表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/33

第22話 宝箱 × 最適解収束率

 ダンジョンの一本道を進む三人。


 当初はガチガチに緊張していた亮だが、

(……ふーむ)


 次第に平常心を取り戻していった。


 だって、何も起こらないのだ。


 モンスターが姿を現すことはなく、かといってミイラ化した遺体が転がっているなんてこともない。


(なんか、地下鉄駅の人気のない通路を歩いているみたいだな)


(JR池袋駅の丸の内線への接続通路とか……)


 先頭のトリプルVは時折しゃがみこみ、床を観察。

 足跡の有無などを確認するが、

「よし」

 と一言。


 特に異変はないらしい。


 で、また進む。


 その繰り返しだった。




◇◆◇◆◇




 しばらくして、

「爺さん」


 ヒナが、ギルドから提供された地図を見ながら言った。


「そろそろ宝箱があるはずだよ」


 その言葉の通り、一抱えはありそうな宝箱が壁際に設置されていた。


(おお!)

(RPGでお馴染みの宝箱だ!)


(フリーレンが食われかけたあの宝箱!)

(……ん? あれは宝箱に擬態したミミックだっけ?)


 心弾む亮。


 一方、ヒナとトリプルVは、

「じゃあ開けるよ」

「あいよ」


 事務的な口調だった。


 ――まあ、無理もない。


 今回三人がやってきたのは、すでに探索し尽くされたダンジョンなのだ。


 過去何十人もの冒険者が訪れ、この宝箱を開けてきた。


 しかし出てくるものはカス、カス、カス!

 毎度カスだったと報告されている。


 どうせ今回もカスに違いない。


 そりゃ事務的にもなろうというものだ。


 ヒナがフタを開けるべく、宝箱に向かって腕を伸ばした。


 宝箱まであと五十センチ。


 あと四十センチ。


 あと三十センチ。


 ヒナの手が近づく。


 ――奇妙な声が聞こえたのは、その時だった。


【推奨:宝箱の開封を中止してください。最適解収束率0.724】


(ん!?)

 亮は慌ててあたりを見回した。


 しかし、ヒナとトリプルV以外の姿は見当たらない。


 ふいに挙動不審になった亮に対して、

「どうした、トールンバ」

 ヒナが手を停めた。


「あの、いまの声は……」


「声?」


「声が聞こえましたよね?」


「いや」

 ヒナは困惑顔になる。


 トリプルVも首を横に振った。


(え? おれだけ?)

(おれだけがいまの声を聞いたの!?)


(……ん。待てよ)


 改めて考えれば、さっきの声は「聞こえた」という感じではなかった。


 「頭の中に響いた」という感じだった。


 亮は思わずつぶやく。

「おれの頭の中で声がした?」


 すると、

「わかるよ、若いの」

 トリプルVがうなずいた。


「おれも頭の中で声が聞こえることがある」


「え!?」


「例えばそうだな、夜、布団に入るだろ」


「……え?」


「さあ眠ろうと目を閉じる。途端に頭の中で声が響くんだ。『もう一度便所に行った方がいいんじゃないか』って」


「……」


「おれは当然言い返す。『さっき行ったばかりだ』とな。しかし声も負けてはいない。ささやくんだよ。『前立腺肥大……』って。だからおれは」


「いやいや!」

 亮は叫んだ

「そうじゃなくて!」


「ねえ、その声ってさあ」

 ヒナは目を細めた。


「――鑑定眼のものなんじゃないかな?」


「なんと!」

 トリプルVが息を飲んだ。

「あの声が!?」


「あ、いや。爺さんの方じゃなくて」


(そ、そうか!)

 亮はハッとする。


(鑑定眼の声か!)


(ついに鑑定眼が動き出したのか!)


「なあ、トールンバ」

 とヒナが言った。


「ボクたちにも教えてくれ。声は何と言っていたんだい?」


「えっとですね、えーと」

 亮は記憶をたどった。


 ところが、

(……しまった! 何と言っていたか覚えていない!)


