ほのかな思い 【2】
地元ではなく、少し離れたこの小さな会社に勤め始めて、丸三年が過ぎた。
それこそ、父と成人式の振袖を買い求めに来たのが、ここを訪れた最初だった。
知り合いの人の勧めで何も分からず来た父娘に、親切な接客をしてくれたのが良かったのか、この会社に内定が決まった時は、父も喜んでくれた。
初めての一人暮らしもようやく慣れ、同期ではかおりと同じ部署に付いた。
かおりは地元出身ということもあって、違う部署の社員とも知り合いが多かった。
物怖じしないかおりの明るい性格が、時として依子の元気の源にもなっている。
最近では、自分の人見知りな性格も個性だと思うようになった。
これもかおりのお陰かもしれない。
依子は、少女のように屈託なく笑うかおりの側で、楽しく過ごす日々を幸せと感じるのだった。
「自分の次というのが、良いわね。その自信ってどこから湧いてくるの」
かおりが半端噴出しそうになるのをこらえつつ、長椅子から立って、西村の肩を叩いた。
二人が並ぶと絵になる。
誰とでも話せるかおりが時々羨ましく思えた。
「実際、西村は女の子にもてる。だが、僕とそう見てくれは変わらないと思うけど、何かが違う、何かが…」
真剣に悩む吉田の姿に
「自意識過剰がここにも一人?」
かおりは軽く二、三度、吉田の背中を叩きながら、お腹を抱えて笑い始めた。
それにつられて、依子もくすりと笑う。
きょとんとした吉田の表情で、作業の疲れも少し吹き飛んだ気がした。
飲みかけのジュースを飲み干し、二人席を立った。
ほのかな思い【3】 につづく