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逢魔が時  作者: 由卯
14/25

母の行方

父から聞く、母の行方とは

あれは、11月の最後の日曜日。

八幡神社のお祭りの日だった。

おまえと祐介は母さんに連れられ、祭りの見物に来ていた。

奉納される神事や男集の御輿を、二人とも目をきらきらさせて見入っていた。

4年に一度のこの祭りは、何百年もの昔から執り行われ、三日間続けられる。

その中日には、舞殿で奉納される幾つもの踊りが一番の賑わいを見せる。

私も幼い頃から、この祭りに参加できる日を夢に描いたものだった。


 夕暮れが近づくと、露店に灯りが点り、りんご飴や焼きイカの香りが鼻をくすぐった。

正午から奉納された踊りがひとまず終了し、おまえたちのところに行くと、祐介の姿が見当たらない。

祭りということもあって、どこかで遊んでいるのだろうと軽い気持ちでいたが、祭りが終わり参拝客もまばらになった。

参道の露店の明かりも一つまた一つ消えていきつつあった。

大勢の人々が手分けをして祐介を探したが、見つからず、夜も更け風が冷たく石畳を吹きすさむ。

そのうち氏子の一人が


「神隠しにあったのだろうか。

 それとも、魔が連れて行ったのか」


と突拍子もないことを言い始めた。

今の時代にそういうことがあるものかと私は信じなかったが、人々の心の内は、そうではないかという不安で、暗澹とした表情に変わっていった。


 その後も捜索は続き、しかし一年経っても何の手がかりもないまま捜査も打ち切りになった。

それからというもの、母さんは毎日夕暮れ時になると、神社に祐介を探しに出かけるようになった。

何をするわけでもなく、ただ日が沈むまでベンチに腰掛け、沈む夕日を眺めているだけだった。

いつもお前はそんな母さんの後を追いかけ、新しくできた公園のブランコで遊んでいたが、母さんにはお前の声も姿さえも見えていない感じだった。


 秋も深まり、神社の境内にある御神木の大銀杏が黄金色に輝いていた。

風が吹くたびに、銀杏の葉が雪のように舞い、降りしきっていた。


 ある日、私はその中に佇んでいる母さんが、嬉しそうに微笑んでいる姿を見た。

まるで何かに微笑みかけているように、幸せな母さんの顔を今でもはっきりと覚えている。

夕日に照らされて、母さんの影までも黄金色に輝いていた。


 それが母さんを見た最後だった。私は、あの時、祐介が迎えに来たのではないかと、思えてならなかった。

なぜそう思ったのか分からないが、多分、おまえが、母さんは今でも生きていると思っているのと同じように、私もそう思っているのだ。


 ぽつりぽつりと話す父の後姿を、少し高くなった朝の光が、優しく包むように照らしていた。

消え入りそうな父の影が、揺らめきながらしかし暗く父の足元に落ちていった。



八幡神社 へつづく

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