(おれのバカ!)


 再び声が聞こえた。

【推奨:宝箱の開封を中止してください。最適解収束率0.724】


(ほお)

 と亮は思う。


(なかなか親切なやつじゃないか)


(こいつとは仲よくやっていけそうだ)


「えーとですね」

 亮は言った。


「『推奨:宝箱の開封を中止してください。最適解』、あー、『最適解』……」


 亮が言いよどむと、再び声が聞こえた。

【最適解収束率0.724】


(マジでいいやつだな!)


「『最適解収束率0.724』と聞こえました」


 ヒナは、

「ほお」

 腕組みした。


 そして、

「『宝箱』ってのはこいつのことだろ?」

 つま先で宝箱を示し、

「開けるな、か……」


「なあ」

 トリプルVの目がギラリと光った。


「――開けてみようぜ」


「あん?」


「開けてみようぜって」


「……おい、爺」


 しかしトリプルVは、

「ここは敢えて開けてみようぜ!」

 と声を弾ませた。


 ヒナは心底呆れたという感じで、

「やめろ! いきなりカリギュラ効果を爆発させるな!」


(ははあ)

 ヒナの言葉に亮は感心する。


(この世界にもカリギュラ効果という概念があったのか)


(じゃあもしかして、吊り橋効果とかもあるのかな?)




◇◆◇◆◇




 亮の頭に響く声は、鑑定眼のものとみて間違いないだろう。


 三人の見解は一致した。


「しかしそれにしても」

 トリプルVはあごに手を当てた。


「妙な具合だな」


「妙?」


「だってそうだろ。鑑定眼という名前のくせに、何かが見えるんじゃなくて、声が聞こえてくるんだからな」


「ああ、たしかに」


「これじゃあ鑑定眼というより、『鑑定声』じゃないか?」


 トリプルVは首をひねった。


「または、『ボー鑑定』とか」


「『ボー』って何ですか?」


「ボーカルのボーだよ。『ボーカル鑑定』、略して『ボー鑑定』」


(なるほど。「ボーカロイド」のノリか)

 納得する亮。


 一方、何事か考え込んでいたヒナは、

「うるさいぞ、爺! 考えがまとまらないだろ!」

 トリプルVの尻を軽く蹴り上げた。


「やれやれ」

 トリプルVは尻を撫でながら、

「神のネーミングが粗雑なせいで、おれが蹴られちまったよ」

 とぼやいた。


 ヒナが言った。

「なあ、トールンバ」


「ええ」


「もっと他に何か聞こえないのかい? 例えば宝箱を開けてはいけない理由とか、『最適解収束率』というのがどういう意味なのかとか」


 亮は小さくうなずき、それから、

(鑑定眼さん――)


 心の中で語りかけてみた。


(どうかもっと言葉をお聞かせください)


 すると、おお、願いが通じたのかわからないが、

【推奨:宝箱を開封せず、蹴とばしてください】

 という声が聞こえた。


「蹴とばすそうです!」


「……何?」


「宝箱を蹴とばすそうです!」


 さらに続きが聞こえた。

【推奨:蹴とばした後、唾をかけるか、または尿をかけてください】


「蹴とばしたら、今度は唾か尿をかけるそうです!」


 一瞬の沈黙。


 そして、

「トールンバ……」


 ヒナはまじまじと亮の顔を見つめて、

「お前、マジで聞こえているんだよな? まさかこの爺の影響で」


「違いますよ! 悪ノリしているんじゃなくて、本当にそう聞こえるんですよ!」


「そうか、ならいいんだ。疑って悪かったな」


「いえいえ、とんでもない」


 そんな二人に、

「おい」

 トリプルVが抗議した。


「おれが悪ノリするのはもはや大前提、共通理解ですよね、みたいな調子で話を進めるのはよせ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