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魔法の世界  作者: manam
そのに
12/30

そのに 4

 八階のレストラン街は店の入れ替わりはあるものの、デパートだった時と何も変わっていなかった。リゼインさんによるとここだけは一般の人の利用も可能で、その売り上げはリゼイン社の利益になるらしい。魔力装置の開発に、ネットワークサービスに、飲食業。ホントに尊敬しちゃうね。リゼインさんの商才に感心しつつ、私達は社員さんに最も人気のあるというレストランへと入った。私と友美ちゃんは隣同士で、リゼインさん私達の対面の席に着く。


「何でも好きな物を注文してちょうだい。もちろんお金は私が払うから安心して」

 そう言うことなら、お言葉に甘えさせて頂きましょう。メニューにざっと目を通してみると食べ物から飲み物までどれにしようか迷うほど豊富に揃っている。だが値段を見て驚いた。紅茶一杯千円?


「高っ!ほ…ホントにいいんですか?」さすがに遠慮したくなる。

「いいのよ。社員割引で半額になるからね。高いのに社員に人気がある理由わかるでしょ?」

「なるほど…それじゃあ…遠慮なく」

 私は一杯千円の紅茶を遠慮も躊躇もなく注文。友美ちゃんはやっぱり遠慮したのか三百円のオレンジジュース。リゼインさんは八百円のコーヒーを注文した。

「いや…那美ちゃん…やっぱりここは遠慮するものでしょ?お金を払ってくれる人より高い物を注文するなんて失礼よ…」

「いいのよ。それよりも話の続きをしましょうか。何か質問はある?」

「じゃあ、私から。『リゼ・那美一号』を使って時空の移動って出来ますか?」


 いきなり核心(だと思う)を突く質問をしてみた。だが、こちらの事情を知らないリゼインさんにはその質問の意味がわからない様子だ。

「時空の移動というのはどういうことかしら?わかりやすく説明してもらえる?」

「えっとですね…今のこの世界は『魔法世界』ですよね。この世界とは別の『科学世界』があったとしてそちらの世界へ行くことが出来るかどうかと言うことなんですけど」

 『科学世界があったとして』と言ったのは、『魔法世界』においては、『科学世界』は夢物語であるためである。また、その逆も然りだ。マンガからの知識だけど。


「あなたは『科学』というものを信じているの?」

「あ…いえ…あったらいいなーとか、おもしろいなーとか思ってるだけで」

 そういうことにしておく。でなければこの世界では変人扱いされてしまうかもしれないからだ。私達にとってみれば、この世界の人全員が変人なんだけどね。

「面白い発想ね。だけどそれは無理ね。『リゼ・那美一号』は空間を歪めることは出来ても時空を歪める程の出力はないわ」

「じゃあ、時空ホールという言葉は聞いたことあります?」

「時空ホール…?さあ、聞いたことがないわね。それはどういうものなの?あなたが考えた新しい理論?それとも誰かから聞いたのかしら?」

 リゼインさんは身を乗り出して興味津々の様子で聞いてくる。


「えっと…一応人から聞いたんですけど…時空ホールって言うのは空間の歪みから出来るそうなんです。そこを通れば、別の世界へ行けるとか何とか言ってたんで…」

「面白いわ!その人はどんな人?」リゼインさんは目を輝かせ、ますます私に迫って、「いくつくらいの人?おじさん?おばさん?それとももっと若いのかしら?どこに住んでるか聞いてない?ぜひその人に会いたいわ!」

 手を取り、お願いするように言ってくるが、ごめんなさい、ちょっと言えません。なぜか四季彩花さんの名前を出すことに躊躇いがあった。彼女が秘密にしたがっていた事を私がポロッと言っちゃうかも知れないからだ。もしかしたら時空ホールという言葉もあんまり人に話さない方が良かったのかもしれないと、少し後悔した。


「私もその人の住んでる所は知らないんです。だから会うのはちょっと無理かと…」

 なんとか話を逸らそうとするが、リゼインさんは食い下がってくる。このまま迫られたら言わずにいられなくなる。どうしようかと思案しているその時、私を救う軽快な音楽がリゼインさんのポケットの中から聞こえてきた。ケータイの着信音だ。


「何よいいところなのに!ちょっとごめんなさいね」

 リゼインさんは席を立ち、私達に聞こえないように電話の相手と話している。それにしてもリゼインさんも若いね。いや、元々若いけど(多分二十四歳くらい)、着信音が日本の人気アイドルグループの曲だったからちょっと意外だった。こういう所も好感が持てる。そうしている間に注文した飲み物が届き、それを飲みながらリゼインさんを見ていると、


「なんですって?」


 いきなり大声を出した。びっくりして私と友美ちゃんは少し飲み物をこぼしてしまった。千円なのに…もったいない…ちょっと落ち込みながら紙ナプキンでテーブルを拭いていると、リゼインさんが近づいてきて、

「ごめんなさい。ちょっとトラブルがあったみたいで下に行かなくちゃいけなくなったの。話の続きはまた次の機会に。あ、そうそう、お腹がすいたら好きな物を注文して食べてちょうだい。支払いはリゼインでって言ってもらえばいいから」

