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第3話 ミックス・ジュース × 耳に鉛筆

 神からもらった鑑定眼はクソだった。


 神がクソなら、もう自分でやるしかない。


(そうだ!)

 亮はギュッと拳を握った。


(神に期待したおれがバカだった)


(おれは自分の力で何とかしてみせるぞ!)


(そして、おれにできることといえば!)


(――あれ?)

 特に何も思いつかなかった。


「クッソー!」


(諦めるな、おれ! 脳内のデータベースを検索するんだ!)


 亮は灰色の脳細胞をフル回転させる。

(閃け、おれの脳細胞!)

 

 ほどなく浮かんできたのは、

「ジョ、ジョン!?」


 ジョン・レノンの顔だった。


「……なんで?」


 亮は、特段ビートルズのファンというわけではない。


 というか、「ヘルプ!」といえば「なんでも鑑定団」だよね、ぐらいの知識しか持ち合わせていない。


 だからなぜいまジョン・レノンなのかさっぱりわからないが、

(よ、よし!)


 溺れる者は藁をもつかむの精神で、

(そうだよな、ジョン。こういう時こそ想像力が重要だよな。想像するぞー!) 

 と気合を入れて、

(イマジン。想像してみよう。おれがゴブリンに殴り殺された世界を。――って、想像している場合か!)


 次いで思い浮かんだのは、

「粉」

「塵」

「爆」

「発」

 の四文字で、

(そうだ、粉塵爆発!)


(アニメや映画では、粉塵爆発を使って敵を吹き飛ばすなどしているぞ! おれもドカーンと一発。――って、こんな草原でどうやって粉塵爆発を起こすんだよ! クソ! おれのクソ!)


(……あかん。マジであかん)

 亮は思わず目をつむった。


 そして、それが悪かった。 


 石にけつまずいた。

 体が、大きくかしいだ。


 いかにも運動神経が悪い者らしく、

「あわわわわわわ!」


 両手をグルグル回してバランスを取ろうとする亮。


 だがダメだった。


 彼はどったーん、まるでマンガかアニメのように勢いよくすっ転んだ。


(まずい!)


 すぐに体をひねり、上半身を起こした。


 先頭のゴブリンが間近に迫っていた。


「ああ、神よ!」

 と思わず叫びそうになったが、

(……それは違うだろ)

 という気がした。


(都合のいい時だけ神の名を呼ぶのはずるいだろ)

 と思った。


 だから口をつぐんだ。


 佐藤亮、なかなかどうして気骨のある男である。


 亮は後ずさろうとして、地面に手をついた。


 その手が、偶然そこに転がっていた石に触れた。


 手ごろなサイズの石だった。


 「手ごろ」というのは、つまり持ちやすく、かつ誰かの頭を殴るのにちょうどよさそうという意味である。


 そこからは一瞬だった。


 亮は地面に腰をついたまま両手で石をつかむと、 

「クッソー!」


 それを、先頭のゴブリンの額に叩きつけた。


 直後、ぶっしゃー!

 大量の液体が亮の顔に降り注いだ。


 彼は混乱して、

(な、何だこれ!?)


 いや、「何だこれ」ではない。


 石でもって相手の頭部を力任せに殴ったのだから、その直後に降り注いでくるものといえば、血か、脳みそか、脳漿か、涙か、鼻水か、またはそれらのミックス・ジュースぐらいに決まっているわけだが――亮は恐怖と興奮でアドレナリンどばどば、交感神経びんびん、まともな判断力を失っていた。


 亮はいまや獣だった。


「クソーッ!」

 とわめきながら石を振るうだけの獣だった。


 襲いくる二匹目のゴブリンの眉間を割った。

 三匹目のゴブリンの肋骨を折った。


 目を血走らせ、全身をミックス・ジュースでグショグショにしながら、亮は戦った。


 しかし――ああ、多勢に無勢。


 それが限界だった。


 亮にあばら骨を折られた三匹目のゴブリンが、苦痛に顔をゆがめつつも、亮の二の腕を叩いた。


 亮は思わず石を落とした。


(しまった!)


 四匹目、五匹目のゴブリンが迫る――!


 危うし亮。


 彼の第二の人生はここで終わってしまうのか?


