夜の公園 【1】
「おい、吉田。大丈夫か」
酔った吉田を背負いながら義男は言った。
色づき始めた銀杏の葉が、石畳の上を秋の気配に染めていた。
依子は足早に歩いていた。
自分と同じくらいの体格の吉田を背負っていながらも、義男の歩幅に付いていくは大変だ。
アメフトで有名だったのはまんざら嘘でもないらしい。
歩く義男の広い背中を眺めながら、依子は頼もしさを感じていた。
「中嶋くん。もう少しゆっくり歩いてくれると助かるんだけど」
「ご免。気がつかなかった」
息が切れ切れの依子と並び、義男は銀杏の葉をかさかさいわせながら、申しわけなさそうに歩いた。
かすかな沈黙が続く。
夜風が依子の酔った頬を優しく撫ぜる。
ほろ酔い気分の体は、さながらふわりと宙を舞う蝶のように軽やかだ。
ずっとこのまま歩いていたい
依子は思った。
そうこうしている間に、義男との別れの時間が刻々と近づいてくる。
「佐々木さんの家はどっち?」
義男が沈黙を破るように言った。
「この公園の近くだから、この辺りで良いわ」
「家の近くまで送るよ」
義男が心配そうな顔をする。
「でも、中嶋君の家、反対方向じゃなかった?」
依子は気を利かせたつもりで答えた。
しかし、
「夜道の一人歩きは危ないから…」
そう言いきって、義男はまた足早に歩き始めた。
何か気のさわる事言ったかしら
足早に歩く義男を、不思議そうに依子は見ていた。
「公園を横切っていこう」
今度は、公園の方へずんずんと進んで行く。
公園の木々は、赤、黄色、オレンジと、それぞれ自分の色にほのかに染まっていた。
その葉の色を楽しみながら、依子は鼻歌交じりで歩く。
青白い電灯がゆらりと揺らめいた。
しんと静まり返った夜の公園は、不思議と怖くなかった。
義男と歩いているからかもしれない。
依子は子供にかえったように、駆け出し、一心にブランコを漕ぎ始めた。
始めはゆっくりと、そして段々と強く。
「佐々木さん、落ちないように気をつけて」
義男の心配をよそに、依子は力強く漕いだ。
義男の声が遠くに聞こえる。
何か叫んでいるが、それさえ分からなくなりそうだった。
夜の公園【2】 につづく