ほのかな思い 【3】
「あと一踏ん張り、頑張りますか」
西村が依子たちの肩を抱え込むように、会場へと促す。
がっしりとした西村の指が細い肩を優しく包み込む。
こんな何気ない優しさが女の子には心地よいかもしれない。
社内でも西村の評判は良い。
それも男女問わずというところが、憎い。
そう考えると、西村の言っていることも過言ではないのかもしれない。
「ねぇ、作業終わったらどこかで慰労会しようよ」
そう言ったかおりは何かにつけて、集まるのが好きだった。
根っからのお酒好きなのか、お酒を飲む雰囲気が好きなのかは分からないが、たまに急に依子を呼び出すことがある。
依子もゆっくりと飲むお酒は嫌いではなかったが、大勢でわいわい騒ぐのは苦手だった。
「展示会も始まっていないのに、慰労会ですか、かおりさんは。その頭の中には何が入っているんですかー、お酒かな?」
かおりの頭を揺らす吉田に
「ちょっとやめてよ」
と子犬のようにじゃれあうのだった。
かおりと吉田は幼なじみで、二人を見ていると家族ぐるみの付き合いの長さを感じる。
自分にも兄弟がいれば良いのに
と、依子はふと幼い頃に亡くなった兄のことを思い出していた。
「良いわね、何でも言える友達がいて。羨ましいわ」
「こんな狂暴な奴は、女じゃないっす」
「そんな奴にいつも助けてもらったのは、どこのどなたでしたっけ?」
誇らしげなかおりの頬はうす紅色に上気している。
少女が嬉々として話すその姿のようだ。
幼少から武道で鍛えられたかおりの体は、均整のとれた体つきだ。
二人を遠目に、依子は手際よく片付け始める。
「じゃあ、片付けも済んだことだし、そろそろ行きますか」
義男のひと声で、皆一斉に動き出した。
まるで催眠をかけられたように。
少しかすれた義男の声は、よく通る声だ。
生まれつきなのか、鍛えられてそうなったのかはわからない。
義男の声には人の心を動かす何かが潜んでいるように思えた。
待ってました!
と言わんばかりに、かおりと吉田は今にも駆け足でかけていきそうな勢いだ。
かすかな疲労感が依子には心地良かった。
夜の公園 へつづく