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第15話 パーティ結成 × 人生の下り坂

 亮が使える魔法は、鑑定眼。


 この世界では過去誰一人として授かったことがない代物だった。


 というわけで、

「クエストをこなす中でいろいろ試し、これがどのような力なのか、何ができて何ができないのか見極めるしかないだろう」

 ということになった。


「つまり、ポンデカですね?」

 と受付嬢が訊いた。


「ああ、ポンデカだ」

 と検査士がうなずいた。


「うんうん」

 と受付嬢もうなずいた。


 またまた自分抜きで話が進みそうな気配が漂ってきたので、

「あ、あの!」


 亮は慌てて口を挟んだ。


「ポンデカって何ですか?」


 検査士が教えてくれた。


 曰く、

Plan(計画)Do(実行)Check(評価)Action(改善)――これを繰り返すことで、鑑定眼について調べていこうってわけさ。PDCAの頭文字を取って『ポンデカ』だ」


(ああ、なるほど)

 亮は納得する。


(PDCAサイクルのことか)


(へえ。この世界にもPDCAの考え方があったんだなあ)


(にしても――『ポンデカ』って)


(そこはシンプルにP(ピー・)D(ディー・)C(シー・)A(エー)でよくないか?)


(柑橘類の果物じゃあるまいし……)


 やはりこの世界はネーミング・センスに難を抱えているようだ、と亮は思う。




◇◆◇◆◇




 「クエストの中でいろいろ試していこう」という方針は決まった。


 となれば、次は仲間だ。


 亮とともにクエストを受け、亮をサポートしてくれる仲間――つまり、パーティ・メンバーが必要だ。


「誰かいい人はいますかね?」

 と亮が問うと、

「そうですねぇ……」


 受付嬢は小首をかしげた。


 さて、どんな人がいいだろうか。


 まず何よりも、未知の力を持つ亮を気味悪がらず、足手まといに感じず、むしろ面白がってくれる、そんな人でなければなるまい。


 また、冒険者としてそれなりの経験、実力を持つ人がいいだろう。


 となると――、

「うん!」

 受付嬢はポンと手を叩いた。


「私の担当する冒険者さんにいい人がいます!」


「おお」


「一見するとちょっと変わった人なんですけれど、経験は豊富だし、戦闘力もバッチリ。きっとトールンバさんのいいパートナーになると思いますよ」


 受付嬢のその言葉に、

(……あ!)


 亮には思い当たる人物がいた。


 そう、あの白髪爺である。


 ギルド内で堂々と官能小説を読む変わり者。

 しかし洞察力に優れ、また、ギルドに登録したお祝いに牛串をおごってくれるなど面倒見もよさそうだ。


(受付嬢さんが言っているのは、きっとあの爺さんのことだな)


(うん! あの人となら上手くやっていけそうな気がする)


 かくして、

「いまちょうどギルドにいらっしゃったと思いますので、私、呼んできますね!」


 受付嬢は診察室を飛び出していった。


 亮はほくそ笑む。


(フフッ。あの爺さん、きっと驚くぞ。「おお、若いの。お前さんか!」とか何とか言ってね)


(受付嬢さんも「あら、お知り合いですか!?」と目を丸くしたりして)


 ほどなくして、

「お待たせしました!」


 受付嬢が戻ってきた。


 そして彼女とともに部屋に入ってきたのは、

(……誰!?)


 亮の予想に反して、白髪爺ではなかった。


 というか、白髪でも爺でもなかった。


 それは、黒髪の少女だった。


 髪は短めで、肩ぐらいの長さ。

 額は丸出し。


 また、目鼻立ちは整っているものの、目がやけにデカく、そのせいか白目の部分が目立っている。


 まとめると、

(……あのぉ。もしかしてその子、ヤバいドラッグをきめていませんか?)

 というのが亮の第一印象だった。


 そんな亮の思いをよそに、

「ご紹介しますね」


 受付嬢はニコニコと微笑んでいた。


「こちら、クロヒナさんです」


 クロヒナは、

「よろしく」

 と亮に会釈した。


 そして、

「ボクのことはヒナと呼んでくれ。それからこっちはボクのストーカーだ」

 と言った。


 亮の目が鋭く光った。


(――ボクっ娘!)


(悪くない!)


 亮はわりと、ボクっ娘に弱かった。

 というかメチャクチャ弱かった。


 「Kanon」の月宮あゆに出会って以降、一人称が「ボク」の女性がツボだった。


 だから思わず「ボク」に反応してしまったのだが、

(……ん?) 


(いま、なんか変なことを言わなかったか?)


(「ストーカー」とか聞こえた気がするんだけれど……)


 直後、

「誰がストーカーだ!」


 声を荒げ、診察室に入ってきたのは――、

(おいおい)

 亮は呆れる。


 例の白髪爺だった。




◇◆◇◆◇




 記念すべきパーティ結成の場、だったはずなのだが。


 そのはずなのだが。


 なぜかいま亮の前では、ヒナと白髪爺が言い争いをしていた。


「ストーカーはストーカーだろ! 三週間もボクにつきまとっているくせに!」


「ケッ!」

 白髪爺は吐き捨てるように言った。


「四週間だ!」


「なお悪い!」


「だが先週はつきまとわなかったぞ」


「……まあたしかに」


「心配だったか?」


「何?」


「急におれが顔を出さなくなったから心配だったんじゃないか? 『あれ、ボクは見捨てられたのかな』とか」


「このクソ爺!」 


「じつは先週な、昔の仲間が死んだんだよ。それで葬式に行っていた」


「そりゃご愁傷さま! お悔やみを言うよ!」


 ――話を聞いているうちに、亮にも状況がつかめてきた。


 いや、別につかみたくなんてなかったのだが、自然とつかめてきた。


 ストーカーというのは言葉の綾で、実際には、

「観念しておれとパーティを組もうって。悪いようにはしないからさ。な!」


「向こういけ、爺!」


 白髪爺はヒナとパーティを組みたがっているのだった。


 片やヒナは、執拗にそれを拒否しているのだった。


「だいたいな!」

 とヒナが言った。


「爺さんはボクを必要としているわけじゃない。誰だっていいんだ。たまたまボクがソロだったから都合がいいと思って誘っているんだろ?」


「何だい、自己評価が低いな」


「あ?」


「お前さんはいい冒険者じゃないか。だからおれは」


「うるさい!」

 とヒナが叫んだ。


「うるさい! うるさい! うるさい! ――とにかく、爺さんはただ同行者がほしいだけだろ! 独りぼっちで歩きたくないだけだろ!」


「独りぼっちで歩くって――どこを?」


「人生の下り坂を、だよ!」


「ハハハッ、ナイス・ジョーク!」


「ジョークじゃない! 事実だ!」


「……ま、たしかに下り坂ではあるわな。昔の仲間が先週死んだばかりだし」


「失言だったよ! 落ち込むなよ!」


 亮はパチパチッと目をしばたたいた。

 何だか次第に、仲のいい爺さんと孫娘がじゃれ合っているように見えてきたのだ。


 チラリと受付嬢の様子をうかがうと、彼女もほっこり顔だった。


 一方、検査士は退屈そうにあくびをしていた。

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