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第0章:序章

第0章:序文


「もしもし、アルマ君?」

ああ、ミナカタか。どうした、厄介ごとか?

「君にしか頼めないんだ。他の派遣員は全員……」

ふん、そんな危なっかしい話は、アルマにやらせようってか。いや、理由はいい。わかってるよ。お前の顔は立ててやる。よくあることだ。断るつもりなら、電話に出たりしねえ。それで、何をするんだ?……依頼元が……ああ、あの国な。ご大層な主張よりも、小さいので有名な。気が進まねえ、とっととすませよう。用件を言え。


オレは旧知の同業者から電話を受け取り、所定の場所に向かった。東京都郊外。常盤町と呼ばれる小さな町には、特に見るようなものはない。はずだった。


SIDE:MAXIMA


放課後の教室で、何人かの友だちはじゃあね、と帰っていった。みんな部活ももう引退して、卒業までの一ヶ月半は自由な時間がある人もいる。主に私。人によっては、進学先の高校の用事とか、家の事情とかいろいろ抱えているので一緒にいる時間は案外少ない。私は一人帰り道についた。


天気が良くても、風が吹いていても、三年も行き来した通学路は退屈なほど見慣れている。まして一人だから、何かを見てもいちいち感想も持たない。花や草が芽吹くにはまだ少し早いから、ただの寒空の下。私はもしかしたら、驚いていたのかも知れない。


川の向こうの鉄橋を電車が走る。あの線路の逆方向に、三駅行ったところに公立常盤高校がある。私の進学先。そこでまた三年、特に何も考えずに時間を過ごす。小学生の頃は、あまりいい思いをしなかった。何も考えずにしゃべって、のけ者にされることも多くて。中学校では、周りに合わせるようになった。私は、こんなのやりすぎかなと思ったけど、みんなにはそれが普通らしい。だんだん自分が何を言っているのかわからなくなって、考えることもなくなった。たぶん、考えたら気がついてしまう。私、おかしいって。


高校だってそんなに変わるものじゃないと思う。だから、特に楽しみなこともなかった。行っても仕方ないし。でも、他にやることもないし、周りの人も心配するだろうから、行くことにだけはなっている。この先には、何があるだろう。みんなが言うには、進学するか就職するかして、家庭を持つ人もいて、働いて……この先に楽しいことがある気がしなくて、気が重かった。


いつも歩く商店街。寄り道することもときどきあって、店の人にあいさつすることもある。雑貨屋さん、服の安い店、裏路地。……この裏路地には、人がいることがない。だいたい誰に言っても、路地の横、と言うと伝わらない。そんなのあったっけ?って見たこともないみたいに言う。たまにのぞき込むと、野良犬よりももっと大きな何かが目を動かしている。たぶんそういう場所だから、あんまり言わないようにしている。でもその日、路地から出てきた人がいた。あの路地を通る人を見るのは、初めてだ。その人は、身長が高くて、普通より頭一つくらい大きい。全身に目があって、草の根っこみたいな体をしていた。当たり前みたいに歩いて行くけど、周りの人は気にもとめていない。見えてると思うけど、見えていないみたい。その人の後を、私はなぜかついて行ってしまった。


商店街を出て少し歩いたところに、古い建物があった。だいぶ前に潰れた店で、シャッターが閉まりっぱなし。何の店だったか、私はよく覚えていない。その人は、その店に入っていった。……こんなにきれいだったかな。少し前に通りかかったときは、いつも通りボロボロだったと思う。店をのぞき込むと、きれいな女の人が話しかけてきた。


「いらっしゃい、見ていってくれるかしら?」


アクセサリーショップ・アイは、最近オープンしたのだという。中はきれいで、たくさんのおしゃれグッズが置いてあって。私は、今日はお金がないので、と言って一度帰った。店主の女の人、ヒトミさんは残念そうだった。でも、あまり気にしない。お金は、確かにないんだけど……あの店は、たくさん飾っていた。ヒトミさんが浮かべた残念そうな顔も、たぶん飾り。だから、あまり行かない方がいいだろう、そう思って帰った。



「ねえねえモカっち、受験の準備はしてるの?」

私は久しぶりに部室を訪れた。去年の秋前までいた、手芸部で使われている空き部屋。手芸部といっても、真剣に縫い物をしている人はあまりいなくて、やったことがなくても器用な人なら私たちより上手い。私は、自分の進学先が決まったらそれほど忙しくないから、後輩の青山さんに付き合ってもらうことが多かった。青山さんはモカという名前があまり気に入っていないらしいけど、呼ばれたとき反応していたら逆に定着した。私はかわいいと思うから、つい呼びたくなっていつも口に出してしまう。だんだん青山さんも諦めてきたようで、そのことはいちいち言わない。本人は、高校では同じ間違いはしないと意気込んでいる。

青山さんは刺繍を作る手を止めて私と話してくれた。手芸部をしていたときは上手い後輩だった青山さんだけど、冷静になると普通くらい。だから、私たちの学年は本当にできなかったのだ。私は、高校に行っても手芸部だったとは言わないでおこうと思っている。

青山さんも受験は意識していて、家ではそろそろ塾に行かせようかと両親が言っているらしい。勉強が得意なわけではないから不安だけど、三年になったらがんばるって。私の学年にもそういう人がたくさんいて、最後までがんばらずに慌てていたからなんでできるのか不思議だ。私もそうだったからそれが普通だと思うけど、きっと青山さんはできるんだろう。すごいなあ。