 おい、亮よ。


 こちらの世界にきて、お前はまだ大便の異称しか叫んでいないぞ。


 こんなところで終わってしまっていいのか!?


(いいわけがない!)

(いいわけがない!)


(だがしかし!)


 ――もうダメだ。


 亮がそう思った時だった。


「すぱっ!」


 風を切る音が聞こえた。


 立て続けに二つ、三つ。


 見れば、ゴブリンたちの耳の穴に鉛筆が刺さっていた。


(ほお)

 と亮は思った。


(懐かしい……)


 子どもの頃、耳の穴やら鼻の穴やらに鉛筆を突っ込んで、

「見て見て! 怪奇鉛筆男だよ!」


「ハァ……。バカなことをしないの。危ないでしょうが!」

 と叱られた経験を持つ人は少なくないと思う。


 亮は幼少期から陰キャ街道一直線だったので、彼自身はそういうバカをすることはなかったが、しかし友人にはひょうきんなやつがいて、

「怪奇鉛筆男だぞ!」


「ワハハハ! こいつアホだ!」


 みんなで爆笑した記憶がある。


 たしか鉛筆男はその後、外耳炎になって発熱、学校を数日休んだはずだ。


(いやあ、懐かしいなあ。みんな、元気にしているだろうか)


(――って、懐かしんでいる場合ではない!)


 亮はかぶりを振った。


 恐怖のあまり現実逃避しかけていた彼だが、どうにか正気を取り戻す。


(一体何が起きたんだ?)


 改めて見ると、ゴブリンの耳に鉛筆が刺さっている、()()()()()()()


 ゴブリンの()()()()()()()()()()()()()()()のだった。


 そう、誰かがゴブリンに矢を射かけたのだ。


 ゴブリンどもが、

「ギエーッ!」

 と叫んだ。


 激しく動揺、混乱しているようだった。


「すぱっ!」

 という音がして、また一匹ゴブリンが倒れた。


 こめかみにはやはり矢が刺さっていた。


(……どうやらおれは助かったらしい)

 と思う亮だが、喝采を叫ぶには早すぎる。


(問題は、矢を射っているのがどんなやつかってことだ)


 何しろ異世界である。

 相手はゴブリンよりももっと厄介で、もっと恐ろしいやつかもしれない。


 だとすれば一目散に逃げ出さなければならないが……。


 亮は、体の上に乗っていたゴブリンの死骸を押しのけ、あたりの様子をうかがった。


 すると遠くの方から、男たちの声が聞こえてきた。


「よっ、お見事! またまたこめかみに刺さったな」


「ワハハハ! 見ろよ、あのゴブリン。まるで怪奇鉛筆男だぞ!」


「鉛筆男って……おい、懐かしいな!」


 亮は胸を撫で下ろす。


 ――どうやら相手は文明人。コミュニケーションも取れそうだ。


 亮ははやる気持ちをグッと押さえ、地面に伏して待った。


 そしてすべてのゴブリンが倒れたところで、

(よし、いくぞ!)


 一つ深呼吸し、

「すみませーん!」

 と声を張った。


 それからゆっくりと上半身を起こした。


 十メートルぐらい離れたところに、男が二人立っていた。


 一人はがっしりした体形の口ひげ。


 もう一人は長身で、髪をオールバックにしている。


 二人ともなかなかいかつい感じだった。


(うへぇ……)


 元の世界だったら絶対に近づきたくないタイプだ。


 だが、いまは選り好みをしている余裕はない。


 というか、

(モンスターがいる世界だ。むしろ頼りになっていいじゃないか)


(よし! おれは「東京生まれ、異世界在住、いかついやつはだいたい友だち」を目指すぞ)


 亮は

(おれの表情筋よ、いまこそ動け!)


 精一杯の笑顔を作ると、

「どうもどうもー!」


 努めて明るい声を出した。


 そして立ち上がろうとした。


 ――が。


「おう!」

 口ひげが鋭く叫んだ。


「そこを動くんじゃねえ!」


 口ひげの手が素早く動き、弓に矢をつがえた。


 矢じりはぴたり、亮に向けられていた。


 空気がピンと張りつめる。


(……え!?)

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