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【書籍化】私の部屋のクローゼットからボロボロの勇者が夜な夜な出てくる【連載版】  作者: ぜんだ 夕里


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9. ただハンナの膝の上で光ってただけ

「ライアス様。まだだいぶ光ってますね」


「確かにおいしかったし元気になったけど、代償が大きいよ……」


 七色に光るライアス様が私の膝に顔を埋めながらぼやく。


 先日の『世界樹の根』入りハンバーグ騒ぎから数日が経った。

 あの事件は我が領地に劇的な変化をもたらした。

 父はあの日以来、何かに取り憑かれたように毎日鉱山へと通っている。


「おお、ミスリルよ……愛しの原石たちよ」


 そう言っては採掘されたばかりの鉱石を愛でながらうっとりと頬を染める。

 今までの苦労が報われて、涙ぐましい光景だ。

 そうは思うが……毎日ただのゴツゴツした石ころの山を、恋する乙女のように頬を赤らめて見に行く実の父。

 はっきり言ってちょっと気持ち悪い。


 とはいえ、結果として我が家の財政難は解決した。

 世界樹の根を探していたら偶然ミスリル鉱脈まで掘り当てたのだから、私の功績と言えるだろう。

 私が掘り当てたミスリル鉱脈と、ライアス様が「カッコいい」と言われたいがために駆け回ったお遣いの報酬。

 これらを合わせれば勇者の婚姻にふさわしい盛大な結婚式を挙げられる。


 あとは王家の承認さえもらえれば、私たちは晴れて正式に夫婦となれる。

 ――はずなのだが。


「ライアス様、あとは王家の承認をもらうだけですね!」

「そうだねぇ……。でも、せめて体の発光が終わってから……」


 勇者様が膝の上でゴロゴロと頭を擦り付けてくる。


 うーん、確かに。

 このピカピカした状態で王都に行けばどうなるか。

 ただでさえ「最強の勇者」として注目されているのに、物理的にまで輝いていたら王都は大パニックになる。

 民衆は拝み倒し、さぞ居心地が悪いだろう。


「仕方ありませんね。光が収まるまで待ちましょう」

「うん……。だからそれまで、ずっと膝枕してて」

「ずっとは無理です!」


 そういうわけで私たちの結婚手続きはこの発光現象が収まるまで、またしても『お預け状態』だ。



 そんなある日のこと。


「王家の使者が我が領地にいらっしゃるようです」


 執事のおじい様が少し慌てた様子で報告に来た。

 応接室でうっとりとミスリル鉱石を眺めていたお父様が、ミスリルを撫で回す手を止めて真面目な顔に戻る。


「どのような要件だ? ダンジョン攻略の報告なら書状で済ませたはずだが」


「それが、ライアス様の迎えに来られたらしく……」


 執事のおじい様がチラリと発光する勇者を見る。


 どうやらライアス様の休養時間も長くは続かなかったようだ。

 本来ならば『魔王級ダンジョン』攻略後すぐに王都へ帰還し、報告を行うのが筋である。

 それを「この屋敷でごろごろする」と言って滞在していたのだから、王家が痺れを切らすのも無理はない。

 連れ戻しに来たのかもしれない。

 

「誰が来たのだ? 近衛騎士団長あたりか?」


 父が問う。

 もし騎士団長クラスが来たなら、連れ帰りたい急用があるということになる。


「それが……第三王女オリアナ様自ら来られたようなのです……」


「なんだと!?」


 屋敷内は一瞬にして蜂の巣をつついたような大騒ぎとなった。

 ただの使者ならまだしも、王族直々の来訪となれば話のレベルが違う。


「ライアス様。王女様まで動かすなんて何をしたんですか?」

「何もしてないよ! ただハンナの膝の上で光ってただけだよ!」


 それが問題なのかもしれない。

 王都側もライアス様が帰ってこないことで困り果てている用事があるのかもしれない。

 

 私も客間の準備や使用人への指示出しに追われることとなった。



 翌日、ついに王女の来訪の時がやってきた。


 王家の紋章が入った豪奢な馬車が到着し、第三王女オリアナ様が護衛騎士を連れて屋敷の玄関をくぐられる。

 私たち辺境伯家の人間は総出でお出迎えだ。

 父も使用人たちも最敬礼で頭を下げている。


 ……そしてその中には一人、ピカピカと発光している不審者がいた。


 並んでいる使用人たちが皆、険しい顔で眉間に皺を寄せているのは、王族への緊張からではない。単純に物理的に眩しいからだ。


「な、なんで勇者様が光ってるんだ!?」


 屋敷に入ってくるなり、王女の護衛騎士らしき人物が素っ頓狂な声を上げてのけぞった。

 度肝を抜かれるとはまさにこのことだろう。


「ほら、ロック! やっぱり光ってるわ! 『国の光』ってお父様が言っていたもの!」


 護衛騎士の背後からひょっこりと顔を出したのは、これまた目をキラキラと輝かせた可愛らしい少女――オリアナ王女殿下だった。

 彼女は発光するライアス様を見ても驚くどころか「やっぱり!」と嬉しそうに手を叩いている。


「いや、あれは間違いなく比喩で……。以前、私がお見かけした時は光ってなどおりませんでしたよ!」


 ロックと呼ばれた護衛騎士は冷や汗をかきながら必死にツッコミを入れている。

 だが、王女様には届かない。


「では、私に会えたことが嬉しくて光りだしたのよ! これで王城の問題も解決よ!」


 ライアス様が光っていることに対して、なんとも都合の良い解釈を展開するオリアナ王女。

 彼女の思考回路は、どうやら恐ろしくポジティブなようだ。


 王女様はズカズカと前に進み出ると、呆然としている父――辺境伯の前で胸を張った。


「私は第三王女のオリアナよ! 『国の光』と呼ばれる勇者様を王都に連れ帰ろうと思って!」


 そう言って目を爛々と輝かせて挨拶してくる王女様。

 やはり、目的は勇者の連れ戻しらしい。

 先ほど王女様は『王城の問題も解決』と言っていた。王女が自ら辺境領に来るなど、王城では一体どんな問題が起こっているというのだろうか?


「あ、ああ、ようこそお越しくださいました、オリアナ王女殿下…」


 王女の凄まじい剣幕と、隣で光り輝く勇者に挟まれ、父が引きつった笑顔で挨拶を返す。


 辺境伯邸の玄関ホールは今、光と困惑の渦に包まれている。


「ああ、またややこしいことになってきたなぁ……」


 ロック騎士が我々の心の声を代弁するように、深く深くため息をつくのが聞こえた。


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― 新着の感想 ―
確かに膝枕でピカピカしてただけだもんなー、厄介な! この王女様、自分がファースト! みたいな押しが強過ぎる感じがする。
おう…面倒だ… ドンマイだ勇者…
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