西暦2008年5月3日
東の空から朝日が昇り始めた頃、今日で齢千百となる佐藤美咲の目が覚めた。ゴールデンウィーク初日であるにもかからわず、家の周りに人声はあまりなく、鳥の声や虫の音などがただうるさく響いている。彼女はその音を聞きながら身体を起こし朝食の準備をした。
台所から沢庵を取り出し、昭和チックな炊飯器で米を炊く。炊き終わるのを待っている間、彼女は居間にいき、どことなくなつかしさを覚えるような古いカラーテレビのスイッチを押した。
「スマホというものが日本に出てきている」というようなことを言っているニュースを彼女はただぼうと見ていて、(こんな金属の板が光を放っているのか。信じられない)などと思っているうちに三十分近くが経過し、米はもう炊けていて蒸らしも済んでいた。
そのことに気が付いた彼女は炊飯器から米をだして、茶碗に移した。茶碗と沢庵を居間に持っていき、それを食べた。そして食べた後は洗濯などを行い、外に出て錆びだらけになってしまったシャッターをあげた。
佐藤は町の古い布団屋をただ一人で経営している。布団屋を経営して早六十年近くが経過した。品並びをそろえ一昨日に受け持った布団の打ち直しをしていると、老女が車を停めて布団を持ち店の入口からやってきた。
「すみませーん。布団の打ち直しをお願いしてほしいのですが」
佐藤は作業をやめて入口のほうに行った。
「打ち直しですね。そちらの布団でよろしいでしょうか」
「はい」
続けて老女は言う。
「友人があなたのお店のことを言っていて、ぱっと見た感じ私と同じ年の人がやっているのかなと思ったけど、あなた若いわねえ」
佐藤は20代くらいの見た目で、1100年近くも変わっていない。不老不死だから老いという現象がないのである。
「叔母の店を継いだんです」
「そうなのねえ」
佐藤は息を吐くように噓をついた。不老不死であることが世間にばれてしまうと拉致や人体実験をされてしまう。だから、ばれないように何度も嘘をついてきた。佐藤にとって嘘は今の生活を守るために必要不可欠だった。
老女が佐藤に打ち直し分の金額を支払い、店から出ていくと彼女は先ほどやっていた作業を再び始めた。
途中昼食をはさみ、打ち直しのほかにも新たに夏布団を作っていると、いつの間にか午後5時を過ぎていた。佐藤は市街地のほうに買い物に行こうと外に出ると空がとても赤くなっていることに気づいた。佐藤はその空を見上げながら又思った。
死にたいと。




