天国トマト
これは、とある人から聞いた物語。
その語り部と内容に関する、記録の一篇。
あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。
む、つぶらやくん、いま頭に何か落ちなかったか?
いや、雨粒や鳥の糞とかじゃないと思ったが……ちょっと失礼。
うん、やはり赤いな。だが、血とかじゃない。トマトだな。
――こんな街中に、トマトが落ちてくるわけがないだろ?
そりゃあね。土よりコンクリートの比率が高そうなこの街中で、トマトが育っているはずがない。窓際に鉢植えが置いてそうなマンションとかもないしね。
けれども、こいつは人様が育てたものじゃない。いうなれば天国が育てたものなのさ。
ふふ、そう聞いたら変な表情もしたくなるよね?
だが、こいつはマジモンなのさ。僕と一緒のときでよかったな、つぶらやくん。
そうだな……あそこの地下駐車場へまずは避難しようか。天の日差しを浴びるところはよろしくないからね。
よし、もう一度、頭を見せてもらえるかい?
ふんふん……やはりか。すまんが、ちょっと写真を撮らせてもらうよ。実際に見てもらったほうが、わかりやすいだろうし。
ほい、これでわかるかい? 君のつむじの真ん中あたりに、トマトのヘタらしきものが浮かんでいるだろ? 実際、触ってみるとわかるはずさ。
ほうら、確かな感触があるだろ? いたずらで乗っけたりなんかしていないさ。もしそうだったらあっさりはねのけられているはず。それがきっちり根を張っているように、びくともしない。
けっこう、珍しいことなんだよこれ。天国の使いに唾つけられたてことだからね。
はっきり言おう。それをそのままにしておいたら、ほどなく死ねる。
どうする? 君が死にたいのであれば、放置しておくけれど?
まあ、つぶらやくんなら生きるほうをとるだろうな。死んでしまったら、この話も書くことができまい。話のタネを探している君なら、当たり前だろうな。
うん、じゃあ根の処置をしちゃおうか。
つくづくついているよ。まさにトマトが落下した瞬間を目の当たりにできたんだから。
これならまだソーイングセットのはさみでも……よし、切れた。
ああ、ちょっと歯を食いしばってくれるかい? いまから根っこを引っこ抜くからね。
痛いのかって? いや~、痛みよりも君の歯のほうが心配でね。
抜けるんだよ、歯が。口からこぼれるんじゃなくて、引っこ抜いた根に歯がくっついていく形でね。
頭の中を通って抜けるわけだから、どうなるか分からないよ。命が残っても、重い後遺症が残ったりするから。それが嫌だったら、本気で踏ん張ってね。
……ん、よしよし。血と肉はちょっとついたけれど、歯は無事なようだ。これでも被害はほんと少ない方なんだよ?
――え? 駐車場の外でかげろうが増えてきた気がする?
早いなあ。いや、ここで抜き取っておいて、危機一髪てところか。
つぶらやくん、こいつはここに寝かせておこう。僕たちはそこの柱の影に隠れる。
いや、へたに距離を開けようとするのは、もう危ない。そのかげろうこそ、トマトをかぎつけてやってきた「お使い」だろうからさ。
しかし、本当に早い。君、よっぽど気に入られて、連れていかれそうなのかもね。
おっと、もう静かにしておこう。僕はともかく、ターゲッティングされている君はね。
トマトを落とされた以上、どのようにつながりを持たれているか分からないから、黙って観察に徹するといい。
……入ってきたな、ここへ。
迷いない動きで、さっき抜いた根っこのところへ。見てみなよ、宙に浮いているのが分かるだろ?
ああして、付着したものをどんどんしゃぶる。はた目には消えていくようだろうが、もし頭から生やしたままなら、身体が同じ目に遭っているよ。
空気へ溶け込むように、どんどん消えていく。最後には、ああして根っこ部分も灰になっちゃって証拠も全然残らない。
ん、出ていったみたいだ。いいよ、声出しても。
あいつらがいったい、いつトマトを落としてくるかは分からない。君も落とされた直後に反応できなかったろう? 彼らはああして仕込んでくるのさ。
いつもの自分の身体と思っても、ささいな異常は把握しておく。ふつーに生きるのにも、ふつーにできたほうがいいこともあるのだろうさ。




