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第一話『追放された無能と、死んだ大地』

 新連載です。

 しばらくは毎日投稿です。応援よろしくお願いします!

 冒険者ギルドの地下にある、スキル鑑定の間。俺――レイン=グレイブをはじめとした数人の冒険者候補生は18歳になる年に、正式な冒険者になるためにここで個人が持つ素養であるスキルを鑑定してもらう。


 冒険者にとってスキルは人生を左右する。なのに。


≪鑑定結果:農業≫


 目の前に浮かんだ文字を見て、俺を含めた全員が言葉を失った。


「ぷっ」


 誰かが噴き出す。


「ぎゃはははは! 農業? 農業ってなんだよ、そんなスキル聞いたこともねぇよ!」


 他の候補生たちの冷たい罵声が容赦なく浴びせられる。俺だって聞いたことねぇよ! 農業って畑とか耕すあれだろ? そんなのわざわざスキルにするようなことか。


「レイン、お前には心底失望した。我が冒険者ギルドに農奴は必要ない。今日中に荷物をまとめて出ていけ」

「そんな!」


 ギルド長の軽蔑しきった声に思わず抗議の声を上げたが、竜殺しの異名を持つギルド長に睨みつけられては二の句の告げようがない。下手なことを言ったらぶち殺されそうだ。


「……わかりました」


 候補生たちの哀れみと軽蔑の混じった笑い声を背中に浴びながら、俺はスキル鑑定の間を後にした。

 【農業】なんてワケのわからないスキルのせいで、たったそれだけで俺の人生は無能の烙印を押されて終わった。


 ◆ ◆ ◆


 冒険者候補生として王都に住民登録されていた俺は、その資格を失ったと同時に居住権まではく奪された。いわく、ただ飯食らいを養う道理はないとのことだった。


 何もかもを失い、数か月の放浪の末、廃墟と化した村の跡地にたどり着いた。

 石垣は崩れ、建物は風化し、大地はひび割れて、まさしく死んでいるとしか表現しようのない土地だった。


「こんな場所でも雨風はしのげるか」


 すっかり日が暮れて、このまま歩き続けるのも危険だし、何より疲れた。

 俺は廃屋の中に荷物と腰をおろし、壁に背中を預けて目を閉じる。


 ――くるしい。

 ――たすけて。

 ――・・・さま。


 まどろみの中、女の子の声が聞こえた気がする。

 こんなところに人がいるはずはない。睡魔に逆らうことができず、俺はその声を聞かなかったことにした。



 翌朝、まぶたに朝日を感じて目を覚ます。

 心地いい春の風が吹く、忌々しいくらいさわやかな朝だった。


「昨日の声、気のせいだよなぁ」


 一人旅が長くてすっかり独り言の癖がついてしまった俺は、皮袋の水を飲みながら廃屋の外に出る。


 昨日は暗くてよくわからなかったが、こうして明るい状態で見てみればそれなりに大きい村だったことが分かる。

 しかし、この荒れ果てようは10年やそこらの荒れかたじゃない。


 少し歩いてみると、かなり広い空き地がある。おそらく、広さ的に畑か何かがあった場所だろう。今は見るかげもない。


「こりゃあ、完全に死んでるな。せめてもうちょっとまともな状態なら【農業】とやらで暮らせるかもしれなかったけどなぁ」


 そうつぶやきながら地面に触れると、


≪【農業】起動:土壌解析・・・土壌汚染を検知。【土壌改良】の使用を提案≫


 へえ、このスキルはそんなこともできるのか。案外、暮らしていくだけなら便利なスキルなのかもな。

 俺は軽い気持ちで【土壌改良】のスキルを使用する。


 地面に両手をつくと、そこから一気に光が広がってひび割れた大地に潤いが戻り、剣ですら弾きそうなほど固まっていた土が素手で掘り返せるほどに柔らかくなった。触れている手のひらからは息遣いすら聞こえてきそうだ。


「まことにありがとうございます。そして、お待ちいたしておりました。神農さま」

「うえ!?」


 突然後ろから声をかけられて、俺は思わず情けない声を上げながら振り返ろうとして、盛大に転んだ。


 そこにはそこにはゆったりとした丈の長いローブに身を包んだ、俺と同い年くらいの女の子が立っていた。

 薄緑色のゆるくウエーブがかった髪を肩に垂らし、ローブから覗く手足は細く、白い。髪と同じ色の大きな瞳が印象的な、とても整った顔立ち。一言でいえばものすごくかわいい。同時に、こんな廃墟にはまったく似合わない。


 化かされているのかと一瞬身構えたが、その声に聞き覚えがあった。

 昨日の夜、どこからかかすかに聞こえたあの声だ。


 女の子は俺の前にひざまずき、心配そうに眉根を寄せる。


「突然のご無礼をお許しください。私めの名はエルナ。たったいま、神農さまによみがえらせていただいた、大地の精霊でございます」


「大地の精霊? よみがえらせた? 神農さま?」


 何を言っているのか、ひとつも理解できない。


「はい。【農業】のスキルをお持ちでしょう」


「そうだけど」


「そのスキルは大地を守護する神の代行者であらせられる証。すなわち、神農さまのことでございます」


「は?」


 そう言って、エルナと名乗った女の子はうやうやしく俺に頭を下げた。


「私めは神農さまにお仕えすべく地上に遣わされましたが、力を失いこの地に封印されておりました。まことにお恥ずかしい限りです。厚かましい願いではございますが、私めを神農さまのおそばに控えさせていただく許しを賜いたく――」


「ちょ、ちょっと待って」


 あまりにも口調が固い。何を言ってるのかわかりづらい。


「俺が、その、神農? で。君はエルナ、さん」


「私めに敬称などあまりに畏れ多いことでございます。どうかエルナとお呼びくださいますよう」


「ああ、まあ、それで気が済むならそうさせてもらうけど。あと、もう少しなんというか、砕けた口調にしてほしいな。ちょっと怖いよ」


「承知いたしました。ん、ん、あー……それでは神農さま。この大地の再生を、ぜひ私にお手伝いさせてください」


 大地の再生?


「いや、俺は単なる冒険者崩れで、剣を振るしか能のない……いや、剣を振ることすらまともにできない能無しなんだ。そんな大それた人間じゃ――」


 俺が言い終わるよりも前に、エルナが俺の手を取って両手で包み込んだ。


「この手は野蛮な剣を振るうためのものではありません。もっと壮大な、この大地をよみがえらせるための手です!」


 そう言ったエルナは俺を引き起こし、両手を広げる。


「さあ、【農業】しましょう」


 そう言ってにっこりと笑うエルナの顔を見ていると、さっきまで握られていた指先がじんわりと熱くなる。

 ここで、もう一度……。


「やるか、【農業】」

「はいっ!」


 無能と蔑まれ、何もかもを失い、終わってしまったはずの俺の人生。

 この最果ての地と一緒に再生してみよう。

 連載のモチベーションにつながりますので、応援・拡散よろしくお願いします。

 やる気が出ます。

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