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逢魔が時  作者: 由卯
20/25

遠出 【2】

 町は少し傾いた柔らかな陽の光を浴びて、黄金色に染まっていた。

車内にも、その柔らかな光が差し込んでいた。

道に沿った水路の水面が、きらりと銀色に光り、時々魚の尾ひれが水面から見え隠れしているのが見える。


「確か、ここら辺りだと思ったんだけど」


 路肩に車を停め、義男は地図を広げ、目印の城跡を探した。

外の空気を吸おうと、依子は車から下りた。


 こつこつと靴音が響く古い石畳が、町の歴史を物語っている。

歩道に沿って均等に立っている街灯も、町の景観を損なわないように古めかしいガス燈風に(しつら)えてあった。

依子はあちらこちらと見物しながら、ふらふらと歩き始めた。


 陽もまだ暮れていないのに、町はしんと静まりかえっていた。

そのことが一層秋の寂しさを増すようだった。


 向こうから人が歩いて来る。

その人に道を尋ねようと、依子は歩み寄って行った。


 つむじ風が依子の前を通り過ぎた。

石畳の上を白く砂が舞い、依子は軽く目を閉じた。

次に目を開けた時には、そこには誰もいなかった。


  まぼろし?


 不思議そうにしている依子の横に、義男が車をつけた。

先ほどよりだいぶ歩いたらしい。

車の窓を開け、


「随分先に行っていたので、慌てたよ」


心配そうにしている義男の顔を見て、依子は申し訳なさそうにぺこりと頭を下げ、微笑んだ。


「場所が分かったから、行こうか」


 助手席のドアを開け、座席についたと同時に、義男は依子の右手を強く握りしめた。

動悸が伝わりそうなくらい、強く握りしめたと思ったのも束の間、義男ははっとその手を振り解き、車を急発進させた。


 依子は義男の顔をまともに見ることができないまま、その火照った頬を見られぬよう窓の方を見つめた。

暫く二人の間を、暗く重たい沈黙が支配した。

が、少しして、城壁が見え始めると、


「あの城壁の向こうが、会場だ」


張り詰めた空気を押し破るように、義男が重たい口を開いた。

依子は、義男の声で体をピクリと動かした。

その優しげな声に、包まれながらも


「どこかで、お茶しましょう」

と答えるのがやっとだった。



蔵・カフェ へつづく

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