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二・五、決起集会! キグルミオン!

二・五、決起集会! キグルミオン!


 瞳が地下格納庫に無事帰還した。キグルミオンからロボットアームで出され、瞳はキャラスーツからも這い出す。

 瞳が辺りを見回すと、ヌイグルミオン達の他は久遠しかいなかった。

 坂東と美佳は、残業の為に先に事務所に上がったとのことだ。

「残業あるんですか?」

「あるわよ。こんな状態だから、手短にすることにしたけど……」

 久遠はこの状態での残業というのに、何だか少しうれしそうだった。

「? 結局、あの微笑みの巨人は、キグルミオンだったんですか? その……」

 瞳は久遠とエレベータに向かいながら、訊いてみたかったことを口にする。

「はは、ゴメンね。あれは私にも分からないの。あの頃は私もまだ中学生だったし、それに外国にいたの。飛び級で学校を終わらせたかったから」

 そう応えつつも久遠は、懐の中から携帯端末を取り出した。瞳には見えない角度でモニターを確認する。事務所の中が映っていた。

「そうですか……」

「だけどあの時期なら、宇宙怪獣の管轄は自衛隊のはず。その時に坂東隊長が自衛隊にいたのは確かよ、瞳ちゃん」

「えっ? じゃあ!」

「あはは、だから私は分からないって。むしろ直接見たことがあるのは、瞳ちゃんなんでしょ? 瞳ちゃんはどう思うの?」

 久遠の携帯端末の中では、スナック菓子の袋を抱え込んだ美佳が走り回っていた。

「えっ…… その……」

「答えにくいか。まっ、多少願望も入っちゃうだろうしね。それにしても――」

 久遠はクスッと笑う。坂東がその無骨な手で、小さな飾りつけを持って天井に手を伸ばしていた。パーティの飾りのようだ。簡単で質素な飾りだ。

 その飾りを坂東が真剣な顔で、天井に張りつけている。そしてその大きな背中が、モニターに大写しになっていた。

 久遠は『微笑みの巨人』の資料映像を、もう一度思い出した。

 確かにあの時、怪我をした巨人の足下で一人の少女がいた。

 その少女は巨人が身構え直すと、その背中を見上げて全く同じポーズをとっていた。

 子供だから危険が分からなかったのかと思っていた。だが違ったようだ。少女は一緒に戦おうとしたのだ。

 久遠はクスッと笑って瞳の横顔を盗み見る。

「何ですか?」

「別に。男の背中に惚れるとは、瞳ちゃんもやるね――って思ってね」

 久遠が率先してエレベータに入り、瞳が後に続いた。

「ええーっ! そんなんじゃないですよ!」

「あはは! そうなの?」

 モニターの中の美佳が、自分の名前が貼られたロッカーに手をかける。その時チラリと隣りに映ったのは、『危』の字が貼られた久遠のロッカーだ。坂東も危惧する程の危険物が、このロッカーには入っているらしい。

 美佳はそのことを気にする様子もなく、自分のロッカーの扉を開けた。

 その美佳のロッカーから、大量のぬいぐるみが零れ落ちてくる。美佳はそれを拾うと飾りつけの為にか、各自の机に並べ出した。ジャンクフードとぬいぐるみが、仲良く机に並べられる。

「そうですよ…… てか、これからも宇宙怪獣の襲撃は、あるんですか?」

「分からないわ。これっきりかもしれないし、全部で十二回ぐらいかもしれないし、二十五回ぐらいかもしれないわ」

 坂東がケーキを切り分けようとして、等分に分けるのを完全に失敗する。切り口も崩れ、ケーキは何だか残念な状態になった。

 無理もない。坂東が握っていたナイフは、どう見てもケーキ用ではなく軍用だったからだ。

「何の数字ですか、それ?」

「さぁ、当てずっぽよ。気にしないで。でもそんなにきたら、こっちの予算が底を着いちゃうしね」

 美佳が半目を妖しく光らせて、坂東にあるものを手渡した。その美佳はつけヒゲをいつの間にかしている。かなり嬉しそうだ。

「予算がなくなったら、どうするんですか?」

「そうね…… その時は――」

 坂東が生真面目な顔で、つけ鼻と眼鏡のおもちゃとにらめっこをしていた。つけるべきか否か。苦悩しているようだ。

「?」

「私達の活躍をノベライズして、どっかで出版してもらいましょう!」

「何言ってるんですか? 久遠さん!」

「あはは! そう? 調子に乗りすぎたかしら」

「もう…… 怒られますよ……」

「誰に?」

「さぁ…… 坂東隊長に――かな?」

 エレベータが事務所の階に着いた。

 瞳と久遠はエレベータを降り、真っ直ぐ事務所を目指す。

「あはは、そうね。まぁ、とりあえず今は――」

 久遠が事務所のドアの前で、笑って振り返る。どこかで見たと瞳は思った。

「決起集会といきましょう――」

 事務所の中では坂東と美佳が、微笑んで待っていてくれた。

「もちろん、瞳ちゃんの歓迎会つきでね! いい残業でしょ?」

 坂東がサングラスを外し、つけ鼻と眼鏡のおもちゃをしていた。羞恥に耐える為か、顔が真っ赤になっている。心なしか屈辱に震えているようにも見えた。

 だが本人は至って真面目に笑顔を作ろうとしている。不自然なことなど、構っていられないようだ。

「……」

 瞳は入り口で立ち尽くす。

「どうした仲埜? 怪獣の襲撃があったからな、とりあえず形だけだぞ。外はまだ大変だからな。それに俺はこれから今回の宇宙怪獣の襲撃に関して、報告に出向かわなくてはならない。そんなに時間も取らないぞ。さっさと入ってこい」

 実際坂東は、ぶっきらぼうにそう言う。

 だがそれが只の照れ隠しなのは、誰の目にも明らかだった。

 坂東の笑みはそれ程不器用だった。この雰囲気に徹し切れないが、それでも場をしらけさせまいと笑顔を作ろうとしている。無理に作った笑顔だ。そして慣れない笑顔だ。

 そう、その顔は十年前に瞳を救った微笑みの巨人とは、似ても似つかないぎこちないものだった。

 それでも瞳は――


「へへ……」


 十年ぶりにその笑顔に出会えて、心の底から微笑み返した。


参考文献

『消えた反物質素粒子物理が解く宇宙進化の謎』小林誠著(講談社ブルーバックス)

『だれにでもわかる素粒子物理―宇宙は非対称から始まった!―』京極一樹著(技術評論社)

『ホーキング宇宙の始まりと終わり私たちの未来』スティーブン・W・ホーキング著・向井国昭監訳・倉田真木訳(青志社)

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