表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逢魔が時  作者: 由卯
22/25

薪能【1】

凍てつく寒さの中、薪能が始まる。

その中で、出会ったものは…

 カフェの重い扉を開けると、暮れなずむ空が朱鷺色から暗い闇へと変わろうとしていた。

温かな家の中からすると、外は大分冷えこんできている。

肩をすぼめて、二人は足早に車に乗りこんだ。


「寒くなってきたね」

「防寒、バッチリよ」


 温かな飲み物は、人の心までも温かにするものだ。

一時間余りで、二人の間には、先ほどからの暗い沈黙は消え、お互いの距離が縮まったような温かさを感じていた。


 車のエンジンをかけ、薪能の会場がある城跡に急いだ。


 開演まで、時間が三十分もなかった。


  少し長居をしてしまった。


と、思いながら、義男は逸る気持ちを押さえた。

駐車場がまだ開いていたのが、せめてもの救いだった。


 能舞台の会場までは、大手門から石の敷き詰めた広場を抜け、坂を上らなければならなかった。

明りといえば、所々に焚いてある松明の灯りのみだ。

日もいつの間にかとっぷりと暮れ、寒さも先ほど以上に厳しくなっていた。

凍てつく寒さを頬に感じながら、義男と依子は、暗闇に伸びる城壁を眺めた。


「よし、行くぞ」


 義男はそう言うと、依子の手をしっかりと握りしめ、坂道を掛け上がった。

依子は、息があがりそうになるのを必死で我慢した。

しかし、義男の健脚には敵うはずもなく、坂の途中で走るのを断念した。

依子が急に止まったので、義男は前のめりに倒れかけたが、持ち直しながら、ゆっくりと、依子の歩調に合わせて歩き始めた。


「ご免、せっかちで」

「いいの、私が運動苦手だから」


握りしめた手が少し汗ばんできた。


「走ったら、暑くなっちゃった」


義男の握りしめた手からするりと抜けると、依子は一歩先を歩き始めた。


 見上げると、人々の黒い影が、坂の上の城跡に流れこんでいた。

その群れに流されるように、二人も上へ上へと登って行った。

薪能【2】 へつづく

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