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【書籍化】私の部屋のクローゼットからボロボロの勇者が夜な夜な出てくる【連載版】  作者: ぜんだ 夕里


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4. 私に『カッコいい』って言われたくて行動する彼

 私とライアス様の間で交わされた婚約の申し込み。

 あれで全てが丸く収まりすぐにでも幸せな結婚生活が始まる――と思うだろう。

 けれど現実は甘くない。


 勇者と辺境伯令嬢の婚姻。

 それは単なる個人の結びつきでは済まされない。王家の承認が必要不可欠であり、様々な手続きや儀礼がある。


 そして何よりもっと切実な問題があった。


 ――お金がないのだ。


 我が領地はつい先日まで『魔王級ダンジョン』の出現によって経済が麻痺していた。

 避難民への補償、止まっていた物流の再開。

 そこへ来て勇者の結婚式となれば王都の貴族たちを招待するような盛大なものを求められる。


 今の我が家にそんな余力はない。


 結果として私たちの結婚は『お預け』状態。

 婚約者という立場にはなったものの、具体的な挙式の日取りすら決められないまま数週間が過ぎていた。


 そんな、生殺しのような日々の中で勇者様はというと……。


「ハンナ、膝枕して!」

「…返事をする前にもう頭を乗せているじゃないですか」


 我が物顔でソファを占領し、私の膝でとろけている金髪の男。

 これが今の英雄様だ。ダンジョンを攻略してやることもないため、『実家感』が増していた。


「もうここから一歩も動きたくない……」


 彼は私の膝に頬をすり寄せながらふにゃふにゃとした声で呟く。

 その姿に英雄の威厳はない。飼い主が大好きな甘えん坊の大型犬のようではないか。


 私は呆れ半分でそのサラサラとした髪を指で梳いた。


「ライアス様。そもそも王都からこちらにいらしたんですよね? 一度は帰らなくてよろしいのですか?」


 普通に考えればおかしいのだ。

 『魔王級ダンジョン』を攻略した英雄である。

 王都では凱旋パレードや国王陛下からの勲章授与式、華やかなイベントが目白押しのはずではないか。

 なぜそれらを全て放り出してこの辺境の地でゴロゴロしているのか。


 私の問いかけにライアス様は不満げに唇を尖らせた。


「うーん、だってあそこには何もないからなぁ……」

「何もないことはないでしょう。名誉も、地位も、王都の美味しい食事も」

「ないよ。なにより、ハンナがいないもん」


 彼は拗ねた子供のように言い放つと、さらに私の腹部に顔を埋めた。


「ハンナがいない王都なんて砂漠と一緒だ。僕はここで一生安寧に暮らすって決めたし、報酬として君をもらった! だから君の膝の上で一生ゴロゴロする権利があるはずだ!」


「報酬に『一生ゴロゴロする権利』は含まれていませんけど……」


 まったく困った人だ。

 けれど悪い気はしない。

 むしろ世界中の称賛よりも私の膝枕を選んでくれたことが嬉しくて、ついつい頭を撫でる手が優しくなってしまう。


 実際に彼は大業を為したのだ。

 少しぐらいの休暇は許されてもいいはずだ。

 そう自分に言い訳をして、私は今日もダメになっていく勇者様を甘やかし続けていた。



 ◇ 



 そんな平穏かつ堕落した日々を送っていたある日。

 一人の来客が辺境伯邸の空気を一変させる。


「どうか我が領地をお救いください!!」


 応接間に通されたのは隣の領地を治める子爵。

 かつて我が領地がダンジョン騒ぎで困窮していた際、いち早く食料支援を申し出てくれた義理堅く温厚な人物だ。

 その彼が顔をくしゃくしゃにして涙を流し、父と私に頭を下げていた。


「頭を上げてください」


 父が慌てて彼を抱き起こそうとするが子爵は首を横に振る。


「勇者様がこちらにいらっしゃると聞きまして……。我が領に発生した巨大魔物を討伐いただけないでしょうか!」


 話を聞けば、子爵領の山岳部に突如として巨大な魔物が出現したらしい。

 国軍に救援を要請したが到着までには時間がかかる。その間にも被害は拡大し、領民たちの命が脅かされているという。


