参
風呂洗いは、独身の頃から、やったことが無く、汚いと思われるかもしれないが、どうせ洗うのだからと、体を洗うのと同時にやってしまう。
湯船につかり、最後に湯船の栓を抜くと同時に、お風呂洗剤を風呂場中に撒き風呂場中を泡だらけにし、ブラシで一気呵成に洗いまくる。
こうすれば、お風呂洗いの時に流す汗もシャワーで一緒に流すことが出来る。
彼女は、あまりいい顔をしない。
ちゃんと洗っていないように見えるからだという。
俺は、あくまで合理的な行動を求めている。
すりガラス、すりアクリルとでもいうのだろうか、その向こうで黒い影が、彼女が僕の着替えを置いてくれているのだろう、その影が蠢いていた。
泡を流すシャワーの音は、その浴室一杯に響き、蠢いている彼女の物音を搔き消していた。
影が異様に大きくなっていることに、気が付いた。
徐々にではあるが、すりガラス一杯となった彼女の体の体積をはるかに超える位に。
たまらず、それでいて恐怖に打ち勝つため、浴室のドアを思い切って開け放った。
真っ暗であった。
脱衣所の灯りが消えていた。
影ではなく、単に灯りが消えていただけだった。
徐々に大きくなっていたことを否定するかのように。
消えたなら、徐々に大きくならないだろうに。
暗くなったことが、影として錯覚してしまったのだろう、と自分を説得した。
めを通して下さり誠にありがとうございます。