遠出 【1】
初めての義男との遠出。
依子の心は打ち震えるのだった。
「2,500円になります」
おぼろげな気分の中、意識がはっきりした時は、高速を下りる途中だった。
高速道路の出口からのスロープを下りる車の速度は、よちよち歩きの子供が歩いているような、間怠っこしさがあった。
いつの間にか眠ってしまったらしい。
どのくらい眠ったのだろう。
初めての義男とのドライブだというのに、不覚にも眠ってしまった自分に、女としての資質を疑ってしまう依子だった。
「ごめんなさい。私、何時の間にか眠ってしまって」
「いや、気づかなかった」
気恥しそうにうつむく依子をよそに、意外にもあっけらかんとしている義男の返事に、気負っていたものがドサリと落ちた気がした。
そして、一人で浮かれていた自分に、一抹の恥ずかしさがこみ上げてきた。
この人は、クールなのか。それとも、鈍感なのか
運転する義男の横顔を盗み見しながら、依子は、どういう態度をとっていいのか、迷っていた。
何だかそっけない態度の義男に
本当は、来たくはなかったのかもしれない
一人悶々とする気持ちの中、すっかり紅葉してしまっている森の木々を、ぼんやりを眺めていた。
車の中は、義男らしく、すっきりと片付いていた。
一度、かおりの車に乗った時、可愛いクッションやカバーなどが、まるで自分の部屋のように飾り付けてあるのを見たせいか、義男の車の中は、殺風景といえるほど何もなかった。
性格というのが、こういうところで出るものかと、依子はくすりと思い出し笑いをした。
「何か、面白いものでもあった?」
声を出して笑っていたらしく、義男が楽しげにしている依子の横顔に尋ねた。
「かおりの車とは、全然違うなと思って」
「彼女の車の中、どんな感じ。凄いの?」
「凄いというか、車の中って、以外にもその人の性格が出るのかなと思って」
「鋭いとこ突いてくるね、佐々木さんは」
おどけた義男の表情で、依子の緊張も少し解れた気がした。
あとどの位あるのだろう。
この道のりが永遠に続くのだろうかと思いながら、依子は微笑んだ。
山の緑が次第に少なくなり、ぽつりぽつりと民家が見えてきた。
暫らくすると、市街地らしい町並みが見え始めた。
市街地はもと城下町らしい佇まいを残しながら、新しい建物と融合していた。
格子戸や漆喰の壁、一昔前にタイムスリップするように、車は町並みへと溶けこんでいく。
何かしら温かさを感じるのは、ここに住む人たちの心遣いの現われなのだろうか、依子は初めて訪れた町なのに、妙に落ち着いた気分になった。
「素敵なところね。初めてなのに、懐かしい感じがする」
「高い建物が建っていないからかな。何か、町に住む人たちの、心が伝わってくるようだね」
依子は、義男が自分と同じようなことを思っていたことに、微かな喜びを感じていた。
遠出【2】 へつづく