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逢魔が時  作者: 由卯
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薪能 【3】

 雑踏の中、依子は義男を捜していた。


  いつの間に(はぐ)れてしまったのだろう。


 駐車場に行くよりも、この雑踏の中から義男を見つけたかった。

大海原に、一人船を漕ぎ出した気分にも似た感覚で、依子は義男を捜した。


 一瞬、波を割るように人の波が途切れ、その先に、険しく、そして悲しげな表情の義男が立っていた。


「もう、絶対、その手を放さない」


そう言った義男の目には、強い決意が見えた。


「しっかり手を持っていたんだけどな」


申し訳なさそうに依子が言ったか否や、義男の腕は依子を引き寄せていた。


 頭の中で、人々のざわめきが耳鳴りのように聞こえる。

こんな近くに人の温かさを感じたのは、久しぶりだった。

というよりも、人と深く関わることを、依子自身ずっと避けていたことを、義男の肌の温もりが思い出させた。

義男の鼓動が、規則正しく聞こえ、依子は、生きている喜びを感じずにはいられなかった。

その鼓動と舞台で響く鼓の音が重なり合いながら、天高く木霊する。


 能楽の第二場が始まるとなおも、義男の腕に力が入った。

それは、依子を守ろうとする義男の抵抗の全てだった。

そんなことで、依子を守れるとは義男自身、思ってはいなかった。

しかし、見す見す何者かの手に、依子を委ねることは出来なかった。


「中嶋くん…」


 仕手の謡が遠くから、囃子方の音と流れる中、今の依子の耳には、それさえも聞こえなかった。

ただ、義男の鼓動だけが依子の耳に響くだけだった。

疑問 へつづく

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