青山さんは、今の時間を大事にしたくて手芸部で使う時間が増えている、と言っていた。物を作るのが好きだから、いろんなやり方を知っておきたいって。裁縫だけじゃなくて工作に近いこともやっていて、アクセサリーが壊れたって簡単なやつなら直すことができる。自分でも作ってみたいから、参考になるものを手に入れてマネをして組み立てているらしい。青山さんは、黄色い石のついたリストバンドを見せてくれた。どこかのショップがオープンしたときに配っていたもので、タダでもらえたらしい。タダの割には作りが細かいから、たぶんオーナーさんが張り切っているのだろう、と青山さんが言っていた。黄色い石には、縦に楕円形の黒い部分があって、だいたいどこから見ても同じような模様に見える。変なの。あんまり見たことがないけど、配っているのだから私が知らないだけでありふれたものなのだろう。青山さんに手渡されかけたけど、学校の予鈴が鳴った。もうすぐ校門が閉まるので、二人で出ていった。


青山さんは隣の小学校の校区なので、少し家が離れている。ちょうど、駅を越えたあたりで道が分かれるから、そのあたりまで二人で歩く。いつも通り地下通路に入ろうとしたら、看板が立っていた。古い駅だから、どこかがひび割れて水が漏れている。みんな知っていたけど黙っていて、駅員さんも何もしていないからもう何もしないのだろうと思っていたら工事をするらしい。大人は、年度末だから予算が、と難しい話をするけど、私にはわからない。とにかく地下通路は通れないので、駅の改札前を通った。ふと、目の前に何かが飛んできた。


SIDE:ARUMA


大葉山線、常盤駅。この町は大したものはないが住宅が多く、周辺施設も一通りあると言えばあるので、住むには困らないらしい。もっとも、宿がないので長期滞在には向かず、逐一足を運ばなければいけない。面倒だが、もっと交通の便が悪い場所は他にもいくらでもある。第一、不便だからといって誰かの家を間借りさせてもらえる身分でもない。オレみたいのがそんなこと言い出したら一発で通報する、オレだったら。

本格的な調査は明日から、今日は遅くなったので一度寝てもよかったのだが足を運んだ。最低限の土地勘は得ておいた方が明日の仕事が早い。もう日が暮れようかというタイミングで来るんだから、オレは自分の勤勉さに感心する。世の中の社会人たちは、日が暮れるどころか日付が変わるまで働くヤツらが珍しくないが、そういう異次元の勤労意欲の持ち主のことはいったん棚上げしておく。常盤駅に着くと、ホームから町を眺めた。見るものがないのは知っているし、目で見てわかる調べ物ではない。ただ一つ、気になることがあった。……駅前なのに飯屋がない。腹が減ったらコンビニとか、ファストフードですませるしかない。飯屋がない時点でファストフードも見当たらないので、それも探さないといけない。というか、そもそもないかもしれない。ため息をつくと、コンコースに上がった。


帰り道の学生とか、若い女の子とか、そういう他の利用客と一緒に改札を出ようとしたとき、駅の片隅に何かがいた。他のヤツだったら、新聞紙を広げた上に誰かが寝ているのだろうと思うところだが、まず違う。肌の色が全部緑なので、人間だとしたら変わった地域の出身だろう。オレが知る限り地球上にそういう地域はない。もちろん宇宙人だなどという話があるわけもなく、まあそういうヤツだろうと思って素通りしかけた。すると、その緑のヤツが急に他人の足に手を伸ばした。念のため準備していた指を鳴らすと、音以上の衝撃に驚いたそいつは跳び上がって逃げていった。まったく、人によっては転んだ拍子に立てなくなるヤツだっているのだ。目の前でそうなられたら寝覚めが悪い。

緑のヤツは無理に改札をくぐったので、ちゃんと定期を通した若造が改札機に止められた。まあ、コイツは駅員に頼めば出れるだろうから放っておく。やれやれ、と改札を出ると、緑のヤツがすっころんで倒れていた。頭の上をひらひらと舞う妖精。……物の例えではない。いるんだよ、人の災難を喜ぶヤツが。人間はもちろん、この手の連中もさして変わる物ではない。そんな連中はあまり見たいものではないので、歩み寄って足で適当にはらった。まあ傍から見れば窓に近寄ったように、見えなくもないだろう。ひらひらと飛ぶ妖精は、人混みの間を抜けていった。当然のように誰も見ていない。当たり前だ、あんなものが見えるヤツがザラにいたら人間の文明なんて根本的に違うものになっている。誰も見えないから、この住みづらい世の中なのだ。飛んでいく妖精を見ながら、オレもその方向の出口に向かう。その途中、女の子が二人歩いていた。中学生……そろそろ高校かという背格好。もちろん妖精が飛んでいるなんて思わない、一人は。もう一人は……何かを目で追って、一度振り向いた。気に止めた様子もなく歩いていったが、何を見ていたのだろう。見るようなものはない。すれ違うように通り過ぎた妖精以外は。そんなものは誰も見えないから、こんな世の中なのだ。オレはそう思い直し、自分もガキの頃には無意味にキョロキョロしていたものだとあたりをつけた。オレと女の子は、何の干渉も持たずにすれ違ってお互いに立ち去った。


「MAXIMUM!~放課後魔導奔走録~」

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