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逢魔が時  作者: 由卯
16/25

丙八幡神社 【2】

 その時だった。

義男の表情が微かに曇った。

何かを感じたその表情は、先ほどの笑顔とは一転して、険しいものだった。


「どうしたの?」


依子が義男の顔色の変化を見て、心配して尋ねた。


「いや、何でもない」


そう言って義男は、力強く弓を鳴らし始めた。

弦の低く鈍い音が、神社の境内に木霊した。

その波動に木々が共鳴するかの如く揺れ、風の音が一層大きく聞こえた。


 銀杏の落葉が風に舞い、黄金色に煌く葉が依子を誘うように螺旋を描いていた。

その風の音に体の芯が共鳴するようだった。

 小さな竜巻の中に人影を感じたが、人がいる様子もなく、小さな風の渦が幾重にも起こっては消えていった。


 義男の行動を見ていた父が


「もしかしたら、貴方のおじい様は菊池内蔵助きくちくらのすけという方ではありませんか」

と思い出したように聞いた。


「祖父をご存知ですか?」


弓を引く手を止め、義男が振り返って言った。


「それは有名な射手でしたから。

 貴方があの内蔵助さんのお孫さんですか…。

 どことなく面影があります」


 どうやら父は、義男の祖父のことを知っているようだった。

縁とはどこでつながっているのか分からない、不思議なものだと依子は思った。

義男と自分は、逢うべくして逢ったのだと、出逢ったことは偶然ではなく必然だったのだと、強く感じ始めていた。


「どうやら、何者かは立ち去ったと見えますな。

 練習の邪魔をしてはいけませんので、私たちはこの辺で」

父は一人足早にその場から去っていった。


「じゃあ、中嶋君。練習がんばってね。また明日。」

 父の後ろ姿を依子は小走りに追いかけた。

父が義男に言った最後の言葉が気になったが、今は父を追いかけるので精一杯だった。


 義男は二人の後姿をじっと見つめた。

手に持った弓が小刻みに震えているのを微かに感じると同時に、何かが動き始めていることを感じていた。


約束 につづく

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