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魔法の世界  作者: manam
はじまり
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はじまり

 はじまり



 五月三十一日。


 入学式が終わって二ヶ月程。私は新しい学校生活にも慣れて、新しい友人も出来た。

 ちなみに私の名前は美南那美。射手座。十五歳の高校一年生。名前が上から読んでも下から読んでも『ミナミナミ』になると言うのは、私の中でトップシークレット。クラスの誰にも教えてないし、クラスの皆も気付いていない。…たぶん。


 私の通う学校は、家から徒歩十分の所にあるごく普通の公立高校。その一年三組が私の教室で、そして教室の窓際後ろから二番目の席が私の席だ。

 それにしても…

「最近暑くなってきたなあ…」

 夏を先取りしたような日差しがジリジリと降り注ぎ私をジリジリと焼く。私は冬生まれのせいか、暑いのが大の苦手。ハンカチで汗を拭い、ふと自分の後ろの席に振り向いた。


 誰もいない席。入学以来ずっと空席のまま。まるで誰かを待つように机が置かれている。


 私は少し不思議に思っていた。誰も使わないのなら机を置く必要も無い。もしかしたら本来この席に座る人が、何かの事情で来られなくなっているのかもと思い担任に聞いてみが、どうやらそうではないらしい。転入してくる人のため、というのもこの時期には考え難い。


 だとしたらこの席は一体…?


 そんなことを考えポケ〜っとその席を見ていると、

「どうしたの那美?顔がアホになってるよ?」

 横から誰かが声をかけてきた。

 長い黒髪をポニーテールにした女の子。同級生の工藤梢( くどうこずえ)ちゃんだ。

 彼女とは高校に入ってから知り合った新しい友人で、入学式の時、私の方からなんとなく梢ちゃんに話しかけてみたところ意気投合し、入学式が終わった後そのまま二人で街へ遊びに行くほど仲良くなった。


「ね?聞いてる?顔がアホになってるよ?」

「誰がアホかな?」

 追い討ちをかけるように言ってきた梢ちゃんに言い返し、そして私の疑問をぶつけてみる。

「ねえ梢ちゃん…この席って何でここにあると思う?」

 梢ちゃんはその言葉に「またか」という風に溜息をつき、一言。

「知らん!」

「バッサリだー!」

 そりゃあ私だって、入学以来五十一回(ちゃんと数えた)も聞くのは、しつこいと思うよ?でも気になるものは気になるんだから仕方ないじゃない。大体誰も座らないならこんな席さっさと撤去しちゃえばいいんだよ。それとも私が物置代わりに使おうか…

「まあ、確かに気になるっちゃ、気になるけど…」

そう言うと梢ちゃんは何かを思いつた顔をした。そして何だか不気味な笑みを浮かべて、

「入学以来誰も座らない禁断の席…その席に座ったものは例外なく呪われる…そしてその呪いは時間とともに移動して…ついには那美の席にまで!」


 言い終わるやいなや、教室中に悲鳴が響き渡る。誰の?決まってる。私の悲鳴だ。


 悲鳴のせいでクラス中の注目を浴び、顔が熱い!きっとトマトのように真っ赤になっているに違いない。恥ずかしから机に突っ伏して顔を隠す。

 チラッと横目で梢ちゃんを見ると、お腹を抱えて大笑いしていた。

「ひどいよ!梢ちゃん」

「ごめんごめん。まさかあんなに驚くとは思ってなかったからさ。にしても、那美ってすっごい怖がりだったんだねぇ…こっちがびっくりしちゃったよ」

 梢ちゃんは私の肩をバンバン叩きながら謝ってきた。笑いながら謝るってどういうこと?全然反省して無いでしょ!

