第19話 ペアルック × サウナ
パーティを組んだ。
早速クエストを受けようぜということになった。
ヒナとトリプルVの間では、
「どんなクエストに行く?」
とか、
「装備はどうする?」
とか、そんな会話が始まっていた。
亮は興味津々で、できればこのまま耳を傾けていたいところだったが――残念ながらそうはいかない。
(おれにはやるべきことがあるのだ)
(しかも二つも!)
服を買う、そして風呂に入る。
この二つである。
かくして、
「すみません」
と声をかけた。
「このあたりに服屋はありませんか? お金に余裕がないので安い店だと助かるのですが……」
受付嬢がよさそうな店を教えてくれた。
それから、
「あー」
とトリプルVが言った。
「人のファッションに口を出すつもりはないんだがな」
「ええ」
「すまんが、赤色のシャツだけはやめてくれ」
(赤色のシャツ?)
(クエストに着ていくには目立ちすぎるとか、モンスターの目を引くとか、そういうことだろうか……)
と考える亮だったが、トリプルVは予想外のことを口にした。
曰く、
「赤はおれのラッキー・カラーなんだ」
「はあ」
「クエストに行く時には赤いシャツを着ることにしている。つまりだな、もしもお前さんがおれとのペアルックを楽しみたいというなら話は別だが、そうでなければ――わかるだろ?」
「……わかります」
「ボクもメモしとかなきゃ」
ヒナがカバンから手帳を取り出した。
◇◆◇◆◇
亮は、服を買うのが苦手だった。
記憶を消去したのでもう覚えていないが――うそ。本当はよく覚えている――中学一年生の時のことだ。
休日に、クラスの女子と街中で偶然遭遇した。
「あ、佐藤くんじゃん。――フフッ。どうしたの?」
「え。何が?」
「ほら、全身ストライプだからどうしたのかなーと思ってさ。囚人ごっこ?」
当時の亮はストライプこそが、世界で一番格好いいデザインだと思っていた。
だからこの一件は衝撃だった。
(おれは)
(囚人だったのか!?)
これ以来、ファッションのファの字を見ただけで腹痛に襲われるようになったという次第である。
以上、亮のトラウマ劇場ファッション編終了。
◇◆◇◆◇
受付嬢が教えてくれた服屋は、こじんまりとしていた。
扱っているのは、シンプルな無地の服ばかりだった。
亮はそっと胸を撫で下ろす。
(助かった)
(これなら間違って怪奇ストライプ男になる心配はなさそうだ)
亮は店内を見て歩きながら、
(ここは一発、
「見てくださいよ、このシャツ! あのあと考えたんですけれど、やっぱりペアルックを楽しみましょう!」
という自爆的なギャグをかましてやろうか!?)
なんて考えたが、
(……いや、やめておこう)
結局のところ、地味な緑色のシャツを買った。
あと、ズボンとパンツも。
靴は高かったので迷ったが、
(革靴でクエストに行くのは無茶だろうなあ)
(いっそ裸足はどうだ?)
(……それこそ無茶だ)
清水の舞台から飛び降りるつもりで、しっかりした造りのブーツを買った。
財布が一気に軽くなった。
トムとゴリゴリゲゴイルマンから借りた金は、もうほとんど残っていなかった。
◇◆◇◆◇
公衆浴場は、日本の銭湯によく似ていた。
(男女混浴だったらどうしよう)
(おれは平静でいられるだろうか……)
とか、
(性別ではなくて、信仰別に分かれていたらどうしよう)
(おれはサタニストの湯に入ることになるのだろうか……)
とかちょっと怯えていた亮だが、すべて取り越し苦労だった。
番台のおにいちゃんに金を渡し、中に入る。
シャワーがないのでいちいち手桶で湯をくむ必要があり、それには閉口したが、
(うおおお!)
二日ぶり、いや、死ぬ前を含めれば三日ぶりの風呂は心地よかった。
亮は全身をくまなく洗い、
(もう臭男とは呼ばせないぞ!)
そして、湯につかった。
じんわりと体が温まっていく――。
(最高だ)
と亮は思う。
と同時に、
(まずい。眠くなってきた!)
(ゆうべはあれだけゆっくり眠ったのに、もう眠い……)
亮は眠気覚ましに、壁のポスターに視線を向けた。
この浴場には普通の内湯以外に、
「露天風呂」
「サウナ(エルフの森ver.)」
「サウナ(ドワーフの鉱山ver.)」
などがあるとのことだった。
亮は特段サウナに関心があるわけではないが、
(エ、エルフの森ver.とな!?)
