真実と記憶 【3】
家から近くの川原までそう遠くはない。
川に沿ってだらだらと坂道を下っていくと、一面に田畑が広がる。
山の方に向かって木々が茂っているところに母たちが眠っている墓地があった。
日の光が川面を銀色に照らしていた。
依子は、余りの眩しさに目を閉じた。
見渡す限りのもの全てが黄金色に染まっている。
川原の草までも、ただの枯れ草ではなく、冬支度を一斉に始める気配がそこかしことしていた。
「母さん、元気だったか。今日は依子も一緒だよ」
父は墓石に水を掛けながら、母に話かけた。
依子も父の横で、手を合わせた。
そして、意を決したように静かに父に向かって話しかけた。
「お父さん、私、昨日お母さんの夢を見たの。
そして、何故か、お母さんは今でも生きているんじゃないかと思った。
どうしてなのか分からないけど、そう思えてしかたがないの。お父さんはどう思う?」
依子言葉に父はうろたえることなく、落ち着いた口調で答えた。
「そうだな、お父さんも今でもお母さんは生きていると思っているよ」
意外な父の言葉に、依子はにじり寄って父の上着の裾を握り締めた。
やはり、あの夢は何かを暗示していたのだ。母は生きている!
そう確信した依子は、心の中で叫んでいた。
「でも、もう居ないのだよ。この世にはね」
次の瞬間、依子の期待は、父の一言で音をたてて崩れていった。
「えっ、今さっき生きているっていったじゃない。
あれは嘘なの?」
「嘘じゃないよ。
母さんは私の心の中では、いつまでも生きているってことさ。
依子だってそうじゃないのか」
余りにも真剣な依子の表情に少したじろぎながら、父は穏やかに言った。
そして、落胆する依子の顔を見て、ぽつりぽつりと話始めるのだった。
母の行方 へつづく