 …まあ、あんなことで驚く私も私なんだけど…


 そんなこんなで、今日も一日が過ぎていく。


 そして放課後…


 帰宅部の梢ちゃんと別れて部室へと向かう。私の所属クラブ、『科学部』の部室へ。

 科学に興味がある?とんでもない。私は科学の『か』の字も知らないド素人。じゃあなんで『科学部』に入ったかと言うと、答えは簡単。

 

 『科学部以外にまともそうなものが無いから』

 

 この一言に尽きるね。


 この学校、本当に何の変哲も無い学校なんだけど、部活動に変哲がありすぎる。掲示板に貼られてる部員募集のビラを見た時、三十秒くらいその場で固まってしまった程におかしい。

 まず、運動系の部活で例を挙げてみると、『囲碁卓球部』、『消しゴム野球部』に『萌えサッカー部』…

 文科系の部活だと、『文房具部』や『アンテナ部』、果ては『魔術部』なるものまで。


 何でこんなに変なクラブばかりなのか気になった私は、担任に聞いてみた。それによると、生徒の個性を伸ばそうと思った前・校長(三年前退職)の発案で、「どんなクラブを作ってもいいよ」ってことになったらしい。そしたらその当時の生徒達が悪乗りして、こんな訳のわからないクラブばっかり出来たそうだ。

 何やってるんですか…先輩方…

 それで、そんな中できた唯一のまともなクラブ『科学部』は、教師達の間で『生徒達唯一の良心』と呼ばれている…らしい。


「それにしても…変なクラブばっかり…」

 科学部までの途中にある、様々なクラブの部室。でも、その殆どは看板こそあるものの部員が一人も居なくて休部状態。やっぱりノリで作った意味のわからないクラブには誰も入らないみたいだね。

 しかし、何で休部扱いなのかな?廃部にすればいいのに…部屋の無駄遣いだよこれじゃ…


「はあ…私も帰宅部のほうがよかったかな…」


 今更ながら、ちょっぴり後悔している。

 だけど、中学の時部活に入ろうと思ったけど、結局やめて帰宅部に…友達も殆ど居なかったから放課後は家に帰るだけの日々を過ごし、我ながら無駄に時間を使ったなぁ…って思いもあったんだよね。だからこそ、高校では何か部活を!と意気込んでたんだけど、蓋を開けてみると変なクラブばっかり。一番まともな科学部に入ったものの、私にはちんぷんかんぷん。

「結局時間を無駄にしているんじゃないだろうか…私…」

 そう思いつつも、今日も私は科学部へと足を運ぶ。


「こんにちは」

 と、軽く挨拶をして私は活動の邪魔にならないよう部屋の奥の方(私の指定席)へと向かう。

 部員は私を含めて六名。一年が二人で、残りの四人が三年だ。『生徒達唯一の良心』と言えども、人気はあまり無いみたい。

 入部希望者の殆どを『萌えサッカー部』に奪われたと、入部当時先輩が愚痴交じりに教えてくれた。そう言えば私のクラスにも居たっけ…『萌えサッカー部』に入った男子。次の日には退部してたけど。

「科学よりも『萌えサッカー部』の内容に興味があったり…」

 なんてことを小声で言ってると、後ろから誰かが肩を叩いてきた。やばい…聞かれた?

「うひゃあ!ごめんなさいー!今のは冗談ですー!」速攻で謝る。

「?なんのこと?」

 振り向くと、不思議そうに首を傾げている天然茶髪の女の子が。

「なんだ…友美ちゃんか…」


 私の中学の時の唯一といっていい友達、相沢友美(あいざわともみ)ちゃん。ふわっとした感じの髪腰まで伸びた少し大人っぽい女の子で、私もいつか友美ちゃんのようになりたいと思う。…特に胸が。


 さて、私がなぜ退部もせずにここに来るかというと、友美ちゃんがここに居るからに他ならない。中学時代、唯一の友達であるにもかかわらず、生徒会で忙しい友美ちゃんとは遊ぶことが出来なかった。なので、今ここで友美ちゃん分を回収しているってわけ。

「それで友美ちゃん、何か用?私は今科学雑誌を読むのに忙しいのですよ」

 近くにあったよくわからない雑誌を手に取り、適当にページをめくって見ていると、

「那美ちゃん、それ上下逆さまよ?」

 言われて、慌てて持ち直す。

「ねえ那美ちゃん。折角クラブに入ったんだから、みんなと一緒にやりましょうよ」

「えー…」

 私はすぐ顔に出てしまうタイプなので、ついつい嫌な顔をしてしまう。ババ抜きをしても殆ど勝ったことが無いのは、このせいかな?


