表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/25

第9話 猫耳 × 男らしさ

 街ゆく人びとの姿かたちは、亮が元いた世界の人間にそっくりだった。


 もちろん服装や持ち物に違いはあるのだが、

「今日は中世ヨーロッパ風のコスプレ・イベントをやっているんですよ」

 と聞けば、

「へえ、そうなんだ」

 と信じてしまいそうだった。


 とはいえ、元の世界では絶対に見かけないタイプの人間もいた。


 尻にしっぽ。


 頭に猫耳。


 ――そう、亜人である。


 猫耳がピョコピョコと風に揺れている。


 それを見つめながら、

(ああ、ナオトよ……)


 亮は学生時代の友人を思い出していた。


 ナオトは、重度の猫耳マニアだった。


「たしかに『まどマギ』は傑作だよ。でも――なぜ猫耳少女がいないんだい? 五人もいるんだ、一人くらいは猫耳が生えていてしかるべきではないかな? おれはその多様性の欠如が気になったねえ」

 なんて言って、オタク仲間の顰蹙を買うやつだった。


 あるいは、

「たしかに『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』は傑作だよ。でも、『獣化形態(ビーストモード)』――あれはいただけない。なぜ獣化するのがエヴァなんだい? なぜお前が獣化しているんだい? 獣化すべきはマリやアスカの方で、彼女らに猫耳が生えるべきだったんじゃないかな?」

 なんて言って、オタク仲間の失笑を買い、

「お前らは何もわかっていないぜ!」

 と中指を立てる。


 そんなやつだった。


 また、ナオトの誕生日のこと。


「あの猫耳マニアを喜ばせてやろうぜ」

 ということで、亮たちはドン・キホーテで猫耳カチューシャを購入。


 それをつけて、ナオトが一人暮らしする部屋に押しかけた。


 猫耳姿の亮たちを一目見て、ナオトはトイレに駆け込んだ。


 なぜトイレかって?


 直接確認したわけではないが、

「げー! げー!」

 という苦しげな声が響いていたので、たぶん吐いていたのだと思う。


(あの時は本当に悪いことをした……)


 亮は空を見上げた。


 そして、

(お前もこの世界に転生できるといいな、ナオト!)

 と友を想った。


 だが、

(……いや、待てよ)


 気になることがあった。


 すなわち――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 妹を持つ人が「妹萌え」を理解できないように、

「いやいや、妹に幻想を抱きすぎだろ」

 と苦笑してしまうように、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 人間は()()()()()()()()、そこに夢を見られるのではないか?


(ナオトよ)


 亮は再び空を見上げた。


(お前はこの世界にはこない方がいいかもな……)




◇◆◇◆◇




 亮は、冒険者ギルドに向かった。


「まずは冒険者に登録するといいぞ」


「すぐに仕事にありつけるはずだ」


「宿も紹介してくれると思うぜ」

 というのが、トムとゴリゴリゲゴイルマンからもらったアドバイスだった。


 歩いて数分、ギルドに到着した。


 ギルドは、石造りの立派な建物だった。


 ドアが開きっぱなしになっており、「OPEN」という看板が出ていた。


(さあ、いざギルドへ!)


 と思うものの、

(……ううっ)


 足が重い。


 じつは亮は不安だった。


 つまりその、

(おれはやっていけるのだろうか……)

 という不安である。


 どうにも踏ん切りがつかない亮は、ギルドの脇で立ち止まり、さりげなくあたりの様子をうかがった。


 ほどなくして一人の男がギルドから出てきた。


 それは、プロレスラーのような体格をした男だった。


 おまけにスキンヘッドで、後頭部に「殺」と刺青が入っていた。


 亮はいよいよ不安になる。


(だって冒険者といえばモンスターを討伐したり、ダンジョンに潜ってお宝を探したりするんだろ? おれに務まるのか!?)


 また一人、ギルドから出てきた。


 今度は、

(おっ)

 小柄な青年だった。


 肩幅が狭くて痩せている。


 それに、いかにも陰の者という雰囲気をまとっていた。


 亮はほっとする。


(そうさ! 冒険者すなわち筋肉ムキムキってことはあるまい。いろいろなクエストがあるはずだ。いろいろな仕事があるはずだ。だからおれだって!)


 と、その時だった。


 亮を勇気づけてくれた先の小柄な冒険者が、突然ズボンをずり下ろし、その場で立ち小便を始めた。


 すぐにギルド職員が駆けつけてきて、冒険者をどこかに引きずっていった。


(……おれ、やっていけるのかな)




◇◆◇◆◇




(えーい、しっかりしろ!)


 亮は自らを鼓舞した。


(何ごとも初めが肝心だ)


(特にこういう場所では、一度なめられたらおしまいだぞ!)


 亮は胸を張り、大股で歩き出した。


 ギルドの中は、元の世界の役所や病院に似ていた。


 奥の方にカウンターがあって、十人ほどの受付嬢が受付業務をやっている。


 また、壁には掲示板。

 冒険者たちが掲示物を眺めている。


 左手には、簡素なテーブルと椅子が並んでいる。

 イオンのフードコートのようだった。

 いまは閑散としているが、

(夜になるとドンチャン騒ぎが始まったりするのだろうか?)


 亮があちこち見回していると、

「こんにちは」


 ギルドの職員がやってきた。


 彼女の頭には、猫耳が生えていた。


 猫耳亜人である。


「今日はどのようなご用件ですか?」


 亮は、

「えっと。冒険者に登録したくて……」

 と答え、

(しまった!)


 すぐに後悔した。


(「えっと」はまずいだろ、「えっと」は!)


(ここはもっと男らしくいかないと!)


 というわけで、

「いやあ、自分の力を試してみたくなりましてねえ」

 と付け加えた。


 さらに、腕を肩の高さに持ち上げると、力こぶを作り――いや、ほとんどこぶはできなかったが、とにかくこぶらしきでっぱりに、チュッと口づけした。


「自分の限界に挑戦してみたいんですよ。だから冒険者になろうと思いまして」


 猫耳娘は

「フフッ、そうなんですね」

 と愛想よくうなずいた。


 一方の亮は、

(……おれは何を言っているんだ?)


(いやマジで、おれは何を口走っているんだ?)


(男らしいってこういうことだっけ?)


 混乱していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