表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逢魔が時  作者: 由卯
2/25

出会い 【2】

「シャーン」


 どこからともなく、鈴の音が聞こえてくる。

かすかだが、しかしはっきりと、依子の耳には聞こえる。

耳を澄ませば、薄暗い闇からささやき声さえ聞こえてきそうだ。

不思議と怖いという気持ちはなかった。

音のする方に目をやると、鬱蒼と茂った林の奥に、おぼろげながら明かりが見える。

ざわざわと風が木々を揺らすと、その明かりも一緒になって揺らめき、今にも消え入りそうだ。


「シャーン」


 かすかに聞こえた鈴の音も、次第に力強いものへと変わっていく。

恐る恐るその明りの方へ向かって歩いていくと、木々の間に古い社が建っているのが見えた。

まるで、何者かが手招きをしているようにゆらゆらと、そんな気配すら醸し出している。


  こんな所に神社なんてあったかしら


 木々の葉が幾重にも覆いかぶさり、月明かりさえ届かない参道を依子の足は、まっすぐ神社の境内に向かった。

そこには、夜の闇に溶け込んだ入母屋造りの古めかしい神殿が鎮座していた。

その神殿の古びた壁の木目を見ると、様々な表情の顔が蠢いているような、かすかな息づかいさえ感じた。

その木目に触れながら、音のする方へ回廊に沿って回ると、舞殿がせり出していた。


 何かの祭祀の時に奉納する舞なのだろう、一人の巫女が、神官とおぼしき人々の奏でる笙や龍笛、篳篥に合わせ舞っていた。

太鼓の調子も深い地の底から湧き出るように、ゆるりと流れてくる。

その奏でる音は、風の音にも、地上にこだまする人々の声にも聞こえ、まるで大勢の人々の大きなうねりを感じる。


 巫女は、二十歳前後の少女とも少年とも言えぬ顔立ちをしている。

緋色の袴に、千草模様の薄絹の衣が舞うたびに、ひらひらと揺れる。

頭には花かんざし。

銀細工で施された飾りが、松明の怪しげな灯りにチラチラと音をたて、小刻みに揺れている。

手には、先ほどから聞こえる幾重にも連なる鈴が、何色ともいえぬ、様々な音を発していた。

一心に踊るその姿を、依子は美しいと思った。

しかし、その舞姿は儚げで、この世のものではないように薄らぎ、上気した頬からは、妖気さえ放たれているように見える。


 松明の明かりがパチリと音を立て、白い煙が細長い蛇のように揺らいでは昇っている。

呪文のような祝詞の調べに、依子の体は縛られるようだった。


出会い【3】へ 続く

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