 そういえば、科学部の活動内容って何だっけ?いつも隅っこで雑誌をめくってるだで参加してないから、全然わからない。

「もう!科学部の最終目標は『自立型ロボットの作成』だって先輩が言ってたでしょ?」

「ああ、そうだっけ?今はもう、遠い思い出だね…」

「たった二ヶ月前のことでしょ?もうちょっと真面目にやりましょうよ!」

 今日の友美ちゃんは本気で怒ってるみたいだ。

「で…でも、こういう雑誌に目を通すのも立派な活動だと思うんですよ!」

 なんて言い訳じみたことを言ってみると、友美ちゃんは「もう!」と、今度は呆れた表情を浮かべむこうを向いてしまった。

 友美ちゃんの機嫌を直すには…やっぱり私も部活に参加しないといけないんだろうな。


「でも…」


 私は先輩達の方を見てみると、今は半田ごてとか言うものを使って、基盤に何かを取り付けているところだった。見るからに難しそうだ。(私から見れば)

 だけど、友美ちゃんだってあれをやってるんだよね…それにきっとロボットのことだってよくわかってないと思う。でも、わからないなりに頑張ってる…それに比べて私は難しそうだからって敬遠して…これじゃダメだよね…


「確かに…このまま何もしないで終わるのは勿体無いよね。折角部活に入ったんだし」私は科学雑誌を閉じ、「よし!じゃあ『初めての部活動』を始めてみますか!」

「うん!じゃあ行きましょう!」

 友美ちゃんは満面の笑みを浮かべ、私の手を取ってみんなの方へ引っ張って行く。

 先輩から「座敷童がついに動いた!」とか何とか言われながら、友美ちゃんに教えてもらって『初めての部活動』を開始した。

 で、結論―――――


―――――――― 案外簡単だった。――――――――


 次々に半田付けしていく私を見て、他の部員達が「おお!」と声を上げる。

 なんだ、私ってばやれば出来るじゃん、もしかして天才?なんて言葉が口から出そうとして友美ちゃんの方を見ると、何だか少し悔しそうにこっちを見ていた。

「最初から参加してる私より上手なんて…ずるい…」


 ずるい…と言われても…なぜだか出来るんだから仕方ない。そうだ、もしかしたらこれは、お父さんの血が流れてるからかもしれない。確かお父さんは何かの技術者だったはずだから。何の技術者だったかな…?守秘義務が何とか…ああ、そっか、教えてもらってないや私。


 まあ、それはともかくとして、


「今までサボってた分、これから頑張るから、今までのことは帳消しに…ね?」

「もう…仕方ないわね…今回だけよ?」

 そう言うと友美ちゃんは私の隣に座って、自分の受け持つ作業を始めた。

 こうして私の『初めての部活動』は、大変充実した内容で終了した。…わけなんだけど、私はふと思う。


「…このクラブ…『科学部』から『ロボット工学部』に変えた方がいいんじゃ…?」



 部活が終わった後、友美ちゃんとしばらくブラついて、自宅へと帰ってきた。

 とりあえず、今日あったことを日記に付け、テレビから流れる偉い人の会見や、変な名前の装置が開発されたとか言うニュースを聞き流しながら夕食をとり、その後入浴を済ませ二階の自分の部屋に戻った。


「あ、そうだ。明日から夏服」


 真新しい夏用の制服をタンスから取り出して、明日の準備をしてベッドに横になった。

「やっと夏服〜!これで暑さも少しはマシになるかも!それにやっぱり新しい服はいいよねー明日が待ち遠しい!」

 私はもう夏服が嬉しかった。どのくらい嬉しいのかと言うと、ベッドの上をゴロゴロと転がり回っちゃうくらいの嬉しさ。なぜか?それは、夏服の方がかわいいから!断然!


 そんなこんなしている内に私は、心地よい夢の世界へと旅立っていた。



 この日はいつもよりぐっすり眠れたような気がする。



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