夜の公園 【2】
「シャーン」
鈴の音?
依子は気がつくとジャングルジムの上にいた。
義男が心配そうに下から覗いているのが見える。
「私…」
自分の行動に少しためらいながら、依子はふらついた足でジャングルジムを下りた。
義男が半端心配そうに、そして笑いながら近づいくる。
「佐々木さんて、結構活発なんだ。びっくりしたよ」
「私もちょっと、びっくり」
「えっ、大丈夫?」
「多分、もう大丈夫。でも、酔ってんのかな、私…」
依子はベンチに腰掛け、冷たくなった自分の手に息をかけた。
秋の夜風は、酔った体には冷たかった。
星もチラチラと凍てついた空で瞬いている。
このままでは、心までもあの遠い星のように凍りそうだ。
夜の公園は、寝静まった街同様静かだった。
石畳の上をこつこつと歩く音だけが遠くまで響く。
「吉田くん、よく寝ているね」
「ほんとだ、幸せな奴」
二人は目を見合わせて笑った。
二人の笑い声と枯葉の擦れる音がかさりと音を立てる。
「ここで大丈夫、有り難う。また来週」
依子は、先ほどの酔いも醒めたのか、足取りも軽く掛けていく。
義男は依子がマンションに入るのを見届けると同時に、吉田に声をかけた。
「いつまで狸寝入りしているつもりだ。下ろすぞ」
「人聞きの悪いこと言うなあ。
今しがた目が覚めたばかりですよ。
でも何かいいムードじゃなかったですか、義男くん?」
そういってまだ酔い覚めやらぬ顔で、ふらつきながら背中から降り、義男の顔を覗き込む。
「公園に置いてくりゃ良かったかな、吉田くん」
少しはにかみながら、義男は顔を歪めた。
その理由が何なのかは、義男自身が一番分かっていることだ。
「それだけはご勘弁を…。
でも、佐々木さんって見かけによらず、じゃじゃ馬だったりして。
こりゃ尻に敷かれること、覚悟しとかなくちゃ。ねえ、義男くん」
吉田の軽い冗談が、ころころと坂道を転がっていく。
「今から家帰る?もう終電終わってると思うけど」
意地悪く逃げるように走り去る義男の後ろから、ヨタヨタとよろめきながら吉田が着いていく。
青白い月が、冷えきった夜空をさらに冷たく照らしていた。
夢 につづく