遠出 【2】
町は少し傾いた柔らかな陽の光を浴びて、黄金色に染まっていた。
車内にも、その柔らかな光が差し込んでいた。
道に沿った水路の水面が、きらりと銀色に光り、時々魚の尾ひれが水面から見え隠れしているのが見える。
「確か、ここら辺りだと思ったんだけど」
路肩に車を停め、義男は地図を広げ、目印の城跡を探した。
外の空気を吸おうと、依子は車から下りた。
こつこつと靴音が響く古い石畳が、町の歴史を物語っている。
歩道に沿って均等に立っている街灯も、町の景観を損なわないように古めかしいガス燈風に設えてあった。
依子はあちらこちらと見物しながら、ふらふらと歩き始めた。
陽もまだ暮れていないのに、町はしんと静まりかえっていた。
そのことが一層秋の寂しさを増すようだった。
向こうから人が歩いて来る。
その人に道を尋ねようと、依子は歩み寄って行った。
つむじ風が依子の前を通り過ぎた。
石畳の上を白く砂が舞い、依子は軽く目を閉じた。
次に目を開けた時には、そこには誰もいなかった。
まぼろし?
不思議そうにしている依子の横に、義男が車をつけた。
先ほどよりだいぶ歩いたらしい。
車の窓を開け、
「随分先に行っていたので、慌てたよ」
心配そうにしている義男の顔を見て、依子は申し訳なさそうにぺこりと頭を下げ、微笑んだ。
「場所が分かったから、行こうか」
助手席のドアを開け、座席についたと同時に、義男は依子の右手を強く握りしめた。
動悸が伝わりそうなくらい、強く握りしめたと思ったのも束の間、義男ははっとその手を振り解き、車を急発進させた。
依子は義男の顔をまともに見ることができないまま、その火照った頬を見られぬよう窓の方を見つめた。
暫く二人の間を、暗く重たい沈黙が支配した。
が、少しして、城壁が見え始めると、
「あの城壁の向こうが、会場だ」
張り詰めた空気を押し破るように、義男が重たい口を開いた。
依子は、義男の声で体をピクリと動かした。
その優しげな声に、包まれながらも
「どこかで、お茶しましょう」
と答えるのがやっとだった。
蔵・カフェ へつづく