(ド、ドワーフの鉱山ver.とな!?)
さすがに興味を引かれた。
前者は、清廉な空気に満ち満ちていそうだ。
いかにもリラックスできそうだし、
(もしかしたら寿命が延びたりするかも!?)
一方後者は、
(……むさ苦しい男の巣窟か?)
(いかん。想像したら気持ち悪くなってきた)
慌てて隣のポスターに目を向けると、
「サウナでととのう方法」
という解説が載っていた。
この世界にも「ととのう」概念が存在するらしい。
(クエストが終わったら、みんなでととのうのもいいよなあ)
(いわば異世界版「サ道」だ!)
さらに、
「マッサージは予約制です」
といった看板も目に入った。
どれもこれも興味はあるが、眠気がひどくてこりゃあかん。
亮は立ち上がった。
脱衣所で、買ったばかりの服に着替える。
肌触りはいまいちで、ごわごわしていた。
特にパンツがひどかった。
番台のそばに「マッサージ室」という看板があった。
通りすがりにチラッと視線を送る。
中は見えなかったが、
「おう!」
「おう!」
とアシカの鳴き声のような声が奥から響いていた。
ビシッ、ビシッと何かを叩く音もする。
(どんなマッサージをしているんだ……)
◇◆◇◆◇
眠気と戦いながら宿に戻ると、宿の主が十歳ぐらいの少年と話していた。
主は、
「お、いいところにきてくれた」
と言った。
「お客さんは冒険者だろ?」
聞けば、主の息子が
「冒険者になりたい」
と言い出して困っているのだという。
主は、亮に耳打ちした。
曰く、
「冒険者といったら危険な仕事だろ。おれは息子にはこの宿を継がせたいんだよ。だからお客さんから、冒険者ってのがいかに大変な仕事か話してやってくれないか」
一刻も早くベッドに潜り込みたい亮だったが、
「すまんな。明日の朝食はタダでいいからさ」
とのことで、
(くっ……)
貧乏な亮には、断るという選択肢はない。
「じゃあ頼んだぜ」
主はそう言って、奥の部屋に引っ込んだ。
というわけで、
「少年」
亮は語りかけた。
「きみは冒険者になりたいんだって?」
「うん、僕は立派な冒険者になりたいんだ!」
「なるほど。夢を持つのはいいことだ。しかし――冒険者ってのは大変な仕事なんだぜ」
心の中のもう一人の亮が、
(おいおい)
と嘲笑した。
(冒険者になったばかりで、まだクエストに出向いたこともないくせに何を偉そうに言ってやがる!)
亮はそれを無視して、
「冒険者といえばパーティだ。パーティ・メンバーが大切だというのは少年も知っているよな?」
「もちろん知っているよ」
少年はニコニコと微笑み、
「パーティ・メンバーは義兄弟の契りを交わすんだよね!」
と言った。
(ぎ、義兄弟!?)
初耳だった。
(まるでヤクザだな……)
(互いの血をすすり合ったりするんだろうか?)
困惑する亮だったが、
「そうそう、義兄弟の契りだね」
何食わぬ顔でうなずいた。
「とまあそんな大切なパーティ・メンバーだが、しかし少年よ、クエスト中に仲間を失うことだってあるんだよ。そしてショックのあまり立ち直れなくなる冒険者だっている」
「うん……」
「それに、人間は完全にわかり合うことはできない。十年間も一緒に冒険をしてきたパーティ・メンバーが自分の知らない一面を持っていたなんてこともある。そしてそれにショックを受ける者もいる」
少年は小さくつぶやいた。
「……冒険者って大変な仕事なんだね」
「そう、大変な仕事なんだ」
大きくうなずく亮だったが、
(……あれ)
(おれは明日から、そんな大変な仕事をするのか?)
(大丈夫なのか!?)
不安になってきた。
少年は再び、
「冒険者って大変なんだなあ……」
とつぶやいた。
亮はいよいよ不安になってしまって、
「そ、そう見えるだろ?」
笑顔を作ると、
「ところがどっこい、案外そんなことはないんだなあ!」
「……え?」
少年はポカンとしている。
「つ、つまりだな少年」
「うん」
「すべては自分次第ということであって……」
「自分次第?」
「そう! 要するに愛と勇気があれば――」
「?」
「グッド・ラック、少年! お父さんに『明日の朝食代もちゃんと払いますから』って伝えておいてくれるかな」
亮は部屋に戻って寝た。




