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逢魔が時  作者: 由卯
19/25

遠出 【1】

初めての義男との遠出。

依子の心は打ち震えるのだった。

「2,500円になります」


 おぼろげな気分の中、意識がはっきりした時は、高速を下りる途中だった。

高速道路の出口からのスロープを下りる車の速度は、よちよち歩きの子供が歩いているような、間怠(まだる)っこしさがあった。

いつの間にか眠ってしまったらしい。

どのくらい眠ったのだろう。

初めての義男とのドライブだというのに、不覚にも眠ってしまった自分に、女としての資質を疑ってしまう依子だった。


「ごめんなさい。私、何時の間にか眠ってしまって」

「いや、気づかなかった」


 気恥しそうにうつむく依子をよそに、意外にもあっけらかんとしている義男の返事に、気負っていたものがドサリと落ちた気がした。

そして、一人で浮かれていた自分に、一抹の恥ずかしさがこみ上げてきた。


  この人は、クールなのか。それとも、鈍感なのか


運転する義男の横顔を盗み見しながら、依子は、どういう態度をとっていいのか、迷っていた。

何だかそっけない態度の義男に


  本当は、来たくはなかったのかもしれない


一人悶々とする気持ちの中、すっかり紅葉してしまっている森の木々を、ぼんやりを眺めていた。


 車の中は、義男らしく、すっきりと片付いていた。

一度、かおりの車に乗った時、可愛いクッションやカバーなどが、まるで自分の部屋のように飾り付けてあるのを見たせいか、義男の車の中は、殺風景といえるほど何もなかった。

性格というのが、こういうところで出るものかと、依子はくすりと思い出し笑いをした。


「何か、面白いものでもあった?」


声を出して笑っていたらしく、義男が楽しげにしている依子の横顔に尋ねた。


「かおりの車とは、全然違うなと思って」

「彼女の車の中、どんな感じ。凄いの?」

「凄いというか、車の中って、以外にもその人の性格が出るのかなと思って」

「鋭いとこ突いてくるね、佐々木さんは」


 おどけた義男の表情で、依子の緊張も少し(ほぐ)れた気がした。

あとどの位あるのだろう。

この道のりが永遠に続くのだろうかと思いながら、依子は微笑んだ。


 山の緑が次第に少なくなり、ぽつりぽつりと民家が見えてきた。

暫らくすると、市街地らしい町並みが見え始めた。

市街地はもと城下町らしい佇まいを残しながら、新しい建物と融合していた。

格子戸や漆喰の壁、一昔前にタイムスリップするように、車は町並みへと溶けこんでいく。


 何かしら温かさを感じるのは、ここに住む人たちの心遣いの現われなのだろうか、依子は初めて訪れた町なのに、妙に落ち着いた気分になった。


「素敵なところね。初めてなのに、懐かしい感じがする」

「高い建物が建っていないからかな。何か、町に住む人たちの、心が伝わってくるようだね」


依子は、義男が自分と同じようなことを思っていたことに、微かな喜びを感じていた。


遠出【2】 へつづく

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