肆
台所、キッチンから物を焼いている音と、匂いがする。
今晩のおかずでも作っているのだろうか、居間でくつろぎながら、ソファの後ろが流し台、キッチンになっていて、彼女とは自分の背中越しに何気ない会話を交わしていた。
急に水道の蛇口を吐水にしたのだろうか、会話の途中なのに水流の音が、会話を遮った。こう、聞いてみると水の流れる音は、音程が高く周りの音を掻き消す。
洗い物が終わったのか、水の音がピタリと止み、それまでの話の続きをしようにも、どんな話をしていたのか思い出せないでいた。
暫く考えて、話題も尽きてきたので、首を捻り彼女の居る方のキッチンに目を向けると、ライトの点いていない全くの暗闇のキッチンが口を開けてジッとしていた。
エッと思わず立ち上がり、彼女は何処に。
今まで、しゃべっていたのは、と急に冷や水を被るように寒気が走った。
キッチンの下の棚から所謂シンクキャビネットから声がした。
姿はこの角度からは死角となって見えないが、どうしたの、醤油が見当たらなくて、といつもの彼女の声が、その下から響いてきた。
何でもないと言いながら、ソファに座り直し、配信を続きから見直した。
そういえば、と会話を続けながら、違和感を覚えながら、話を続けた。
灯りの点いていない真っ暗な所で探し物。
再び、水の流れる音と、食器の音。
真っ暗なキッチンで彼女は何を。
めをとおして下さり誠にありがとうございます。