表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/25

第20話 レース × 死亡フラグ

 朝八時――。


 ハッピー・タウンのゲート周辺は混み合っていた。


 大小のトカゲ車がずらりと並び、冒険者らしき者、商人と思しき者たちが、荷物を積み込むなどしている。


 その中に、亮たち三人の姿もあった。


 三人はトカゲ車の荷室に乗り込み、ハッピー・タウンをあとにした。


 彼らが使っている車は、ヒナがレンタルしておいたもので、御者台には金で雇った御者が座っている。


 というわけで、

「おれたちも早く持ちたいものだな、マイ・カーをさ」

 とトリプルVが言った。


 一部のパーティは、自分たち専用のトカゲ車を所有しているのだそうだ。


「え、レンタルでよくない? その方が気楽だし」


 ヒナは首をかしげるが、

「じつはおれ、トカゲが好きでな」


 トリプルVはニヤッと笑い、

「特に目がいい。あれはかわいい」

 自分の言葉に二度、三度とうなずいた。


(え)


(あのギョロッとした恐竜みたいな目が? あれがかわいい!?)


 亮には理解不能のセンスだった。


 一方のヒナは、

「フッ」

 と笑い、

「爺さんが好きなのは賭ける方なんじゃないの?」

 と混ぜ返した。


「いやいや、あっちは好きかどうかなんて次元で語ってはいけない」


 トリプルVは目をギラリと光らせ、

「あれは戦いさ……」


 亮は、二人が何の話をしているのかわからない。


 だから、

「賭けるというのは何のことですか?」

 と訊いてみた。


 すると、

「何!?」


 トリプルVが目をむいた。


「お前さん、まさか知らんのか? カァ、もったいない! あの興奮を、そしてあの絶望を知らんとは! カァ!」


「……いちいちうるさい爺さんだ」

 ヒナは呆れ顔になる。


 それから、

「トカゲ・レースって知らないかい?」

 と亮に説明してくれた。


「街の東の方にデカいレース場があってさ、そこでトカゲが走るんだよ。観客はどのトカゲが速いか賭けるんだ」


(ははあ)

 亮はピンときた。


(さては競馬のようなものだな)


(そうか。そういえばこの世界には馬がいないんだった)


(馬の代わりにトカゲのレースってことか)


「トカゲの背中に乗る者を『騎手』と呼ぶんだが、トカゲ・レースでは、騎手とトカゲのコミュニケーションが重要なんだぞ」

 とトリプルVが言った。


(間違いない)

(これ、競馬だわ)


 そう確信した亮だったが――。


 トリプルV曰く、

「トカゲは速いからなあ。振り落とされないように、騎手はトカゲの首にガバッとしがみつくんだ」


(……ん?)

(しがみつく?)


「それからこうやって」


 トリプルVは、頭を前後に振ってみせた。

 いわゆるヘドバン、ヘッド・バンギングというやつである。


「トカゲの首筋に頭突きをかまし、トカゲに気合を入れてやる。ズドン、ズドンとな。これが騎手の仕事だな」


(……なんか思っていたのと違う)

 と戸惑う亮。


(おれが知っている競馬はそんなバイオレンスなものではない!)


「いろいろなタイプの騎手がいてなあ」


 トリプルVがちょっと早口になった。

 トカゲ・レースのことが好きでたまらないらしい。


「首だけを動かして細かく頭突きする騎手もいるが、どうもな。おれが好きなのは、上半身全体を使って頭突きを叩き込む騎手、そういう豪快なやつがいいんだよ」


 さらに、

「子どもの頃、おれは騎手になりたかったんだ」

 と続けた。


「いつか騎手になるんだって、ところ構わず頭突きしたものさ。木にズドン。岩にズドン。弟にもズドン。やりすぎておふくろに引っぱたかれるのが日常だった」


 トリプルVは、遠くを見やるような目になった。


「とはいえ、騎手は小柄なやつしかなれんからな。背がデカくなり、おれは諦めた。で、結局冒険者の道に進んだわけだが――しかしいまでも派手な頭突きをかます騎手が好きだよ。たとえそれが原因で負けようがな」


「フフッ」

 とヒナが笑った。


 そして、

「わかるよ」

 ゆっくりうなずいた。


「思いきり頭突きをすると、時にはトカゲにかわされて空振りになることもあるんだよね。それで騎手がバランスを崩しちゃったりして」


「お! ヒナくん、なかなか詳しいじゃないか」


「以前のパーティにギャン中がいてさ。やっぱり大振りする騎手が好きだったんだ」


「ほお。そいつとは仲よくなれそうだ」


「ま、もうその人は死んじゃったけどね」


「死後の楽しみが増えたよ」


「――やれやれ。ギャン中から離れられたと思ったら、またギャン中か」


「前門のギャン中、後門のギャン中ってやつだ」


 トリプルVが悪びれることもなくそう言うと、ヒナは無言で肩をすくめた。


 そして、

「久しぶりにトカゲ・レースを見たくなってきたな」

 とひとりごちた。


「おお、いいじゃねーか」

 トリプルVが身を乗り出す。


「街に戻ったらトカゲ・レースだ! よお、若いの、お前さんも行くだろ? 三人で、今回のクエストの稼ぎをツッコもうじゃねーか!」


「えー、マジでー?」

 ヒナが笑う。


「ああ、約束だぜ!」


「仕方ないなー」


 亮は、

(……なんかこれ)

 と思う。


(なんかこれ、メチャクチャ死亡フラグっぽい会話になっていないか!?)

(「おれ、帰ったら結婚するんだ」的な)


 不安を感じるが、

(いやいや!)

 と考え直す。


(おれはこれから冒険者として生きていくんだ。死亡フラグなんていちいち気にしてちゃいけない!)


 亮は、

「トカゲ・レースもいいですが、サウナはどうですか?」

 と提案した。


 浴場のサウナを思い出しながら、

「みんなで一緒に汗を流すのも悪くないんじゃないですかね!」


「サウナねえ」

 ヒナがうなずいた。


「ま、チームワークを養うにはそういうのもいいかもね」


「でしょ!」


「じゃあクエストが終わったら、サウナで集中力を高めてレース場に繰り出す。そして一点買いで勝負! これで決まりだな!」


 とまあそんな風にダラダラ話しているうちに、

「お客さん、もうすぐ着くよ」


 御者の声が聞こえた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