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第16話 悪臭 × コングラチュレーション

「おれとパーティを組もう! な?」


「だから嫌だって言っているだろ! 何回断れば諦めてくれるんだよ!」


「フッ。いい冒険者ってのは強メンタルなのさ」


「死ね!」


 ――ヒナと白髪爺の言い争いが続いていた。


「そもそもさ」

 ヒナは燃えるような目で白髪爺を睨みつけた。


「ボクは老人が嫌いなんだよ!」


 診察室が静まり返った。


「ヒナさん……」

 受付嬢が声をかけた。


「『老人が嫌い』はちょっと言いすぎですよ」


 たしなめるような口調だった。


 ヒナはジトッとした目つきになって、

「……じゃあどう言えばいい?」


「そうですねえ」


 受付嬢は優しく微笑むと、

「そこはストレートに『あなたが嫌い』がいいでしょうね」


「おい、やめてくれ」

 白髪爺は苦笑した。


「余計傷つく」


 それから肩をすくめると、

「そもそもお前さん、老人が嫌いというが、どうしてそう嫌うんだい?」


「それはだって、まあ」


 ヒナはちょっと口ごもり、

「……か、加齢臭だよ! 臭いから嫌いなんだよ!」

 と言った。


 その言葉に、

「おいおい」

 白髪爺は再び苦笑、

「臭いと言ったらその男の方がずっとにおうだろ」


 亮を指差した。


 ふい打ちであった。


(え!?)

 亮はポカンとする。


 一方、ヒナはチラッと亮に視線を送り、それから小さく鼻を動かした。


 そしてすぐに目を伏せ、

「……まあ、そうだけどさ」


(え!?)


「臭いといえば」

 検査士である。


「彼は昨日から臭いぞ。少なくとも魔力検査中にはもうにおっていた」


 さらに受付嬢も、

「それでしたら」

 と口を挟んだ。


「トールンバさんは、ギルドに入ってきた時からもうにおっていましたよ」


 ――ゴブリンと戦う中で汗をかき、さらに、ゴブリンの血やら脳みそやらその他体液やらを全身に浴び、ところがそのまま風呂にも入らず、着替えもせずという状況なのだから、そりゃまあ、におうのは当然といえば当然なのだが、

(……そうか。転生後に出会った人の八割ぐらいから、おれは臭い男と認識されていたのか)


 亮は、

(死のう)

 と思った。


 そんな亮の気持ちを察したらしく、

「チッ!」


 ヒナは舌打ちするとカバンに手を突っ込み、紙切れのようなものを取り出した。


 それを亮に渡して、

「……使えよ」


 公衆浴場の割引券だった。


 十個以上は年下と思われる少女から

「臭いから風呂に入ってきなよ」

 と割引券を恵んでもらうアラサー男――。


(世界広しといえども、こんなのおれだけだろ)

 亮は涙が出そうだった。


「あ、ありがとう。しっかり洗ってくるよ。隅々まで。……約束する」


 ヒナは無言でうなずいた。


「――で、何の話でしたっけ?」

 受付嬢が首をひねった。


「おいおい頼むぜ」

 白髪爺は肩を揺すり、

「悪臭がするって話だろ? ほれ、そこの若いのが臭くて――」


「違いますよ!」

 亮が叫んだ。


「おれがそのぉ……アレだって話はもういいですよ! もともとはあなたたち二人がパーティを組むかどうかって話でしょ!」


 と、そこまで言ったところで気がついた。


「いや、違った! いまのはなし! 取り消し!」

 亮は慌てて訂正する。


「ここはおれの話をする場ですよ! おれが誰とパーティを組むかって話です! でしょ、受付嬢さん!」


「あっ、そうでしたね!」

 受付嬢は微笑み、ペロッと舌を出してみせた。


(「そうでしたね」じゃないよ!)

(かわいく微笑めば何でも許されると思っているんじゃないだろうな!)


(いや、許すけどね! 許すけど!)


(「可愛くてごめん」ってか!?)


(本当にかわいいな!)


(クソ、舌を出すな! 好きになっちゃうだろ!)


「と、とにかくですね!」

 亮はぐるりとみんなを見回した。


「いまは、ヒナさんがおれとパーティを組んでくれるかというのが本題でして――」


 ヒナが言った。

「その話、受けるよ」


「え」


「だから、あんたとパーティを組むって言ったんだ。えーと、ショウロンポーだっけ?」


「いえ、トールンバです」


「よろしく、トールンバ」


「こちらこそよろしくお願いします!」


 亮は握手しようと腕を伸ばしかけたが、

(……あ、しまった!)


(いまのおれは悪臭を放っているんだった。生ごみと握手したいやつはいないよな)


 慌てて引っ込めた。


 するとヒナは笑って、

「何だよ、握手ぐらいしようぜ」


 グイッと亮の腕を引っ張り、かくして二人は手を握り合った。


(天使か?)


(この子はごみ溜めに降り立った天使なのか!?)


 亮は、

「おれは幸せ者だよ。きみのような天使とパーティを組めて」

 と言おうとしたが、やめておいた。


「は? キモ……」

 とうざがられる懸念があったからである。


 受付嬢が、

「パーティ結成ですね!」

 と声を弾ませた。


「コングラチュレーション!」


 「コングラチュレーション!」の響きが、モーニング娘。の「ハッピーサマーウェディング」のそれにそっくりだったもので、亮の脳内で後藤真希さんが歌い出した。


 とまあこうして亮とヒナはパーティを組むことになったのだが、

「ちょっと待てちょっと待て!」

 白髪爺である。


「おかしいだろ!」

 彼は叫んだ。


「おれよりもその臭男(くさお)を取るっていうのか!?」


(人を臭男呼ばわりするな!)


「そんな臭男のどこがいいんだ!?」


(だから臭男と呼ぶなって!)


「さてはヒナくん。お前さんは……においフェチなのか!? カーッ、若いのに難儀なヘキを持ちおって。まあいい。だったらおれも――おい、臭男師匠。その体臭の秘訣を教えてくれ」


(誰が臭男師匠だ!)


 取り乱す白髪爺に対して、

「フン!」


 ヒナは鼻で笑うと、

「比べ物にならないよ」

 と言った。


「トールンバは爺さんよりずっと若いし、それに面白そうな魔力を持っているらしいしね」


 ヒナは亮に訊いた。

「えーと、カンチョーガンだっけ?」


「いえ、鑑定眼」


 訂正しながら、

(受付嬢さんもそうだったけれど、なんだってみんな、おれの能力を浣腸(カンチョー)と間違えるかなあ)


 苦笑する亮。


 だが、

(うっ!)


 そこでピンときた。


(まさか――おれが臭いからか!?)


(おれのにおいが排泄物を想起させ、そこから浣腸につながっているのか!?)


(さっき受付嬢さんが言い間違えたのも、そのせいだったのか!?)


(クソ、最悪の伏線回収だ!)


(……いまの「クソ」はダブル・ミーニングじゃないぞ!)


 亮はそっと後ずさりした。

 みんなになるべく迷惑をかけたくなかったからである。

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