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第5話 大喜利 × 人生の意味

 自分が人間だと証明してみせろ――。


 そう言われた亮。


(え。どうやって!?)


 哲学者デカルトが転生してきている可能性に賭けて、

われ思う、(コギト・)ゆえにわれあり(エルゴ・スム)!」

 と念じてみようかとも思ったが、

「ケッ。何を訳のわからねーことを言ってやがる! ファック!」

 と射殺されそうな気がしたので、やめておいた。


 代わりに、

「あのぉ……」

 と切り出した。


「せめて何かお題をいただけませんか?」


「何?」


「お二人からお題をいただいたらですね、こう、私がパッとお答えしますので……」


「チッ」

 口ひげが舌打ちした。


「大喜利じゃねーんだぞ!」


 どうやらこちらの世界にも大喜利はあるらしい。


「まあまあ、いいじゃないか」

 オールバックが笑った。


「よし、おれがお題を出そう」


「はい、お願いします!」


 オールバックは一瞬思案顔になり、それから、

「――とある街に一軒の酒場があった」

 と語り始めた。


「そこは、たくさんの冒険者が立ち寄る人気の店だ。酒が旨いとか、雰囲気がいいとか、魅力はいろいろあるが、何といっても看板娘。じつに愛想のいい娘でなあ、これが人気の理由だった」


 とそこで、

「おい、その話は……」

 口ひげが気色ばんだ。


 そしてゴニョゴニョゴニョと何事かつぶやいた。


 オールバックは軽い口調で、

「別にいいじゃねーかよ」


 口ひげの背中を叩いた。


「せっかくの機会だ。ゴブリンの上位種の意見も聞いてみようじゃねーか。な?」


 亮が

「あのぉ、繰り返し申し上げますが、おれはゴブリンではなくてですね……」

 と口を挟むと、

「おめーは黙ってろ!」


 口ひげが一喝した。


(八つ当たり……)


 口ひげは、

「チッ!」

 再び舌打ちして、

「とっとと切り上げろよな。おれも腹が減ってきた」


 オールバックは大きくうなずいた。


「話を続けるぞ。――さて、看板娘だ。いつの頃からか、この娘にはたくさんのファンがついた。店側もこれを放っておく法はないと考えたんだろうな、店の一角に小さなステージを作り、月水金の夜には歌謡ショーを開くようになった」


(ほぉ)


「さらに、サイン会も開かれた。グッズも発売された。限定グッズが高値で取引されたりもした」


(……これ、何の話だっけ? オタ活?)


「ところが、ある日のことだ。ファンに激震が走った。看板娘が歌謡ショーの最後に『みなさんにお知らせがあります。私、今度結婚することになりました』と発表したんだ。『ファンのみなさんには私自身の言葉で伝えたかったんです』ってな」


(……うん。やっぱこれオタ活だわ)


「ファンは荒れたよ。熱心なファンほど荒れた。とりわけ結婚相手が幼馴染で、十年以上前から付き合っていたらしいという話が出た時は大変だった。看板娘をなじるやつ。グッズを燃やすやつ。店に殴り込みをかけようとするやつ。首をくくろうとしたやつもいたな」


(……いよいよオタ活だ)


「で、さて――ここで問題だ。お前さん、こんな熱烈なファンをどう思う?」


「どうって……え!?」

 亮は思わず声が出た。


「もしかしてそれがお題ですか?」


「そうだ。これがお題だ」


「ハハハ」

 亮は乾いた笑いを漏らした。


(それがおれの生死を分けるお題かよ……)


 まったく、オタ活に対するコメント一つで生きるか死ぬかが決まるとは、なんとまあ無茶なことか。


 しかし生殺与奪の権を握られているのだから、どうしようもない。


 亮は腕組みして、

(どう思うって……そりゃファンには同情するさ)

 と考え始めた。


(何年も好きで応援してきた人が結婚するとか、じつは前からカレシがいたとか、そんなことを知ったらそりゃまあ落ち込むよな。荒れる者だっているだろう)


 亮にも、ファンの人たちの気持ちはわかる。


 とはいえ、

(看板娘はロボットじゃないんだ)


(恋愛だってするし、結婚だってする。そんなことはファンだってわかっていたはずだ)


(っていうかさ)

(真のファンだったら、そこはつらいのをグッと堪えて、むしろ祝ってあげなきゃダメなんじゃないかな)


 とまあそんな風に考える亮だったが、

(……いや、そうじゃないのか?)


 ふとそう思った。


(おれの考えはたぶん正しい)

(きっと誰もが同意してくれるだろう)


(でも――()()()()()()()()()()()()()


()()()()()()()()()()()()()()()()()()


(答えは否だ!)


 亮は、大学時代の友人のことを思い出していた。


 亮自身は

「あずにゃんペロペロ」

 だの、

「レムがかわいすぎて死ぬ」

 だのと、作中キャラにハマるタイプのオタクだが、友人の中には、ずばり声優にどハマりし、グッズを買ったり、ライブに行ったり、ファンクラブに入会したり、布教活動に精を出したり、SNSのアカウントをチェックしたり、SNSへの投稿時間をグラフ化して壁に貼り出したり、それはそれはディープに入れ込むやつもいた。


 だがある日、終わりがきた。


 友人は荒れた。


 大いに荒れた。


 荒れまくる友人の話に耳を傾け、慰めてやったのが亮なのだが――彼はいま、その時のことを思い出していた。


 かくして言った。

「ファンのみなさんは、虚しくなってしまったんじゃないでしょうか」

 と。


 その言葉に、オールバックは目を細めた。

「虚しくなった?」


「ええ。つまりですね、ファンの人たちはその看板娘に捧げてきたんだと思うんです。――人生を」


「なるほど」


「単にお金や時間をたくさん使ってきたという意味ではありませんよ。ファンの人たちは、つらい時には看板娘を想って頑張ったと思うんですよ。嬉しい時にはやっぱり看板娘のことを想って、喜びを二倍にしたと思うんですよ。ファン同士で看板娘について語り合った夜もあるでしょう」


「ふむ」


「それがですよ、以前からカレシがいたということになると、『看板娘とともにすごしたおれの人生は何だったのだろう』と虚しくなってしまうと思うんです」


「……」


「もちろん、だからといって看板娘を誹謗中傷していいなんて話ではありませんよ。でもそれと同時に、『看板娘がカレシとイチャイチャしていた時に、看板娘を想って一人でニヤニヤしていたおれ。おれの人生って何だったんだろう』と虚しくなってしまった――この気持ちを否定することもまたできないと思うんです」


「……」


「それにですね、ファンの人たちだって、本当は結婚を祝福したいんじゃないですかね。だって彼女のファンなんですもん。でも、どうしても祝う気になれない。そしてそんな自分が嫌でたまらない。自己嫌悪に陥り、よりいっそう虚しくなってしまう。――ファンの人たちはこんな気持ちだったのではないでしょうか」


「……」


「えーと、まとめると」

 と言葉を続けようとした亮だったが、

「――もういい」


 口ひげだった。


 見ると、キラリ。

 口ひげの瞳が光っていた。


 唇は震えていた。


 彼は

「もういい」

 ともう一度言った。


 そして、

「わかったよ。よくわかった。――お前さんは間違いなく人間だ」

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