上げてみると、照明が消えていて、それはフロア全体に及んでいた。どうやら全ての動力が落ちてしまっているようだった。
「うわ…一体何事…?エレベーターも止まっちゃってるよ?」
「さっきリゼインさんが慌てて下りて行ったのと何か関係があるのかしら…?」
「…リゼインがいなくなった後すぐにレストランを出るべきだった。もう手遅れ」
彩花は私の方をジトッとした目で見つめ、不満を漏らす。だが、ここで問題なのは、リゼインさんがいなくなった後、紅茶を何杯もお替りをして、一番時間を使っていたのは誰かと言うことだ。言うまでも無くそれは彩花である。
「誰のせいで時間を喰ったと思ってるのかなー?」
今度は私がジトッとした目で彩花を睨みつけ、そして本日三度目のグリグリを…しようとした時、フロアの奥のほうから足音が聞こえてきた。
足音は一つや二つではなく、もっと大勢が歩いてくる音だ。
程なくして足音の主達の姿が見えた。数は男女織り交ぜて二十人程。歳は私達と同じくらい。全員が普段着のような格好で、リーダーらしき少女を先頭に、こちらへ近づいてくる。
その少女は、肩口まで伸びたボサボサの茶髪を左手で鬱陶しそうに掻き上げげながら、右の掌を上に向け火の玉を作り出した。
「そこのお前ら。抵抗するなよ。変な真似したら丸焼きにするぞ」
少女はそう言うと鋭い眼光をこちらへ飛ばし、それを受けて私と友美ちゃんはたじろいだ。
もとより私達は魔法を使えず、多分この少女一人相手でも勝てはしない。しかもその少女の後ろにはまだ十数人の魔法使いが並んでるんだから、味方に魔法世界の住人が一人しかいないこの状況では、勝機など微塵もあるはずもない。
だから私達は少女の言うとおり大人しくしていたのだが、あろうことかその味方唯一の魔法世界の住人彩花は多勢に無勢はなんのその、やる気満々のオーラを体中から噴出させているのだから大変だ。そんなもの出すな!
「なに戦う気でいるの!あんな人数に彩花一人で勝てるわけないじゃない!落ち着け!とにかく落ち着けー!」必死で止める。
「あいつらは恐らく私達に害をなす者達。ここは実力で排除するべきでは?」
「相手が一人だけならまだしも、あんな大人数なのよ!怪我だけじゃ済まないよ!」
彩花は少し考えて、
「…ナミ…もしかして私のことを心配してくれてる?」
「もしかしなくても心配してるっての!」
「わかった…言う通りにする」
彩花は頬を赤く染め、コクリと頷き私の言葉にしたがった。だから何でいちいち赤くなる?それは仕様なのか?それともあんたは恋する乙女か。
「そこの三人。中に入れ」
少女は顎でレストランを指し示し、しかたがない、私達は素直にそれに従った。