夢(予感―) 【2】
何時間経ったのだろう。
依子は自分の嗚咽で目を覚ました。
目を開けると部屋の中は真っ暗になっていた。
雨はいつの間にか止み、アスファルトに映るネオンで外は昼間のように明るかった。
ずっと母の夢など見ていなかったのに
涙が止まることを知らぬよう、後から後から頬を伝ってくる。
依子は久しぶりに子供のように声を出して泣いた。
どうして悲しいのかは分からなかった。
ただ泣きじゃくりながら、ぼんやりと母の事を思い出していた。
母が亡くなったのは、小学校二年の寒い冬の日だった。
山から吹き下ろす風が、肌を突き刺すように冷たかった。
夕方には霙混じりの風で、寒さは一層厳しいものになっていった。
その日の夕方、家には母の姿はなく、学校から帰った依子は、薄暗い部屋で母の帰りを待っていた。
待っている時間が、永遠に続きそうなほど長く感じられた。
結局その日、母は帰ってこなかった。
父はというと、さほどうろたえる気配もなく、そして兄が亡くなった時よりも落ち着いて見えた。
そのことがかえって幼い依子の胸に小さな鋭い刺として引っかかっていた。
毎年、命日になると父と墓参りに行く。
しかし今考えると、母がどうやって亡くなったのか何ひとつ記憶に残っていない。
幼い頃の出来事ゆえにその記憶に疑問を持つこともなかった。
もしかしたら、母は生きているのでは
なぜかそんな予感がしてならなかった。
本当にそうならば、今どこにいるのか
依子はいてもたってもいられない衝動に駆られた。
明日、父に確かめなくては
母が生きていることを強く確信した依子は、夜が明けるのを待ちきれずにいた。
真実と記憶【1】 につづく