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第4話 グリーン・カレー × 人間の証明

(やれやれ、助かった……)

 と思ったのも束の間、いきなり矢じりを向けられた亮。


 十メートルは離れているはずだが、しかしものすごい威圧感である。


「お前を――殺す!」

 という口ひげの意志がビンビン伝わってくる。


 こういうのを殺気というのだろう。


 ドドドドドドドド。

 亮の心臓が早鐘を打った。


 彼は反射的に

「ちょちょちょちょ、ちょー!」

 声が裏返った。


(まるでブルース・リーだな。アチョー!)

 という脳内のもう一人の亮のつぶやきを無視して、

「ちょっ、ちょっと待ってください!」


 両手を高く掲げた。


「撃たないでくださいよ!」


 口ひげは無言だった。


 隣のオールバックも無言だった。


 二人はジッと亮を見つめていた。


「おれは人間です!」


 二人は無言だった。


「ゴブリンではありません!」


 二人はやはり無言だった。


 嫌な予感がした。


 転生にあたって【言語理解】という力を授かったはずだが、

(まさか故障しているんじゃないだろうな?)


(っていうか……)

(もしかして「リスニングはできるけれどスピーキングは不可」なんていう、まるで英語学習中級者みたいな仕様だったりして!?)


 かくして亮は叫んだ。

「アイム・ヒューマン! ノット・ゴブリン!」


 知っている単語を総動員する。


「マイ・ブラッド・イズ・レッド! ノット・グリーン! ノット・グリーン・カレー! オー・イエイ!」


(英語の次は中国語だ)

 と思ったが、

(いや、中国語なんてしゃべれないよ! 数字と、あとはポンとカンとチーぐらいしか知らないよ!)


 というわけで亮は荒い息をつき、

(さあどうだ!)


(これで通じたか!?)


 口ひげたちの反応を待った。


 すると、

「……ケッ」


 口ひげが吐き捨てるように言った。

「公用語に言い換えなくたって通じているよ、バカ野郎」


(通じているのかよ!)


(恥ずかしいじゃないかよ!)


(グリーン・カレーって何だよ!)


 口ひげは刃のような目で亮を見つめた。

「おめぇ、本当に人間なのか?」


 亮は

「ええ、もちろんですよ!」

 と言いかけたが、

(……待てよ)


(いけないいけない)


(こういう時にまともに対応しちゃいけないんだ)


 無礼なやつには強気で対処すべしというのは、亮が二十八年生きてきて学んだことだった。


(こういう相手にまともな対応をすると、すぐにつけ上がり、壺とか仏壇とか、妙にキラキラした絵とか、あと何だ、羽毛布団とか、そういうものを買わされてしまうんだ)


 亮は、「ビートたけしのTVタックル」だか「朝まで生テレビ!」だか、はたまた「サンデーモーニング」だか忘れたが、とにかくその手の番組の切り抜き動画をイメージしながら、

「きみは失礼な人だな!」


 声に怒気をはらませる。


「おれがゴブリンに見えるのか? いますぐ眼科に行ってこい!」


 ――相手が悪かった。


 口ひげの視線が鋭さを増した。

 ギュッと亮を睨みつけた。


 いまにも矢を放ちそうな雰囲気だった。


(ひぃ!)


 亮はもともと気が強い方ではない。

 というか、肝っ玉は小さい方だ。


(謝るか? 謝っちゃうか!?)

 と怯えるが、

「まあ、待て待て」


 そこでオールバックが口を挟んだ。


 オールバックは、口ひげよりも穏やかな口調で、

「悪いがな、にいさん」

 と言った。


「おれたちには、あんたが人間には見えないんだよ」


(人間に見えない……?)


 言葉の意味を捉えかねる亮。


 しかしすぐに

(……そうか。そうだった!)


 亮はゴブリンの血やら脳みそやらを全身に浴びまくっていたのだった。


 そのせいで、いまの彼は人間というよりも、むしろモンスターに分類されそうな見た目をしていた。


 加えて、スーツにネクタイという格好である。


 もしかすると異世界人の目には、相当奇異に映っているのかもしれない。


(……え。ヤバいじゃん、おれ)


 ようやく状況を理解した亮。


 彼は慌てふためき、

「ち、違うんです! こんな格好ですが人間です! 人間人間!」


 オールバックは、

「うーん……」

 と苦笑してみせた。


 しかしその目は笑っていなかった。


 獲物を見る目をしていた。


 口ひげが言った。

「……たしかに人間っぽくはある。しかし」


「そう。ゴブリンの上位種の中には、人間に擬態する賢いやつもいるからなあ」


 亮は抗議した

「おれがそんなに賢そうに見えますか!」


「ふーむ」


 二人はジロジロと亮の顔を見回して、

「……見えんな」


「ああ、見えんな」

 と言った。


 亮は両親に感謝した。


「とはいえ」

 口ひげが続けた。


「おれたちはベテランの冒険者だ。石橋を叩いて渡ることで今日まで生き延びてきた。だからここはとりあえずお前さんを射殺して」


「『とりあえず』で殺さないでください! 『とりあえず』で殺される側の気持ちを少しは考えてください!」


 亮の叫びを無視して、口ひげがニヤリと笑った。


「――仮にお前さんが人間だったとしても、なーに、ギルドには正当防衛だったと報告すればいいんだ」


 口ひげの言葉に、亮はびっくりする。

「正当じゃないし、防衛でもないでしょ!」


 亮がさらに反論しようとしたところで、

「まあ、待て待て」


 再びオールバックが口を挟んだ。


「二人とも落ち着けよ。な、落ち着けって。一旦ストップしようや。第一に、このままやり合っても埒が明かない。そうだろ? それに第二に、おれは小便がしたくなってきたよ。第三に、腹も減ってきた。ゆえにそろそろ結論を出そうじゃないか」


 口ひげが顎を引いた。


 オールバックは、亮に言った。

「おれたちは殺人鬼じゃない。冒険者だ。お前さんが本当に人間なら殺したくはないんだ。だからお前さん――自分が人間だって証明してくれよ」


(証明?)


(え? 自分が人間だと証明するの?)


(……どうやって?)


 亮の脳内で、

(哲学キタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━ !!!!!)

 もう一人の亮が叫んだ。


(って、おい! 「キタ-」とか言っている場合じゃないだろ!)


(半角カナとか使っている場合じゃないだろ!)


(自分が人間だと証明するなんてこと、可能なのか……?)


 亮は無言でぜーぜーと肩を上下させた。

ご覧いただきありがとうございました。


続きが気になったら、ブックマークやポイント(下の「★★★★★」)で応援いただけると嬉しいです!


※全35話、3月28日に完結予定です。最終話まで完成済です。

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