多様なお客様をお待ちしております。
短編です
今の時代、オーダーメイドの靴なんて、流行らない。
何よりまず高いし、普段使いできない。そんな風に思われているのか、うちにはほとんど客が来ない。常に火の車。今は常連さんのおかげで何とかなり立っている状態だ。
まぁ、一般的に売られているスニーカー、確かに履きやすいし、耐久性もそこそこあって軽い。そして何より安い。だからオーダーメイドの内の店はそろそろ・・・
「うん、ピッタリだ、ありがとう」
お客さんにそう言われて、不穏な考えを打ち消した。有難いことに定期的にうちでローファーを買ってくれる、付き合いの一番長い常連さんだ。
「こちらこそ、いつもありがとうございます」
「妻にこの店の事を話したら、気になったみたいで、妻が今度お邪魔するかもしれません」
「わぁ、ありがとうございます!」
物腰は柔らかで、スーツ姿がビシッと決まっている。そんな素敵な男性に合う靴を懸命に作り続けてきた。うちみたいな小さな店は口コミが大事だから、そう言う一言はかなり有難い。
男性を送りだしてクローズの札を下げた。
今から他の予約の靴を作らないと。個人事業主に休みは基本的にないようなもんだ。気楽なようでいて、なかなかに忙しい。
外は暗い。あの常連さん、いつも夜に来るけど、彼も忙しいんだなぁ。勝手に戦友だと思っている。
鼻歌交じりに皮を裁断していると、ドアが開いた。あれ、鍵閉めたつもりだったけど。
「すみません、今日はもう・・・」
開いたドアから、大きな足が入ってきた。ソレも、特大サイズ。いや、人間の足ですらないかも・・・。
「コノ足ニ合ウ靴ヲクダサイナ」
声は普通に女性の声なんだけど、姿かたちが人間じゃない。大きな足はミツマタに分かれている。これは、鳥の足?爪?なのか?
「爪ガ鋭イモノデ、柔ナ靴ダトスグニ穴が開イテシマウノ」
「あ・・・えっと・・・」
俺は人間用の靴は作ったことあるけど、人外の靴は作ったことがない。こ、断らないと・・・。でもどうやって?大きな身長、鳥のようなふわふわの・・・体毛?頭と思しき場所には、ギラギラと光る金色の目・・・。怖い・・・。
「あ、じゃぁ・・・採寸・・・しますね」
俺は何を言っているんだろう。怖い。でも、俺は靴屋だ。靴に不満のある人を見過ごせない。人じゃないけど。
足の型を取って、サイズを測る。もはや人間の規格では役に立たないので、常識を捨てる。爪が気になるというんだから、爪が当たらない、そして耐久性に優れた素材を・・・。
「こんな感じでいかがでしょう?」
設計図を見せて、素材についてを説明する。しばし説明を受けていたその女性?は、「ソレデ、オ願イシマス」と言って予約を取って帰って行った。
俺は大急ぎで他の靴を仕上げ、その靴の製作に取り掛かった。気に食わない靴を作って、殺されるのは嫌だ。
数か月の試行錯誤の末、とりあえず俺の満足のいく試作品が出来た。それを連絡すると、今夜行きますと返事が返ってきた。
ドアの前で待っていると、常連さんがやってきた。
「こんばんは」
「え、あ、い、いらっしゃ・・・いませ・・・」
「妻の靴を見せてもらいに来ました」
「妻の・・・え?」
常連さんの後に、あの足の女性?が一緒に入店した。
「あ、え?」
「マァ、素敵。コレデ試作品ナノ?完成品ニナッタラ、ドンナニ素敵ニナルノカシラ!」
履いてみた女性?はとても喜んだ様子で、先払いで料金を支払ってくれた。ちゃんと日本円だった。
その後、人と、それ以外の人たち?からも時々注文が入るようになった。
——まぁ、繁盛するなら・・・いいか?——
いらっしゃ・・・・いませ~・・・。