 そう言うとリゼインさんは、熱いコーヒーを一気に飲み干し、店を出て行った。


「何があったのかな…?」

「さあ…私達には言えないことなんでしょう。それより、結局〈元の世界〉に戻る方法はわからなかったわね…空間移動装置でも無理みたいだし…」

「うん…出力がどうとか言ってたから、それを何とかすれば、何とかなるのかも知れないけど…どっちにしても、私達じゃどうしようもないね…」


 二人で重く息を吐く。どうも行き詰まってしまった感があるね。私は紅茶を啜りながら、

「ここに四季さんでも居れば、何かわかるかも知れないんだけど…」ポツリと言うと、


「呼んだ?」


 いきなり後ろから声をかけられて、またもやビクッとして飲み物をこぼしてしまった。滅多に飲めない高級紅茶なのにどうしてくれるのよ!涙目になりながら文句を言おうと後ろを振り向くと、そこにはどこから湧いて出たのか、四季彩花さんが私の紅茶物を欲しそうな目でをジッと見つめて立ち尽くしていた。

「だっ…ダメよ!これは私のなんだから!飲みたければ自分で注文して飲みなさいよ」

「わかった」

 そう言って四季さんは席を飛び越え、私の左隣に座ると店員さんを呼び、私の飲んでいるのと同じ紅茶を注文した。


「支払いはリゼインで」

 待て待て、何でそうなる?


「あなたの分までリゼインさんが払うなんておかしいでしょ?」

「大丈夫。あなたが二杯飲んだことにすればいい。問題ない」

 四季さんは私の肩に手を置き、キラキラした無表情で言い放った。呆れて声も出せないでいると、今度は右隣の友美ちゃんが私の肩を叩き、

「あの…那美ちゃんは四季さんと知り合いだったの?」

「え…う…うん、まあね…あれ?友美ちゃんも四季さんのことを知ってるの?」

 友美ちゃんも四季さんと知り合いだったとは驚きだ。もしかして私と同じ境遇の友美ちゃんにも私と同じ話をしたのだろうか?それにしては駅で話した時、何も知らない風だったけど…


「アイザワトモミが私のことを知っているのは当然。私達は同じクラス」

 ああ、なるほど。それなら知ってて当然だね。

「って、ええ!そうだったの?」

 また驚いた。それじゃあ、怖がらずに友美ちゃんのクラスに行ってれば、四季さんに会えてあのライターと五円玉は返せてたのか。やっぱり何年何組か聞いておくべきだった。


 ん?でもそれじゃあ…


「友美ちゃんが向こうの世界から来たってことも知ってたの?」

 四季さんに顔を近付けこっそり聞いてみると、紅茶を飲みながらコクリと頷いた。だったら初めて会ったあの日に言っておいてくれれば良かったのに。


「だけど、アイザワトモミには、あなたに話したことを話していない」

 なるほど、要するにリンクがどうとかいう話は友美ちゃんにも秘密にしておいてほしいということか。

「ところで…」私は、なおも小声で、「あなたさっき、一階の休憩室に居なかった?」

 その言葉を聞いて、四季さんの紅茶を飲む手がピタリと止まる。止まったまま動かない。震えることもなく飲む格好のまま、まさしく静止している。

 そして静かにカップをテーブルの上に置き、表情を変えずに言い放った言葉が、


「ソンナトコロニワ、イッタコトガナイ」


「やっぱりあんたか!」

 四季さんの頭を拳でグリグリしてやる。一方の四季さんは、グリグリされながらなぜバレたのかわかっていない様子で、頭の上に「?」が何個も飛んでいるようだった。あの言い方でバレない訳ないでしょ。今といいあの時の素人催眠術といい…まったく、面白い人だね。


「それで?あんな所で一体何をしてたの?…というか、どうやって入ったの?」

「先日、ナミから聞いた情報を確認するためにやってきた。日曜なら社員も少なく侵入しやすいため今日を選んだ。侵入口は二階入り口。セキュリティが甘い。私が善良な市民でなければこの会社の機密は外部に漏れていた」

「無許可で忍び込んでる時点で善良な市民とは言えないと思うけど?」

 そんなのどうでもいいというように、四季さんはツッコミを無視してまた紅茶を啜り始めが、


「あ」


 と、唐突に何かを思い出したかのように顔を上げ、カップを持ったままこちらへ振り向いた。なんでそんな少し申し訳なさそうな顔をしてるの。

「今、ミナミナミのことをナミと呼んでしまった。ファーストネームで呼んでしまった以上、私とあなたは一心同体」

「いやいや!意味わかんないし!」

「…もとい、ファーストネームで呼んでしまった以上、私とあなたは友人。私のことも彩花と呼んでくれていい。むしろそう呼んで欲しい。よろしく」

 そういうと四季さんは、カップを持っていない右手を差し出し、握手を求めてきた。なんか凄く強引な理由だけど、まあいいか。溜息を一つつき、握手に応じた。


「よろしく、彩花」

 そう言うと四季さん改め彩花は、嬉しそうなオーラを出し、なぜか頬を赤く染めた。するとまたなぜか、右隣に居る友美ちゃんまで頬に両手を当て顔を真っ赤にしている。

「ななな…那美ちゃん…握手をしたということは…しし…四季さんと一心同体になるということ?一心同体になるということは…はわわわだだだダメよ!えっちなのはいけないわ!」

「友美ちゃん…違うから…」

 私は涙目になりながら全力で否定した。



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