表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逢魔が時  作者: 由卯
12/25

真実と記憶 【2】

 依子が出て行った時と変わらず、家は凛と建っていた。

引き戸を開け家に入る。

懐かしい我が家の香りを楽しみながら、朝日に照らされた廊下を歩く。

乾いた木の軋む音が、誰も居ない部屋に響いた。

居間にいると思って声を掛けたが、父の姿はなかった。

ピアノの上に飾ってある母の写真が依子に笑いかける。


  お母さん


依子の心に迷いがよぎる。

縁側から庭先に出て、父を探した。


「お早う、お父さん」

庭木の手入れをしていた父の後姿に声をかけた。


「どうしたんだ。連絡もなしに来るなんて、びっくりしたじゃないか」

急な依子の訪問に驚きながらも、嬉しさを隠し切れない父の笑顔を見て、依子も少し嬉しくなった。


「もうすぐお母さんの命日だと思って、早めに着ちゃった」

依子の笑顔を見て、父も微笑んだ。


「どれ、お客様にお茶でも差し上げようかな」


 父は、手折った花を何本か手に持ち、依子の背中に手をかけ縁側の方へ歩いた。

そして先ほど庭先で咲いていた柊の白い小さな花を花瓶に生け、母の写真の前に置いた。

束状の白い花は鈴のようにゆらゆらと揺れ、ほのかな甘い香りが流れくる。

この木は、クリスマスに飾る西洋柊とは違って、赤い実はつかないらしい。

昔から、邪悪の侵入を防ぐために庭木にされると、以前父から聞いたことを依子は思い出していた。


「仕事の方は順調か?」


慣れた手つきでお茶を入れながら、父が聞いた。


 母が亡くなってから、男手ひとつで育ててくれた父は、今年で何歳になるのだろう。

今までそんなことなど考えもしなかったが、白髪交じりの父の頭を見て、依子はこれから先の父の生活のことを思い浮かべていた。


「来週から振袖の展示会なの。忙しくなりそうだわ」

「そうか、もうそういう時期か。

 懐かしいな、おまえが成人して三年が過ぎるのか」


そう言って、父は目を細めながら、お茶を飲んだ。

久しぶりに父の入れたお茶を飲みながら、依子は深いお茶の香りを楽しんだ。


「そろそろ母さんのところでも行くかな」


短い沈黙を破って、父が立ち上がった。


真実と記憶【3】 へつづく

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