「もはや我らだけではどうすることもできんのです…! どうかご慈悲を!」


 必死の形相で訴える子爵。

 私たちは恩義ある隣人の窮状に心を痛めた。




「……というわけです、ライアス様」


 私は自室に戻り、婚約者に事情を説明する。

 彼ならば巨大魔物など造作もないはずだ。


「やだっ!!」


 ライアス様は彼の定位置――ベッドの下へと潜り込んだ。


「子爵様が困っていらっしゃるでしょう? 以前助けていただいた恩があるんです」

「行ったらハンナのシチューが食べられない! 膝枕不足で死ぬ!」


 最初はあんなに爽やかでキラキラとした王子様のような勇者様だったのに。

 どうしてこうなってしまったのだろう。

 ……いや、原因の半分くらいは私が甘やかし過ぎたせいかもしれない。


 とはいえ、このまま放っておくわけにはいかない。

 子爵領の危機は待ったなしだ。

 私は腕組みをして、ベッドの下の暗闇に向かってため息をついた。


 力ずくで引っ張り出すのは不可能だ。彼は腐っても人類最強の戦士である。

 ならば使うべきは『飴』と『鞭』。

 そして彼の単純な……いや素直な性格を利用するしかない。


「あら、そうですか。残念です」


 私はわざとらしく声を弾ませた。


「あの魔物をさらっと討伐して帰ってきたら、すごくカッコいいと思ったのになぁ」


 ピクリ。

 ベッドの下から飛び出している足先が反応した。


「……『カッコいい』?」


 おずおずとした声が返ってくる。


「ええ、困っている人々を颯爽と助けて涼しい顔で戻ってくるライアス様。想像しただけで素敵です。惚れ直してしまいます」

「……」

「帰ってきた時には全力で『カッコいい』って褒め称えます。それに疲れた勇者様を癒すために、一日中膝枕でお昼寝させてあげちゃいます!」

「一日中!?」


 ガタッとベッドが揺れた。

 効果は覿面だ。

 私はさらに決定的な一言を投下する。


「それにねライアス様。今回の討伐報酬はきっと弾みますよ」


「お金?お金は別に……」


「大事ですよ。私たちの結婚資金ですもの」


 私はしゃがみ込み、ベッドの下を覗き込んだ。

 暗闇の中で光る碧眼と視線が合う。


「お金がないと式も挙げられませんし、そうなると正式な夫婦になるのが遅れてしまいます。私、早くライアス様のお嫁さんになりたいのです……」


 私が上目遣い(ベッドの下相手なので物理的には下目遣いだが)でそう告げると、

 ズザザザッ!!

 猛烈な勢いで彼が這い出してきた。


「わかった。行く」


 立ち上がった彼は先ほどまでの駄々っ子ぶりが嘘のように、凛々しい英雄の顔をしていた。


「僕たちの結婚を邪魔する奴は、魔物だろうが貴族だろうが許さない。すぐに稼いでくる」


「素敵! さすがライアス様!」


 パチパチと拍手をする私。

 彼は満足げに鼻を鳴らし、部屋の隅に立てかけてあった聖剣を手に取った。


「ハンナ、最速で片付けてくるから」

「期待しています!」


 うーん……。

 私に『カッコいい』って言われたくて行動する彼。

 これでいいのだろうか、世界の英雄。

 少し心配になってくるが、結果として人助けになるなら良しとしよう。




お読みいただき、本当にありがとうございます。


もし「面白いな」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ページ下の★マークから評価をいただけますと、作者として大変励みになります。

皆様からの評価が今後の執筆の大きな参考にもなりますので、ぜひお気軽につけていただけると嬉しいです。


これからも激チョロ勇者様を、どうぞよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
ホントに チ ョ ロ い のは誰なのか(笑)
かっこいいって言われるためだけに 隣の領域壊滅させよう魔物倒そうとしてる勇者 またどっかでクローゼットから出てくるんやろな…
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