陸
横殴りの雨は、ベランダの掃除にはもってこいと、どこかのライフハックか何かで見た事があり、横殴りの雨の中スプレー洗剤を持って意気揚々とベランダに出た。
窓に打ちつける雨、ベランダにあるごみや汚れを雨水が洗い流してくれると、洗剤を網戸や窓に吹き付け、ブラシで擦り、また窓に吹き付けブラシで擦りを繰り返しているうちに体も当然びしょぬれになる訳で。
掃除をしているうちに段々寒気と、客観的に見てどうなんだろうか、という思いで、最初の意気揚々はどこかへ洗い流されてしまい、意志が挫かれてしまった。
部屋の中に誰かが立っていた。
誰もいないはず、彼女が出掛けている間にベランダを綺麗にして、普段はなにもしないが
こういったこともするんだぞと、プチ自慢。
驚かすためベランダで悪戦苦闘しているのに。
思わず窓を開けて中に入ろうと、窓に手を掛けたが全く動かない、相変わらずそれは微動だにしなかった。
慌てて何度も窓を開けることを試すが、同じだった。
背中に寒いものが走ったのは、横殴りの雨の所為だけではなかった。
半分パニックになりながら何度も開けようとしたが駄目だった。
仕方ないと手に持っていたブラシの柄で窓をたたき割ろうとした瞬間。
もう片方のカーテンが閉まっている窓から、どうしたのと言う声とカラと窓を開ける音がした。
どうしたのとカーテンの向こう側で再び彼女の声が聞こえた。
こんな雨の日に、外で何してるの。ただでさえベランダの窓は外からは開けにくいのに、雨の日なんか余計に開け難いのに、と。
誰かいなかった?とカーテン越しに聞くと、さあ、おおよそ自分の影がガラスに反射したんでしょと。
部屋の奥にその声は遠ざかって行った。
ベランダから部屋に入るとバスタオルが、足元に畳んで置いてありそれを拾い、濡れた体を拭きながら、消えた彼女の方を目をやった。
ふと、また違和感があった。
彼女は、なぜ私が悪戦苦闘していた、開けようとする窓を開けずに、カーテン側を開けたのか。
外は相変わらず、窓を雨が叩きつけていた。
メヲ通してくだサリ誠にありがとうございます